She’s Mercedes meets Japan / Vol.7

東京 銀座(旧東海道)前編 銀座もとじ 泉二弘明、啓太

photo/ 濱野智(glife)
text&edit/石崎由子(uraku)
navigator/田沢美亜(uraku)

伝統と革新が交錯する都市東京から始まる旧東海道

新しい年を迎えたと思ったら松の内もすっかり過ぎて、慌ただしい日常が戻ってきました。メルセデスで巡る旅、2018年初めての掲載です。今年は昨年よりさらに広がりを持った旅をご紹介していきたいと思っておりますので、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
2018年初めてとなる第7回目は、今年、名称を改めて150年の節目を迎える「東京」のシンボリックな街、銀座から東海道に向けて旅をします。
銀座という街は江戸時代から存在はしましたが、今のような栄えた街ではありませんでした。新政府になり東京と名を改め、新橋まで鉄道が開通したことにより、モダンな商業都市として栄えていったとのことです。
そんな伝統とモダンが交錯する東京ならではの街「銀座」を走る今回の旅のお供は、安定感とアクティブ感を併せ持つC 180 Laureus Edition。カラーはポーラーホワイト、内装はレザーARTICO、という仕様、東京の街に合う、さりげないラグジュアリー感が魅力的です。
最初に訪れたのは、まさに伝統と革新に常に挑戦し続けている呉服屋「銀座もとじ」店主の泉二弘明さん、二代目啓太さんです。
お二人に、伝統を受け継ぎながら変わりゆく東京の街に沿った革新に挑戦し続け、銀座という街の未来をつなげていく思いと夢を伺いました。

奄美から銀座へ繋げた大島紬

銀座4丁目の交差点ほど近くにお店を構える「銀座もとじ」さん。その店構えは私たちがよく想像する呉服屋さんとは全く違った印象のお店です。ギャラリーのような要素と、モードなブティックの要素を併せ持った革新的とも言える店構えが魅力的なお店です。もとじさんへ伺うということで、私も今日は和装でお出かけです。
お店へ伺うといつものようにスタッフの皆さんが優しい笑顔で迎えてくださいます。
入り口には新年らしい美しい刺繍と染めの着物がディスプレイされていて柔らかな冬の日差しが心地よい時間です。このお店に通うようになって8年ぐらい。初めて訪れた時は和装の知識も乏しく、ただただ美しい着物を見たい、反物に触れてみたいという思いを持つ初心者の私でしたが、あの時もスタッフの皆さんは変わりなく、優しく接してくださいました。このお店の魅力は、素晴らしい品揃えと、プレゼンテーション、そして温かい空気感なのだと思います。本日はそのお店の謎に迫ろうと店主の泉二弘明さん二代目の啓太さんにいろいろと伺おうと思っての訪問です。
銀座でこれだけの店舗を構えているのだから、さぞかし老舗なのかと誰もが想像してしまうのですが、実は現在の店主、泉二弘明さんが一代でここまで大きくしたお店だというから驚きです。

もともと泉二弘明さんは陸上選手として奄美から東京の大学へ進学しましたが、怪我で続けられなくなってしまったのだそうです。夢破れた若き泉二弘明さんは、しばらく無気力な状態へと陥ってしまいますが、ある時、上京した際に母が父の形見として、カバンに忍ばせてくれていた大島紬を何気なく羽織った時、直感的に「これだ!」と感じたのだそうです。
“どうせやるなら銀座に店を!”という夢を掲げて一から修行し、30代で独立を果たします。初めのお店は今の所より東銀座寄りの、昭和通りを渡った辺りだったそうです。
そして今度は“昭和通りを渡りたい!”という思いを描き、見事に50歳の時に現在の場所へお店を移し、兼ねてから考えていた従来の呉服屋とは違った店構えでのオープンを果たしたそうです。いつもエネルギッシュにお話ししてくださる泉二弘明さん、もともとアスリートだったと伺って納得です。勝負強さと、直観力、諦めない根性と逆境を乗り越える底力、苦労人だからこそ持つ、人の温もりがこの店の根底には流れているのだなと感じました。泉二弘明さんがおっしゃっていた「その時その時にしかできない仕事がある、30代には30代の、40代には40代の、50代には50代のやるべきことがあるのです」という言葉が深く心にしみてきました。60代の今、未来につなげる仕事を実践中なのだそうです。

外から日本を見つめるという事

さてそんな熱い思いを抱いている泉二弘明さんの息子さん、二代目啓太さんですが、子供の頃は父親の仕事が嫌で嫌でしょうがなかったようです。毎日和装の父、周りの友人の父とは異質の父が子供心には受け入れられなかったようです。全く家業を継ぐ気もなく、自分はファッション関係の職に就こうとイギリスの大学へ留学し、そこで初めて海外から日本を見ることとなり日本を強く意識するようになります。また同級生たちが興味を示している和装について、呉服屋の息子なのに何も知らないという現実と、極め付けはイタリアで待ち合わせした時に見た父親の和装姿のかっこよさ、それらの体験から、あれほど嫌だった和装の世界に魅力を感じ、継ぐことを決めたのだそうです。
実際に足を踏み入れてみるとあまりにも奥が深い世界、自分はまだまだですと啓太さんは語ります。“現場で自分たちの目で見て聞いて感じる事”が「銀座もとじ」のスタイルであった事が、何も知らなかった啓太さんにとってはたくさん学べる機会となったのだそうです。そんな啓太さんが海外で学んだモードな感覚を柔軟に取り入れたプレゼンテーションが、さらに「銀座もとじ」の魅力を深めていっているような気がします。

