
旧東海道を進み「日永の追分」へ
節分も過ぎて、2018年が本格的に動き出し始めたなと、感じる時期になりました。さて今回は前回通った旧東海道をどんどん進んだ先にある三重県を訪れてみることにしました。この旧東海道は四日市市で、伊勢街道と分岐している「日永の追分」があります。そのまま進むと、京都へ到着し、分かれ道を進むと伊勢神宮へ向かうというわけです。四日市市は古くから東海道の宿場町として栄えた町で、現在も伊勢湾に面した三重県最大の都市です。しかし郊外まで足を運ぶとお茶畑が広がり、また違った風景がみられるところが魅力的でもあります。
一面のお茶畑はドライブすると、とても心地よい場所です。今回の旅のお供はGLC 220 d 4MATIC Coupé Sports のカラーはヒヤシンスレッド、内装は本革仕様です。少し長距離の旅になりそうなので安定感のあるやや大き目の車体です。旅の荷物などもたっぷり入るゆったり空間で心地よく走ります。
私たちは「日永の追分」で、伊勢の方へ進み、隣の鈴鹿市に入って今回の目的地へ向かいます。目的地は鈴鹿市の白子で、伝統の伊勢型紙彫刻師の那須恵子さんと師匠の生田嘉範さんの工房です。お二人に、繊細で、美しく、キレのある伊勢型紙を受け継ぐ苦労と、またその技術や環境を未来へをつなげていくための努力と活動を伺いました。
度肝を抜くほどの繊細さ
鈴鹿市白子の住宅が並ぶ一角に伊勢型紙彫刻師、生田嘉範さんの工房はあります。そこに、この世界に飛び込んで8年目の那須恵子さんも作業をされています。
工房へ入ると2台の作業台が並んで置かれていて、お二人は仲良く並んで細かな型紙彫りの作業をされていました。小春日和のやわらかな冬の光が入る工房は、穏やかな時間が流れていて、慌ただしい時間軸で動き回っている私たちの環境とはまるで違った心地よい空間です。そんな場所で、とても繊細で極々細かな作業を黙々とされています。
静かでゆっくりとしながらも情熱的で、熱のこもった技が手元で繰り広げられているのです。
まずは、その細かさに度肝を抜かれます。伊勢型紙は、このメルセデスでの旅で以前訪れた、小川和紙の森田千晶さんや、長板中形・藍形染作家の松原伸生さんの工房で見せていただいたことは何度もありますが、実際彫られているところを見るのは初めてです。とにかく繊細で気の遠くなるような細かさに、人間の技の素晴らしさを感じます。
伊勢型紙とは主に着物の生地の柄や文様を染めるために用いるもので、実に千年近い歴史があるそうです。和紙を加工した紙(型地紙)に彫刻刀で柄や文様を丹念に彫り抜いて作製します。とにかく高度な技術と根気が必要な技で、伝統的工芸品の指定も受けています。彫りにも種類があり、縞彫り、突き彫り、道具彫り、錐彫りとあり、それらの技を巧みに使いこなし繊細な柄を作り上げていきます。
こちらの工房は突き彫りの工房だそうです。もちろん実際は全ての技を使いこなしていらっしゃいますが、それぞれ専門というものがあるそうです。
突き彫りというのは彫刻刀を刺し、前へ前へと彫り進んでいく技で、イメージしていた型彫りとは全く違っていて、その技法も驚きでした。型の細かさに合わせて型地紙を数枚重ねて彫り進んでいきます。一つ一つ集中して丹念に彫り上げていくのです。
天性の仕事に出会う
こんな複雑で難しい技術の職人の世界に、那須さんがなぜ飛び込んだのか、とても気になるところです。その問いかけに作業の手を緩めて答えてくださいました。
この世界に入る前、那須さんは印刷関係の仕事の会社で働いていて、イラストを筆で描いたり紙を切って制作する仕事をしていたそうです。仕事自体は楽しかったそうですが、だんだんと、タイムカードで縛られたり、会議などに参加したりなどなく、自分のやりたいことを、時間など気のせずとことん打ち込めて、定年などなくずっと続けられる仕事がしたいと思うようになったそうです。その思いから会社を退社し、工芸の職人さんにお会いしたりしているうちに、この伊勢型紙に出会ったのだということでした。紙を切ること、柄や模様などに携われるというところが向いているのではと感じ、早速伊勢型紙の仕事先を探しますが、この業界が抱える問題があり、なかなか大変だったそうです。
