She’s Mercedes meets Japan / Vol.6

千葉 君津市(旧久留里街道)前編 長板中形・藍形染作家 松原伸生

photo/ 濱野智(glife)
text&edit/石崎由子(uraku)
navigator/田沢美亜(uraku)

アクアラインをわたり旧久留里街道へ

メルセデスで巡る旅、2017年最後となる第6回目は、千葉県君津市の方面をめざし、旧久留里街道だった路をドライブしながら巡ります。
アクアラインをわたり木更津へ、そのまま旧久留里街道に沿って久留里まで行き、その先の亀山の方まで足をのばしてみました。
今回の旅のお供はハイレベルなドライビングが期待出来るMercedes-AMG A 45 4MATICカラーはジュピターレッド。サーキットでも対応出来るほどの馬力と加速がありながら、安定していて、細やかな動きにもぶれない足回りが、少し遠出となる今回のドライブには最適です。
最初に訪れたのは江戸時代から続く長板中形・藍形染の技術を継承し、作品を発表し続けている松原伸生さんです。
松原さんに伝統を受け継ぎ、時代に寄り添った作品の発表を行いながら、次世代に受け渡し、繋げていくご苦労と思いを伺いました。

綺麗な水を求めて君津へ

千葉県君津市は房総半島の内陸地が市の大半をしめていて、海に面した場所が少ないところです。君津市中央の山間を蛇行しながら流れる小櫃川(おびつがわ)や、湖や池などが数多くある水の豊かな場所で、実際に「平成の名水百選」にも選ばれたところでもあります。暖かく南国っぽいイメージの房総とは少しちがって、内陸でやや標高も高いせいか、夜になると吐く息も白く、ひんやりとした空気が気持ちの良い場所です。
今回訪れた、松原さんの工房は特に内陸部にあり、周りは河や湖で囲まれている場所です。ぽつんと1軒だけ自然に囲まれた場所にあり、工房へ訪れる為だけにある橋を渡らなければならないほど、一般生活の場所と切り離された様な場所にあります。
松原さんが引き継いでいる「長板中形」は、江戸時代から続く型染め技法の一つで、
かつては江戸で製作営業をされていました。祖父は人間国宝の松原定吉さんで、お父様は松原利男さん、お父様のご兄弟もみなさん同じ「長板中形」を継承され、ご活躍されています。元々は東京の江戸川区で工房を構えておられたそうなのですが、やはり、都市化、宅地化、自然汚染、等の理由で営業が難しくなり、水の綺麗なこの君津へお父様と一緒に移られたそうです。

藍と白の「キワ」の明快さ

工房へ入ると、長い板が何枚も横たわっていて、天井にも同じ長さ板が収納されています。(板は約6.5mだそうです)これがちょうど反物の半反分の長さだそうです。その板に生地を貼り、生地の上に渋紙の型紙(主に伊勢型紙)を載せ、防染糊を置いて行きます。置き終わったら、板を担いで天日に当て充分乾かし、裏からも糊を置きます。その後、呉汁を引いてまた乾かします、乾いたら藍甕に浸して染色をします。思いどおりの色になったあと、一昼夜水につけ糊をふやかし、糊を振り洗いして落としてから乾燥させ、やっと完成というわけです。
「長板中形」の特徴は両面に型紙で糊を置くということで、表と裏の全く同じ場所に型紙を載せて糊を置き、染まる部分と、染まらない部分をくっきり明快に際立たせる技法です。通常の型染めは裏が染まっていなかったり、染めてある場合は白い部分に裏の染め色が少し透けて見えてしまったり、注染や、抜染めなどの技法もありますが、どちらも「キワ」の明快さエッジの鋭さに関しては「長板中形」には及びません。要するに糊と型の見極めの技術によって生み出される、潔く凛とした明快な藍と白のコントラストがこの「長板中形」魅力といえるのです。