メイドイン銀座がもたらす効果

現在「銀座もとじ」さんでは作家さんや産地、そして銀座の街を盛り上げるために様々な活動を行っています。
一つは、始めてからもう20年になるそうですが、銀座の泰明小学校で、銀座の柳と奄美の染めを使った柳染めの課外授業を行っています。泰明小学校は啓太さんの母校なので啓太さんも思いはひとしおとのこと、20年目を迎えた昨年は泉二弘明さん母校である奄美大島の小学生と銀座の小学生との交流も生まれ、未来につながると嬉しいですと語ってくださいました。
その柳染めは銀座のシンボルとも言える柳の木を剪定した後、枝葉を集めて作家さんや各産地へ送り銀座の柳染めの反物を制作しているそうです。銀座ならではのものづくりというわけです。
また、蚕が繭になる時期に一時的に銀座のお店で飼育してその工程を見ていただくというイベントも行っています。蚕が綺麗な繭になっていくところは神秘的な瞬間です。
そして2017年春に泉二弘明さんがずっと温めていた「銀座生まれの大島紬」を制作するという取り組みもスタートさせました。店頭に機を置き、実際にこの場所で反物を降り上げていきます。お客さまに織り上がっていく工程を見ていただき、その繊細で複雑な作業を体感していただくという事だけでなく、作り手がお客様と直接会話する事で作り手側のモチベーションアップにもつながるのだとか、このようにして今までの販売店ではなかった製作者とお客様の間を近づける活動です。今までもお客様を産地へお連れして、制作現場を体感していただく活動は行っていましたが、もう一歩踏み込んだスタイルだとも言えます。

世界で一番繊細な絣

泉二弘明さんをこの世界に導いた特別で思い入れの強い大島紬、その大島紬を「メイドイン銀座」でという試みでは、お客様に大島紬の繊細で複雑な工程がわかるようにと、お店では様々な工程途中のサンプルが置かれています。私たちも啓太さんに少し詳しく教えていただきました。
大島紬はなんと30以上もの工程を経て出来上がるのだそうです。
中でも、絣糸を作る「絣締め」と言われる工程は、締機を使う大島紬独特の作業です。そこでは、図案に合わせて絹糸の絣部分を防染するために、木綿糸で織り締めて絣筵(かすりむしろ)を作ります。そして、大島紬のもう一つの特長である「泥染め」の工程は、自生するテーチ木を煮出した染料を用いたテーチ木染めと泥染めを交互に何度も繰り返し、化学染料では表現しえないあの独特な深みのある黒褐色に染め上げます。
そして、その絣筵をほどき、染め上った絹糸を機に掛け、平織で織り上げていきます。
この、気の遠くなるような工程の複雑さが世界で一番繊細な絣を生み出す紬と言われる所以だと思います。こうした数多くの工程を経て作り上げられる反物は、生地自体の存在感と圧倒的なエネルギーを感じます。
勉強のために様々な産地へ赴いた啓太さんはとにかくその生地の持つエネルギーの素晴らしさに魅了されるとおっしゃいます。
そんな啓太さんは泉二弘明さんから引き継いた新たなスタイルの呉服屋と、改革と未来につなげる活動を、さらに盛り上げる夢があるのだと語ってくださいました。
現在の和装は日常のワードローブの選択には入っていないので、ワードローブに入るような提案をして、日常のおしゃれの選択肢に入れたらと、まさに銀座らしい伝統とモードをバランスよく取り入れたスタイルの発信を考えていきたいのだそうです。
この発信は和装だけの事でなく、伝統的なスタイルや道具や器具など全てに提案していけたら、職人さんの持つ素晴らしい技や、産地の産業の未来が繋がっていくのではと、昨年半年間でこの旅日記で出会った職人さんたちのことを思い出していました。
「銀座もとじ」のお二人は、未来をしっかりと見つめて、いつも挑戦しながら走り続けている頼もしい存在なのだと感じました。


 

店舗データ

銀座もとじ

銀座もとじ

〒104-0061 中央区銀座4-8-12
tel:03-3538-7878(和織)
tel:03-3535-3888(和染)
tel:03-5524-0071(ギャラリー泉)
男の着物
〒104-0061 中央区銀座3-8-15
tel:03-5524-7472
大島紬(大島紬専門店)
〒104-0061 中央区銀座3-8-16
tel:03-3535-3871
http://www.motoji.co.jp
営業時間:11:00~19:00
専用駐車場はございませんのでお近くの駐車場をお使いください。

<urakuプロフィール>  http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とTOKYO DRESS などのプレスやアパレルブランドのディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)の2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えていく事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。

<Special Thanks>
銀座もとじ
Continuer:Sunglass

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