
富士五湖から勝沼へ
前編に引き続き、富士の裾野で原点を見つめながらさまざまな発信をしている方々を訪ねる旅の中編は、甲州市勝沼という日本におけるワイン造りの原点とも言える場所へ向かいます。
宿泊していたホテルがある河口湖から車で北へ30分ほどの場所、甲州市に入ると至る所に葡萄畑があり独特の風景が広がっています。ここ甲州市には戦国武将で有名な武田信玄の墓跡がある臨済宗妙心寺派のお寺、恵林寺があることで有名です。生前の武田信玄を支えた快川国師が住職を勤めていたお寺で、織田信長の恵林寺焼き討ちの際に炎の中で発したと言われている「心頭滅却(しんとうめっきゃく)すれば、火も自ずから涼し」の言葉は、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
さて、そんな歴史深い甲州市の街並みを進むのは、前回の旅と同様メルセデスEQのSUVモデル「EQB 250」、カラーはデジタルホワイト。CO2を排出しない100%電気自動車で、地球環境を考えた未来の自動車の姿としてだけでなく、私たちの未来に向けた新しい生活までも含めた提案を行っています。
乗り心地はメルセデスEQ全てに共通しているのですが、まるで滑るような静かな走りで、全くと言っても良いほど振動を感じさせることはありません。スタートしてから加速までがあっという間で燃料エンジンでは感じたことのないその滑るような走りには心地よさを感じます。
高速道路など長距離で加速する時の滑らかな反応も、今までの運転では感じたことのないスムーズさで、新感覚の走りにワクワクします。
またこのEQB 250はEQ初の7人乗り可能車種なので、家族や、友人たちとのドライブも一緒に楽しめます。3列目のシートを使用しないときには、大容量のラゲッジスペースとして利用できるので、アウトドアスポーツやキャンプなどでも活躍しそうです。
さて、快適なドライブを楽しんでいたら、目の前の風景が葡萄畑の広がる景色へと変化してきました。
目的地の勝沼醸造へ到着です。
築140年の趣ある建物
趣ある日本家屋が印象的な勝沼醸造に到着すると、4代目に当たる有賀淳さんが入り口でお迎えしてくださいました。有形登録文化財に指定された築140年ほどのこの建物は、元々は養蚕を行なっていた場所を改修してワインショップ兼テイスティングルームとなっています。余談ですが、有賀さんの家系は古く諏訪大社を支えた三家(諏訪氏、真志野氏、有賀氏)なのだそうです。以前諏訪を旅した時に訪れた諏訪大社の、威厳あるキリッとした空気感を思い出し少し背筋がピンとなった気持ちです。
暖簾をくぐり中に入ると、そこはワインショップになっていて、テイスティングできるカウンターがあります。ワインショップの横の扉を開けると趣のあるテイスティングルームもあり、歴史を刻んできたこの建物の風情を楽しみながらワインをいただけるようになっています。奥のテラスに出てみると、目の前には一面の葡萄畑が広がっていて、こちらではワインを試しながら、原料である葡萄が育っている様子を見ることができます。
美しい風景に息を呑んでいたら、有賀淳さんの弟さんの有賀翔さんもいらっしゃって、ご挨拶を交わします。
1937年、彼らの曽祖父にあたる有賀義隣さんが長野県諏訪からこの地に来て、製糸業の傍らこの場所でワイン醸造をはじめられたのが始まりだそうで、4代目にあたる彼らは実は3兄弟。長男の有賀裕剛さんは醸造を、次男の有賀淳さんは営業及び販売企画を、三男の有賀翔さんは原料となる葡萄栽培をと、それぞれ分担して創業85年を迎えた勝沼醸造を盛り上げています。
店内にこれまでの歴史を感じさせるような、古い写真と共に道具、器具、酒器なども展示され、日本における葡萄酒造りの歴史を感じることができる空間です。
そんなお話しを伺ったら、まずは畑に行きましょうということになり、有賀翔さんと共に、テラスから見えた葡萄畑へと向かいます。
1300年前に渡来した日本原種「甲州」
小さな小川を渡ると、そこは一面に広がる葡萄畑でした。この甲州市勝沼という土地は至る所に葡萄畑が広がる他では見たことのない独特の風景で、葡萄の産地という言葉がまさにぴったりの場所です。
勝沼醸造が運営するこの葡萄畑には彼らがこだわる「甲州」という品種の葡萄を栽培しています。
この「甲州」実はここ勝沼で発見された日本の葡萄の固有種で、およそ1300年前に日本に渡ってきた品種だとされています。当時は薬効のある植物としてもたらされた葡萄で、平安時代に作られた甲州市内の大善寺にある葡萄を持っている薬師如来がこの地にあることも、薬効のある植物としてこの地で大切にされていたことを物語っているかのようです。実際「甲州」ワイン発祥とされているジョージアの葡萄の品種とDNAが近いのだそうで、シルクロードを通り中国を経由する過程で、棘葡萄と交配して日本に伝わったのではないかと言われています。
日本の食卓でのワインの歴史はまだ浅いのですが、原料となる葡萄の歴史はかなり古く、長い歴史があることにはとても驚き、感動してしまいました。
「ワイン造りは農業である。良いワインには良い原料が欠かせない」と考える彼らは勝沼ならではの風土と原料を大切にしていて、この「甲州」栽培にはこだわりを持って取り組んでいるのだそうです。
少し背を屈んで進む葡萄棚の中をゆっくりと歩きながら有賀翔さんは、栽培の方法などをお話ししてくださいました。収穫をほとんど終えた葡萄畑ですが、まだ少し残っている葡萄の味をとって食べさせてくださいました。
