She’s Mercedes meets Japan / Vol.14

静岡県 熱海市(東海道)後編 七尾たくあん 岸浅次郎商店

熱海の食文化を伝える熟成たくあん

「uraku」の旅紀行、温泉地として有名な静岡県熱海市への旅もいよいよ最終回。食通からも高い評価を集めている七尾たくあんの名店を訪ねます。

photo/ 濱野智(glife)
text&edit/石崎由子(uraku)
navigator/田沢美亜(uraku)

熱海の海辺から山の方へ

ゆったりと優雅な空間「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」さんの、こだわりベッドの寝心地の良さに感動しながら目覚めた後に、美味しく楽しい朝食も堪能した私たちは、女将さんとシェフの三浦さんに見送られて、次の目的地「七尾たくあん 岸浅次郎商店」さんへ向かいます。最初に訪れた「釜鶴ひもの店」のある熱海市街地へまた高台を下り進んでいきます。前回に引き続き車は、E 200 Cabriolet Sport。カラーはダイヤモンドホワイトです。お天気も良いのでオープンカーだと風も心地よく気分は上々です。乗り心地と走りの軽やかさがより一層強く感じられます。
「七尾たくあん 岸浅次郎商店」さんは海沿いの市街地から少し山側、來宮神社さん近くのお店が立ち並ぶ所にあります。海辺とはまた違った熱海の自然が感じられる場所です。程なく、たくあん色の暖簾が見えてきました。

初体験の味、3年熟成、7年熟成

「七尾たくあん 岸浅次郎商店」さんは、昭和21年創業で、現在2代目の岸秀明さんが商いを行っています。オープンした頃は豆菓子を製造販売されているお菓子屋さんだったそうですが、先代がこの辺りで名産の「七尾たくあん」を中心にお漬物に特化したお店にしようと、経営方針を転換されたそうです。七尾たくあん自体は、地元の農家さんが食されていた郷土料理で、明治初期頃からこの熱海での特産品となり、七尾地区の農家さん中心に、熱海の旅館などに卸すことを中心に作られていたようです。
こちらのたくあんは無添加で、ぬかと塩と大根以外は使用せず、昔ながらの製法で作られていることで食通の人には知られています。たくあんは、一部シーズン物の浅漬たくあんを除いて、最低でも3年熟成から販売されており、今では7年熟成のものも販売しています。味わいは食べたことのない深みがあり、程よい塩味とパリパリした食感が、後を引く美味しさです。試食していて白いご飯が食べたくなってしまった程です。
美味しさに感動していたら、七尾地区で漬けている倉庫へ案内してくださるとのこと。
早速移動することにしました。

良い塩梅を見極める

熱海の海岸線を右に見ながら進み、もう少し山を登った七尾という地名のあたりにたくあんを漬けている倉庫があります。
街中よりも少しひんやりとした空気のこの場所は漬け込むには最適な場所なのだそうです。倉庫の中に空調設備は一切ありません。ここに住み着いている「酵母菌」たちを保つため、つけていないのだそうです。
1樽に200〜250本の大根が漬け込まれていて、1年、2年、3年と分けられています。
7年まで札はありました。1年目の樽が置かれているあたりは、酸味を感じる香りがしますが、3年目の樽の辺りは、ほんのり甘い香りへと変化してきます。
発酵が進み変化しているのだそうです。樽の蓋も下へ沈み体積が減っているのを感じます。この発酵をうまく促すように、途中腐ったりしないようにするために、樽へびっちり隙き間なく詰めて、その大根の水分と詰まった量を見極めた良い塩梅の塩の量を使用するのだそうです。この道50年の職人さんが干されていた大根を、おろしたその日のうちに、漬け込むのだそうです。この塩梅次第であの美味しいたくあんができるのかと思うと、本当に感動してしまいます。
もちろん大根の品質、気候、土質もたくあんの出来に大いに影響します。
土質は火山灰質、気候は干す時に乾きが良く、夜冷えすぎず大根が凍らないこと、つけ込む時の成長具合や干し加減などなど、いろいろな工程の具合を岸さんは農家の方と、絶えず研究と試験を繰り返しているのだとか。たくあんへの見方が変わるような味を作り出す理由が、ここにあるのだなと思います。

未来へつなぐ食文化

倉庫を後にして、お店へ戻る車中ので、岸さんは色々と移り変わる熱海の事情などや、未来に向けてのお話をしてくださいました。
私も今回熱海を訪れて、マンションの多さには驚いたのですが、一時期低迷していた熱海は海外からのお客様や投資家の影響もあり、また開発が進んでいるのだそうです。
今現在熱海にお部屋は推定1万室あると言われているのだとか。そのうち熱海でお住いの方は20%ぐらい、他の80%はリゾートとして所有されていて、ホリデイなどで訪れる方達なのだそうです。高度成長期の頃からどんどん進んだ開発のおかげで、七尾の土地で大根を栽培している農家さんは、今は激減してしまったそうです。
岸さんは、倉庫だけこの地に残し、昔ながらの気候、風土を保つ別の地区の契約農家さんと共に、干大根の生産をしているのだそうです。「七尾たくあん」という郷土の特産品がこの土地から失われる可能性があるということなのだなと、どこの土地でもおこりうる危機感を感じました。
そんな開発の渦の中、岸さんは昔ながらの樽で、手作業でつける古漬けという地元の発酵食文化を、残していきたいと日々奮闘されています。開発という問題だけでなく、最近は異常気象等で昔ながらの製法そのままでは品質を保てない様々な問題が起こるのだそうです。
また、この旅で頻繁に耳にする、後継者不足の問題もあります。農家さん、漬け職人さんの後継者を育てていかなければ未来につなげることはできないなと思っていらっしゃいます。
奈良の時代から続く伝統ある温泉地が伝えてきた文化の中でも伝統的な食文化を、岸さんは未来につなげているのだなと、たくあん色になった夕日を見ながら、熱海を後にしました。

 

店舗データ

七尾たくあん 岸浅次郎商店

七尾たくあん 岸浅次郎商店

〒413-0019静岡県熱海市咲見町12-12
tel: 0557-82-2192
https://www.asajirou.net
定休日:木曜日
営業時間::9:00~18:00
専用駐車場はございませんのでお近くの駐車場をご利用ください

 
<urakuプロフィール>  http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とTOKYO DRESS などのプレスやアパレルブランドのディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)の2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えていく事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。

<Special Thanks>
ne Quittez pas:Dress
Continuer:Sunglass

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