
美しい光景を映し出す吉野川
徳島市周辺の旅3回目となる後編、今回は桶や樽を一つ一つ丁寧に手作りし続けている「岡田製樽」へと向かいます。徳島で育まれた伝統文化を「阿波十郎兵衛屋敷」で堪能した私達は、この旅の鍵となる吉野川をまた少しだけ上流に向かいます。
前回に引き続き、車はC220 d STATIONWAGON AVANTGARDE。カラーはダイヤモンドホワイトです。頼もしいボディサイズでありながら、田舎道や、農道などの細い道、うねった道も安定したハンドリングで、ストレスを感じることがありません。のんびり気分で進みます。
日はすっかり西に傾き始めていて、吉野川の川辺の景色があまりにも美しかったので、車を止めてしばらく眺めてしまったほどです。この吉野川は、様々な産業や商売を発展させただけでなく、この土地に暮らす人々に、こんなにも美しい光景を見せ続けているのかと思うと、徳島にとってとても大切な川なのだなと改めて感じます。
さて、のんびりしていると日が暮れてしまいます。もう少し見ていたい気持ちを抑えて車を走らせます。
細かな作業から生み出される美しい桶
「岡田製樽」へ到着すると、代表の岡田功さんと、奥様の美早さんが出迎えてくださいました。実はこちらの奥様は徳島の旅、前編でご紹介した「岡田製糖所」の岡田和廣さんの奥様、美紀さんとは同級生なのだそうです。お互いご結婚された嫁ぎ先の名字が同じ岡田姓で、偶然同じ名字になられたのだとか、今でも仲良くされていらっしゃるそうです。私達も取材中にお聞きしてびっくりしてしまいました。ちょうど岡田製糖所も樽を注文されていて、納品されたばかりというタイミングでこの2件を訪れる事になったのですが、不思議な縁を感じます。
代表の岡田功さんが日々研究しながら製作を行い、奥様の美早さんが現代のライフスタイルに合わせたすし桶や、おひつ、樽などの使い方を、得意のお料理を交えながら発信されていて、まさに二人三脚といった姿が微笑ましく感じます。
さて、まずは工場へ案内していただき、桶や樽などの製造工程を見せていただくことにしました。
工場に入ると、様々な道具や機械が並んでいます。作っている桶や樽も1種類ではなく数種類のものを同時に作っています。これだけの種類を作り分けるのですから、完全な機械化は難しいのだなということはすぐに理解できました。手仕事を助けるための道具として機械を使っているというイメージだと思います。
繊細な作業を型に合わせて変えていくという細かな作業が見た目も美しい製品を作り出しているのだなと思います。
微妙な加減を手の感覚だけで見極める
桶や樽は簡単に言うと、長方形の板をつなぎ合わせて“たが”で締めあげ、止めて出来上がります。
複数枚の板をつなぎ合わせたばかりの状態の桶は、多面体といった状態ですが、それを接着剤でつなげ、まずは凹凸を研磨して滑らかにしていきます。
微妙な加減を手の感覚だけで判断して削り、綺麗で滑らかな“丸”にしていきます。
滑らかになった丸い輪の状態のものを“たが”で締めあげ、“そこ板”をつけていくのですが、この時も微妙な手の感覚で少しずつ加減しながら組み合わせ、完成させていきます。“たが”はミリ単位でいくつも用意してあり、桶や樽の大きさやデザインにごとに見極めて付けていきます。
このようにして、感覚による細かな見極めを絶えず繰り返しながら、様々な種類の桶や樽を作り出しているのです。
またその作業を円滑に進め、仕上がりを美しくするために、表には見えない細かな細工を施してあることにも驚かされてしまいました。
工場の中は、木の香りが漂っていて、たくさんの機械に囲まれていながらも、どこか落ちついた感じが漂っています。
「岡田製樽」のおひつや桶は今ではあまり使われなくなった“さわら”という木を使っているのだそうです。“ひのき”の仲間なのだそうですが、“ひのき”ほど香りが無く、目がつまりしっかりしているので、食べ物を入れるには最適で昔から重宝されてきたのだそうです。
その他、香りがあったほうが良い商品には徳島産の“杉”を使用しているのだとか、なるほど天然木の香りがこの場所を優しい雰囲気にしているのだなと改めて感じました。
天然の木を使用しているという事は、その木の特性、また木目や、色味をうまく見定めるといった形を作り出す事以外にも、繊細な配慮や見極めが必要になってきます。その上、用途に合わせて100種類ぐらいの商品があるとの事、製品に合わせて機械を調整しながら上手に使いこなし、経験と積み重ねで生まれる感覚を使い、職人技といった仕事が美しい仕上がりを私たちに見せてくださるのだなと感じました。
丁寧な時間を未来へ
この美しい手仕事を続けている「岡田製樽」は現在の代表である岡田功さんのお父様が昭和23年に創業され、70年ほどこの徳島で運営されています。もともとは漬物樽などを作ることから始めたのだそうです。少しずつ種類を増やし、以前は200種類ほどの製品があったそうですが、時代の流れとともに半分ほどの種類になってしまったそうです。
また、おひつなどの材料になっている“さわら”も今はすっかり減ってしまい、なかなか手に入らなくなってきているようです。それら減少の理由は、桶やおひつの需要が減ってしまった事と、建築資材としては“ひのき”のほうが高く取引される為“さわら”を育てなくなってしまった、という事だからだそうです。
大量に作ることが可能で安価なプラスティック製品などが広がったため天然木の桶はあまり見かけなくなったり、保温ができる炊飯器の登場でおひつを使わなくなったりと、需要が減ってきていることは確かです。しかし使ってみると、その素晴らしさは格別です。桶は保温性が高く、足湯などしてもかなり長い時間お湯が暖かかったり、また木のぬくもりと香りが感じられて癒されます。
おひつや寿司桶なども、それらに移すことによりご飯の粗熱をとり、味をしめてくれます。保温性があり余分な水分を吸ってくれるので湿度が一定になりべとつかずふっくらしたご飯になるのです。
もちろんお手入れをきちんとしなければいけませんが、便利さということに飛びついて時短を求めるあまり、物を長く大切に使うという丁寧な生活から遠のいてしまったことも事実です。
「私たちの作る製品は、日用品であって美術品ではないのです。とにかく使ってもらって良さがわかるので」と岡田功さんは語ってくださいました。
永い時間をかけて完成されてきた手仕事の品を、日々の生活の中で、少しだけ時間をかけてお手入れをしながら丁寧に扱い使いこなすということが、生活に彩りと余裕を生み出し、豊かにしてくれるという事を、もう一度見直していかなければいけないのではと、やわらかな木の香りを感じながら考えていました。
店舗データ
有限会社 岡田製樽

〒779-3212徳島県名西郡石井町藍畑字東覚円30-2
tel: 088-674-0639
fax: 088-675-0494
http://www.okada-seitaru.com/
定休日:日曜日
営業時間 : 8:00~17:00
専用駐車場あり
<urakuプロフィール> http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)と
TOKYO DRESS などのプレスやアパレルブランドのディレクションを勤める
石崎由子(いしざきゆうこ)2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。
<Special Thanks>
Continuer:Sunglass