それは、伝統工芸や、手仕事の世界でよく耳にすることなのですが、日本を代表する伝統工芸伊勢型紙の世界でも同じで、需要の先細りと道具、素材などの変化や不足により、とても継承は困難という理由で、那須さんが訪ねた頃の伊勢型紙の業界は、現在存在する親方さん達(70歳代の方がほとんどだそうです)の代で、終わりであろうと誰もが思い、弟子など取らない状況になっていたそうです。
ところがせっかく好きで向いている仕事を見つけた那須さんは諦めませんでした。何度も何度も通い、様々なルートに働きかけ、やっと今の師匠の元へ通うことができるようになったそうです。師匠の生田さんに伺うと、趣味の程度に技術を学びたいのだろうなと思い、はじめは一年で終わるかなと思っていたそうです。ところが那須さんはそうではありませんでした。8年目に突入し変わらず学びながら、今では型紙を納品できるようになり仕事では独立している状態なのだそうです。気が付いてみればこの業界では実に約30年ぶりの新人伊勢型紙彫刻師が誕生したというわけです。
この仕事は本当に向いていて、やってもやっても苦痛でなく、とにかく楽しいのだと笑顔で話してくださいました。こんなに大好き、と言える仕事に出会えるなんて、本当に幸せなことなのではと、見ていて羨ましくなってしまいました。
細かくて繊細な様々な工程
現在作業している型紙を見せてもらうと、複雑で細かくて、本当にびっくりしてしまいます。感動している私たちに、親方である生田さんの技術には到底およばないと伺い、生田さんの作品も見せていただきました。この道50年以上の生田さんの技術は、もはや言葉にはできませんでした。人間の技の極みを見せていただいたといった感覚です。
こんなことができてしまう「人」いうものに感動してしまいました。
また彫りの技術の細かさと同じぐらい柄合わせの繊細さも驚きます。
型紙を作るには、まず1つのパターンの模様をデザインし、その型紙を作ります。型紙の型紙といった感じでしょうか、その元型紙を使って、模様を繰り返し、つなぎ目がうまく繰り返すようにつなげて、もう一回り大きなパターンを作り上げます。その型紙も染め師さんたちがうまく繋げられるように実にうまく模様を組み合わせて完成させます。
その図案を型地紙に墨で写し、そこから高度な技術で彫り初めるというわけです。
さて、その技術を支えるのが道具や材料たちですが、大切な彫刻刀と、お手入れの様子も見せていただきました。彫刻刀は自分で作るのだそうで、日々のお手入れがかなり肝心で、作品にも反映されてしまうのだそうです。彫刻刀も細かくて、繊細なものばかりです。
材料の方は、実は継承者や需要が不足していることに反映して、昨今では入手が難しくなってきているのだとか、美濃和紙を重ねて柿渋で貼り合わせ作られる型地紙も限られた供給元になってしまったり、空白が多い図案の型紙に施す紗張りという工程に必要な「紗」も生産中止になってしまったのだとか、現在「紗」の代わりになる素材を模索中だとのことです。未来につなげていくという事に、いかに苦労しているのかがうかがえます。
手仕事の高度な技術の継承
現在、伊勢型紙は着物の需要の減少に伴い、着物染めの型紙だけでなく、インテリアなどにも販売先を拡大しているそうです。また後継者の確保のための活動も少しづつ復活し、未来を担う若手が、那須さんを筆頭に少しずつ芽生えてきているそうです。
那須さんのような若手の誕生は、親方である生田さん達世代にとって、やはり嬉しい出来事だそうで、優しい眼差しで那須さんとの話をしてくださいました。
那須さんはというと、せっかく見つけた天性の仕事、この仕事がいつまでも続けらられるように、販路を確保していきたいとのことです。伊勢型紙はもう手に入らないと思っていらっしゃる染め工房の方が多くいらっしゃると聞くので、まだ存在していて、供給可能であることを、まず伝えたいと強く語っていらっしゃいました。
メルセデスの旅で、何度も耳にするこの悲しい現状は、今まで日本を支えてきた手仕事と高度な技術がどんどん失われているということです。とにかくつなげることができたらと皆さん揃って口にされます。私たちも微力かもしれませんが、できるだけお手伝いできたらと心から思いました。安くてたくさんの生産物とは明らかに違う、輝く逸品の価値を大切にできるゆったりとした未来のために、私たち日本人はちょっと立ち止まる時期なのかもしれません。
工房データ
伊勢型紙彫刻 那須恵子

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