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Formula 1 2022

逆襲のメルセデスAMGペトロナス。2022年F1チームが再始動

words: Takeshi Sato



1950年にイギリスで始まった世界最高峰の自動車レース、F1(Formula 1)世界選手権。昨年の劇的な幕切れからリベンジに燃えるメルセデスAMGペトロナスとハミルトン、そして新加入のラッセル──大きくレギュレーションも変更となる2022年シーズンの見どころとは。

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メルセデスAMGペトロナスF1チームとルイス・ハミルトンのリベンジはなるのか?また、レギュレーションの大幅な変更によって、戦力分布はどのように変化するのか?
見どころが盛りだくさんの2022年シーズンのF1(Formula 1)世界選手権が、いよいよ始まる。

モータースポーツの最高峰に位置するF1は、今シーズンで72年目を迎える。記念すべき第1戦が行われたのは1950年。シルバーストーン・サーキットで開催されたイギリスGPから物語は始まった。
以来、72年の間にF1マシンは長足の進歩を遂げた。1950年のF1GPを走ったマシンの最高出力は、400〜450馬力程度だったとされる。それが現在ではガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムが800〜1000馬力を発生しているのだ。F1黎明期との比較で、およそ2倍のパワーを発生するに至っている。

パワーが上がり、最高速度が速くなったということは、サスペンションやブレーキ、あるいは空力性能が同じように進化しているということでもある。F1で培われた新しい技術は、やがて街を走るクルマにも応用されるようになる。
そして2022年、F1はマシンのレギュレーションが大きく変わる。詳細は後述するが、自動車が100年に一度の大変革期にあるといわれるいま、変化の波はF1マシンにも押し寄せているのだ。

3月18日に開幕するバーレーンGPを皮切りに、11月18日開幕のアブダビGPまで、全22戦が開催される予定だ。日本GPは10月7日から9日にかけて、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットで行われる。

F1に参加するのは全10チーム、20台のマシン。世界中のモータースポーツ関係者が形成する巨大なピラミッドの頂点に位置する精鋭たちだ。
レースでは10位までが入賞圏内で、順位に応じて以下のようにポイントが与えられる。
1位(25ポイント)、2位(18ポイント)、3位(15 ポイント)、4位(12ポイント)、5位(10ポイント)、6位(8ポイント)、7位(6ポイント)、8位(4ポイント)、9位(2ポイント)、10位(1ポイント)。なお2019年シーズンより、レース中に最速ラップを記録したドライバーには、ファステストラップポイントとして1ポイントが与えられるようになった(ただし、10位以内で完走したケースに限る)。

こうして、1年でもっとも多くのポイントを獲得したドライバーがドライバーズチャンピオンとなる。タイトルは、ドライバーだけでなくチームにも与えられる。1チームは2台体制、2人のドライバーのポイントを合計したものをコンストラクターズポイントと呼び、年間でコンストラクターズチャンピオンを競うのだ。

 

Point of view

2022年シーズンを展望するにあたっては、あまりに劇的だった2021年シーズンの最終戦にふれておくべきだろう。

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2021年最終戦のアブダビGPのスタート前、メルセデスAMGペトロナスF1チームのルイス・ハミルトンと、レッドブル・レーシング・ホンダのマックス・フェルスタッペンは、まったくの同ポイントでドライバーズチャンピオンを争っていた。ドライバーズチャンピオンを争うふたりが同ポイントで最終戦に臨むというのは、70年以上のF1の歴史にあって、これが2度目だったという。

レースでは、フェルスタッペンが予選でポールポジションを獲得したものの、シーズンが終盤に近づくにつれて調子を上げてきたハミルトンがすぐにトップを奪う。そして、終始ハミルトンがリードする形で周回を重ねていった。誰もが、ハミルトンのドライバーズチャンピオン8度目を信じて疑わなかった。

しかし、レース最終盤にクラッシュが発生、セーフティカーが導入され、ハミルトンとフェルスタッペンの差が一気に縮まる。運命のファイナルラップ、セーフティカーがコースを外れて再スタート。ピットでソフトタイヤに交換していたフェルスタッペンがステイアウトを選択したハミルトンの前に出てチェッカーを受けるという、劇的な幕切れとなった。

セーフティカーの導入と再スタートのタイミングは物議を醸したものの、最後まで諦めずに戦略を遂行したフェルスタッペンとレッドブル・レーシング・ホンダを讃えるべきだろう。メルセデスAMGペトロナスF1チームはコンストラクターズタイトルで8連覇を達成したが、ハミルトン個人の夢はかなわなかった。

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こうして迎える2022年シーズン、メルセデスAMGペトロナスF1チームは大きな決断を下した。ハミルトンとコンビを組むドライバーを、バルテリ・ボッタスから1998年生まれのイギリス人ドライバー、ジョージ・ラッセルに変更したのだ。ボッタスも2021年シーズンはドライバーズポイントで3位に入り、コンストラクターズタイトル8連覇に貢献している。したがって、ボッタスの実力不足というよりも、若手ドライバーへの世代交代だと捉えるのが正解だろう。

8歳でレーシングカートを始め、英国内で順調にステップアップ。2016年にメルセデス・ベンツとジュニアドライバー契約を結び、デベロップメント(開発)ドライバーやリザーブドライバーとしての役割を果たしてきた。いわばメルセデスの秘蔵っ子で、メルセデスAMGペトロナスF1チームのこともよく理解していることから、すぐにチームにフィットするはずだ。
チーム加入にあたり、ラッセルは次のように語っている。