さて今回も、松原さんが糊を用意してくださり、型に糊を置く体験をさせていただきました。さすがに両面は難しいので今回は片面だけの体験です。
まずは松原さんがお手本として、作業を見せて下さいました。松原さんはリズミカルに糊をすいすい置いていかれます。糊の厚みも均等で糊を置いた状態も美しい様子です。
私はというと、均等に糊を置くなどとは到底難しく、なかなか苦戦してしまいました。
糊はこの型紙の厚みプラス、0コンマ数ミリの厚さで置いていくのだそうです。
また実際は両面に糊を置くので表を置くときは赤色に染色した糊を置き、裏は生成りの糊を置きます。型の細かさや、サイズなどで粘りや、堅さを調節しないと綺麗に型取り出来ないので、糊作りは毎回、型や温度、湿度など気候に合わせて調合しているのだそうです。糊を置き終わり型紙を上げてみたら、綺麗に糊が盛り上がるような厚みを保って生地に置かれていました。これだけで作品のように美しい、と思ってしまった程です。
糊が乾いたら呉汁を引き、次は藍甕へ浸けて染色します。藍甕も毎日管理して状態を保っているそうです。藍は生きていますからね。
藍染めはとても不思議な現象で、藍甕に1分ほど浸けて引き上げたときは緑色をしています。生地に付着した藍が空気中で酸素に触れて酸化するとあの深い藍色へと変化して行きます。藍甕に浸ける回数を増やしていくと、だんだん濃い藍色に染まっていくというわけです。染め終えたら水につけて糊を落とします。水の中で糊が溶けると、くっきりと白い柄が浮かび上がり、美しい姿を現していきます。その瞬間が本当に美しくて、うっとりしてしまいました。

江戸から続く技術を継承していくということ

体験を交えて、反物が完成するまでの工程を説明、実演していただき、あの美しい反物が出来上がるまでの時間と労力、またそこへ至るまでの鍛錬を、しみじみと感じてしまいました。松原さんは現在ご自身の作品を発表され続ける傍ら、日本工芸の若手育成や、技術継承の為の活動をされています。とはいえ今、日本が抱える現状にはやはり厳しさを感じているのだそうです。松原さんがこの君津へお父様と共に移らなければならなかった様に、環境の変化はもちろんですが、ライフスタイルや価値観の変化も大きく影を落としています。日本工芸全般に影響を与えるこの変化は、たとえ「長板中形」が継承できても、型紙やヘラなどの道具、糠や藍などの材料を作る技術がなくなっていく事にも不安を感じていらっしゃいます。この話はこのメルセデスの旅で何度も耳にしたお話です。
どの職人さんも、同じ様な不安を抱きながら、今自分の出来る事を、精一杯行って継承の道を探っていらっしゃいます。様々なすばらしい作品を数々生み出している松原さんも、今後の目標は?と伺うと、「このまま続けていく事、そして引き継いできたものを次世代に繋げて行く事」と答えられました。
私達はこの旅を通じて、「思いを込めて、思いを一つ一つ形にしていき、出来上がった“物”」を沢山見てきました。どれも長きにわたり磨かれてきた特別な技術で、その一つ一つが美しい輝きを持って存在しています。
消費する事になれてしまった私達ですが“物”を見る目や、扱う心をもう一度見直していかなければいけないのでは、と思いながら工房を後にしました。
外に出てみると空気はひんやりとしていて、森は綺麗に、赤や黄色に染まっていました。
年の瀬です。

工房データ

長板中形・藍形染作家 松原伸生

長板中形・藍形染作家 松原伸生

nobbox2005@yahoo.co.jp
一般営業はしておりません。商品や個展、体験などの問い合わせはこちらのメールへお願い致します。

<urakuプロフィール>  http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とTOKYO DRESS などのプレスやアパレルブランドのディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)の2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えていく事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。

<Special Thanks>
SLOANE : Knit

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