レーシングカーを大きくわけると、街を走る市販車をベースにしたツーリングカーと、タイヤがむき出しのフォーミュラカーにわかれる。SUPER GTは、ツーリングカーで競う日本最高峰のレース。普段、街を走っているスポーツカーが競う姿を見られることから人気が高く、日本のレースで最も多くの観客を集める華やかなイベントでもある。
新型コロナウィルスの影響で、2020年と2021年は海外でのレースは開催されなかったが、コロナ禍の前は、タイやマレーシアのレースで多くの観戦者を集めた。日本のモータースポーツ界が誇る国際的なコンテンツであり、コロナ禍が収束すれば、SUPER GTは再び海外に進出するはずだ。
2022年シーズンは、4月16日に岡山国際サーキットで開幕、11月5〜6日にツインリンクもてぎで開催される最終戦まで計8戦が行われる予定になっている。
レースは300kmで競うが、第2戦と第4戦の富士スピードウェイ、第5戦の鈴鹿サーキットでのレースは450kmを走る。
SUPER GTには、他のレースと違う特徴がふたつある。まずひとつは、GT300とGT500というふたつのクラスが一緒に走ること。もうひとつは、1台のマシンを2人のドライバーで走らせることだ(450kmレースの場合は3人)。つまり、レース途中でドライバー交代が発生する。
2つのカテゴリーが混走し、ドライバー交代があることからレース展開は複雑になり、劇的なドラマが生まれる要素も増えることになる。
Mercedes-AMG GT3はふたつのクラスのうち、より市販車に近いGT300クラスに属する。GT300クラスはさらに細分化されており、日本独自の規格であるGTA-GT300と、国際規格のFIA-GT3というカテゴリーにわかれる。このうち、Mercedes-AMG GT3が属するのは後者のFIA-GT300。
GTA-GT300が比較的自由に改造ができるのに対して、自動車メーカーが製造したマシンであるFIA-GT3は、基本的には調整しか認められない。したがって、ベースとなる車両のポテンシャルが問われるという。こうした背景から、世界の名車が揃うFIA-GT300は、「スポーツカー世界一決定戦」と紹介されることもある。
GT500とGT300を比べた場合、一般的にはよりパワフルなGT500が上位カテゴリーに位置すると認識されがちだ。もちろん、それは間違いではないけれど、より感情移入がしやすいのは、街を走っているクルマに近いGT300だという声も多い。
千差万別のマシンが競うのがGT300の魅力だが、あまりに車両の性能に差があるとレースが成立しない。そこで行われるのがBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼ばれる性能調整だ。
エンジン出力を抑えたり、車体を重くするなど、さまざまな方法で各マシンの性能を一定のレベルに揃えるのだ。このBoPのさじ加減が関係するので、どのマシンが勝つかはふたを開けるまでわからない。シーズンを通じて他を圧倒するチームやマシンはほぼ皆無で、常にエキサイティングな接戦になることがこのレースの大きな魅力だ。
2016年シーズンより、SUPER GTのGT300クラスには市販モデルのMercedes-AMG GTをベースに開発したMercedes-AMG GT3が投入されている。
Mercedes-AMG GT3は、2020年モデルへの移行時に大幅な改良を受けるとともに、外観にも手が加わった。性能面では、空力性能が大幅に向上したことがポイント。ルックスでは、1950年代のレースで大活躍した名車、300SLをモチーフにしたグリルが目を惹く。性能もルックスも大きく変わったことから、Mercedes-AMG GT3“Evo”と呼ぶ声もある。
2021年シーズンに続き、2022年シーズンもこのMercedes-AMG GTで戦うことになる。
2022年のGT300クラスは、2018年にチャンピオンを獲得したLEON PYRAMID AMG、2017年の王者であるグッドスマイル 初音ミク AMG、そしてMercedes-AMG GT3で5年目のシーズンとなるアールキューズ AMG GT3の3チームが参戦する。
ひとことで言えば、2022年シーズンはリベンジの年、ということになる。というのも、2021年シーズンの年間シリーズランキングを見ると、LEON PYRAMID AMGの6位が最上位。同チームが開幕戦と最終戦で2位に入っていることから、マシンのポテンシャルが高いことは間違いないものの、不運なクラッシュに巻き込まれるなど、3チームとも歯車が噛み合わなかった。
2022年シーズンに向けて、LEON PYRAMID AMGは2014年からチームに在籍するエースの蒲生尚弥のパートナーとして、2021年シーズンのGT300で初優勝を飾った新鋭、篠原拓朗を迎えた。新しい血がチームをどのように活性化するのか、期待したい。
グッドスマイル 初音ミク AMGは、安定感のある谷口信輝と片岡龍也のコンビを継続する。注目されるのは、東京オートサロン2022でお披露目された新しいカラーリングで、グリーンをベースにした斬新なものとなった。初音ミクのイラストを爽やかに彩るカラーリングでサーキットを疾走する姿が、いまから目に浮かぶ。
大復活を遂げたのが、アールキューズ AMG GT3。2021年シーズンの第6戦、オートポリスでの不可避のクラッシュによってマシンは深刻なダメージを受けた。残り2戦の欠場を余儀なくされ、2022年シーズンへの参戦が危ぶまれたものの、新たにマシンを調達。大ベテラン、和田久と城内政樹の“60歳コンビ”が今年もサーキットを疾走する。
最後に、GT3というカテゴリーは国際的にカスタマー・モータースポーツとも呼ばれることにふれておきたい。
レースに出走するためのライセンスを取得したりテストを受ける必要はあるが、Mercedes-AMG GT3を購入して、メインテナンスを担当するレーシングチームを雇えば、だれでもレースに参戦できるのだ。つまり、アマチュアのジェントルマン・ドライバーの最高峰という側面もある。もしかすると自分や友人が出走することがあるかもしれない、そんな可能性を秘めたレースなのだ。
TEAM
Car No.4
GOODSMILE RACING & TeamUKYO

グッドスマイル 初音ミク AMG
監督:片山右京
ドライバー:谷口信輝/片岡龍也
Car No.22
R’Qs MOTOR SPORTS

アールキューズ AMG GT3
監督:黒田朋宏
ドライバー:和田久/城内政樹
Car No.65
K2 R&D LEON RACING

LEON PYRAMID AMG
監督:黒澤治樹
ドライバー:蒲生尚弥/篠原拓朗
CAR
エンジン形式:V型8気筒
エンジン排気量:6.3ℓ
最高出力:非公表
トランスミッション:6速シーケンシャル
最高速度:310km/h