「10歳の頃、僕はF1を夢見ていて、ルイス(・ハミルトン)はワールドチャンピオンであり、僕にとってのスーパーヒーローだった。そのルイスがチームメイトだというのは、とてもシュールに感じるよ」

ラッセルについて、ハミルトンはこう述べている。

「ジョージが新しいエネルギーを持ち込むことは、最高にエキサイティングだ。新しい血、新しいエネルギーを得られることは、チームにとって非常にポジティブだと考えている」

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ドライバー変更と並んで、2022 年はマシンのレギュレーションが大きく変わるシーズンでもある。具体的には、以下の点が大きな変更ポイントとなる。

まず、空力面が大きく変わる。マシンの底面と路面の間に流れる空気を利用して、マシンを地面押し付ける力(ダウンフォース)を生み出す、グランドエフェクトが活用される。グランドエフェクトによるダウンフォースが増加するのと反比例して、前後のウィングによるダウンフォースが減り、ウィングの形状もシンプルになる。マシン後方の空気の流れを整えることで、追い越しの頻度を増やす狙いがあるとされる。

また、マシンの最低重量が2021年の752kgから798kgへ46kg増加する。おそらく、平均速度やラップタイムは、2021年シーズンよりやや低くなるはずだ。
また、これまで採用してきた13インチタイヤに代わり、18インチタイヤが採用される。市販車にも採用される18インチにすることで、F1で培ったタイヤ技術を市販タイヤにも応用しやすくなることが、その目的だという。

パワーユニットに関しては、2026年まで現行のものが使われるが、バイオ燃料であるエタノールの混合率が7.5%から10%に引き上げられた。2030年のカーボンニュートラル実現を目標とするF1にとっては、避けては通れない道だ。

こうしたレギュレーション変更を反映したニューマシンが、「Mercedes-AMG F1 W13E Performance」で、テクニカルディレクターのマイク・エリオットによれば、「私のキャリアの中で、これほど大きな変化はなかった」と語る。エリオットによれば、従来のマシンから引き継いだのはステアリングホイールだけで、それ以外は完全に新設計だという。

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このニューマシンについて、メルセデスAMGペトロナスF1チームのCEOを務めるトト・ウォルフは自信満々にこう語る。
「過去のこうした大きな変化、たとえばハイブリッド化も、タイヤとボディのワイド化も、私たちはうまく乗り越えることができました。過去の成功が2022年の成功を約束するわけではありませんが、チームのスタッフ、チームの文化、チームのシステム、そしてチームのモチベーションを鑑みれば、自信を持って対応できると思います」

レギュレーションの変更によって、どのチームのマシンが速いのか、まったくわからなくなっている。開幕前のテスト走行でも図抜けて速いタイムを出すチームはなく、横一線のスタートになりそうだ。
新しいマシンと、新進気鋭の若手ドライバーで挑むメルセデスAMGペトロナスF1チームには、F1の歴史でも有数のドラマティックな展開だったとされる2021年を超える、エキサイティングなシーズンを期待したい。

DRIVERS

ルイス・ハミルトン
Lewis Carl Davidson Hamilton

ルイス・ハミルトン

1985年生まれ。少年時代よりその才能を高く評価され、10代前半の若さでF1チームのマクラーレンと長期契約を交わしたことから「マクラーレンの秘蔵っ子」と呼ばれた。2007年F1デビュー。参戦わずか2年目の2008年に、史上最年少(当時)でF1のドライバーズ・チャンピオンを獲得した天才ドライバー。
2013年にメルセデスAMGへ移籍。2014年にはドライバーズ・チャンピオンを獲得、翌2015年も2ケタの勝利を挙げ、2年連続3度目のチャンピオンに輝いた。2016年は2ケタ勝利を挙げたものの惜しくもチャンピオンの座を逃したが、2017年は2ケタ勝利を挙げ再びチャンピオンに返り咲き、2020年まで6連覇。通算7度目となるチャンピオンの座に就き、シューマッハが持つ通算7度の記録に並ばんとしている。F1通算95勝は、シューマッハの91勝を凌ぐ単独最多記録。

 

ジョージ・ラッセル
George William Russell

ジョージ・ラッセル

1998年、イギリス生まれ。8歳だった2006年にレーシングカートを始めると、めきめきと頭角を現し、イギリス国内のジュニア年代のタイトルを総なめにした。2014年にはフォーミュラに進出、イギリス・F4選手権でチャンピオンを獲得。これを受け、同年のイギリス国内の最優秀若手ドライバーに輝いた。フォーミュラ3、GP3と順調にステップアップする過程で、2016年にはメルセデス・ベンツとジュニアドライバー契約を結ぶ。2017年1月からは、開発ドライバーとしてマシン開発に関与することが発表された。2018年にはF1のすぐ下のカテゴリーであるフォーミュラ2選手権に参戦。圧倒的な成績でチャンピオンに輝いた。2019年からはウィリアムズからフォーミュラ1に参戦、戦闘力に劣るマシンに苦労しながらも結果を残した。これが評価され、2022年よりいよいよ満を持してメルセデスAMGペトロナスF1チームの一員となることが決まった。

TEAM MANAGEMENT

トト・ウォルフ
Christian Toto Wolf

トト・ウォルフ

エグゼクティブディレクター。(ビジネス)ノルベルト・ハウグの後任としてメルセデスのレース活動全般を担当。1994年のニュルブルクリンク24時間レースでクラス優勝などの成績を残す。


CAR

Mercedes-AMG F1 W13 E Performance

全長×全幅×全高:5000mm×2000mm×970mm
重量:795kg
エンジン形式:V型6気筒ハイブリッド・ターボ
エンジン排気量:1.6ℓ

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