「甲州」は白葡萄の一種で、薄い赤紫の皮が下から見上げるとその姿が逆光でとても綺麗でした。ここにたくさん実っている時期はさぞかし綺麗な景色なのだろうなと想像してしまいます。小さな粒で種があり、とてもジューシーで優しい香りと甘味の中に適度な酸味がありました。農園はこのほかにも2か所あり、それぞれ微妙に気候環境や、土壌の質が違っているので、できる葡萄の状態も少しずつ違ってくるのだそうです。作物の味を肥料などで人為的にコントロールしない分、それぞれの個性が感じられる葡萄に仕上がるのかもしれません。
また彼らの農園では「草生栽培」という栽培法で育てられていて、あえて下草は刈り取らず生やしたままにしています。土のことを考え無肥料無農薬で栽培し、手入れをこまめに行うことで病気などを防いでいます。
そのほかにも木と木の間隔を狭く育てる「垣根栽培」も行っていて1本の木に成る実の数を制限することによって味の濃い葡萄造りを目指しているのだそうです。
有賀翔さんがひとつひとつの木に愛情たっぷりな眼差しを注ぎながら説明してくださる姿を見ていて、勝沼醸造のワインが美味しいのは、こうやって手間をかけて向き合っているからこそなのではと感じました。
様々な工夫で生み出される個性的な味わい
畑をゆっくり回り、見学させていただいた後は、醸造所の見学に向かうことになりました。
車で15分ぐらいの場所にある醸造所は広い敷地内でちょうど今年収穫した葡萄をタンクに入れ終え、今まさに発酵がはじまったところでした。醸造所には大きなタンクがいくつも整然と並んでいて、先ほどの農園とはまた違う無機質な空間が広がっていますが、ほんのり甘い香りが漂っていて、この中で美味しいワインがゆっくりとでき上がっていくのかと思うと少し不思議な気持ちです。
醸造所内を農園に引き続き案内してくださった有賀翔さんが、ちょっと覗いてみますか、と言ってタンクの中を見せてくださいました。
赤ワインを醸しているそのタンクの中は皮ごと入れた葡萄が入っていて、少し掻き回してしてみると、ブクブクと泡が出てきます。葡萄たちが発酵して変化をしているところです。白ワインの方は、皮を取り絞ってからタンクの中で発酵するので、また少し工程が違うのだそうです。その絞り方もゆっくりと時間をかけて絞ることにこだわり、実と皮の間にある旨味を絞り出し、「甲州」が持つ苦味もしっかり残して味に深みを出していくのだそうです。
またその他にも木樽に入れて樽の中で発酵するという方法も行われるなど、原料の工夫や醸造の方法など様々に工夫して、現在販売していて20種ほどある個性的ワインな味を造り出しているのだそうです。
風土の個性を反映するワイン造り
農園、醸造所の見学を終え、あの風情あるワインショップの場所へ戻り、いよいよワインのテイスティングです。今日の車の運転は旅の友に託して、勝沼醸造のこれまでと、これからの取り組みについて有賀淳さんも交えてゆっくり伺うことにしました。
まずは「甲州」を使用した、「アルガブランカ」というブランドの白ワインのイセハラからいただきます。
ブランド名に名前の有賀を配し和洋入り混じった個性的で魅力的なラベルが印象的です。
香りが豊かで、甘味と酸味のバランスが良くすっきりとしながら奥行きがある味わいです。
「ワイン造りは農業である」というお話の通り、葡萄の味わいがそのまま反映されているような感覚です。
栽培の方法だけでなく、同じ勝沼でも栽培されている場所によっても味わいが変わってくるんですと語る有賀淳さん。海外のワイン造りでは当たり前のように語られるテロワールごとの醸造、「風土の個性を反映するワイン造り」を追求し、この場所ならではの味へのこだわりを強く感じました。
その上、目の前に広がる葡萄畑を眺めながら、ゆっくりテイスティングできる。この環境もとても心地よく、その後もいくつかおすすめのワインの特徴などを伺いながらゆっくりとした時間が流れていきました。
元々はこの場所で醸造を行っていて、規模が広がってきたので先ほどの工場へと規模を広げていった経緯もあり、現在この場所の奥は改修工事中でした。完成したら醸造の風景が見える小規模な醸造棟と、テイスティングルーム、ショップ、食事とペアリングできる場などを考えているのだそうです。
この心地よい環境に新たにできる施設の話は伺っているだけでワクワクしてきます。
風土の魅力を生かした“地酒”造り
今でこそ、農業から醸造、販売まで一貫してこだわりのワイン造りで、突出した魅力を見せている勝沼醸造
ですが、苦しい時期も長くあったのだそうです。前述しましたが、1937年に彼らの曽祖父が長野県諏訪からこの地へ移り住み、製紙業の傍らワイン醸造を始めたのがことの起こりです。
少しずつ広がるワイン市場でしたが、バブル期に広がったワインの販売の波は、海外のワインに到底叶うことができず、だいぶ苦戦していたのだそうです。
有賀さんの父親、有賀雄二さんが会社を引き継いだ頃、海外のテロワールごとのワイン造りを目指さないといけないのではと思い始めるのですが、当時ワイン醸造所は畑を持ってはいけないという法律があり、有賀雄二さんは個人の名義で農家として申請し、畑を少しずつ始めたのだそうです。
その後、2004年の法改正により畑が会社で持てるようになり、さらに原料栽培へのこだわりを深めていきます。それによって少しずつ変化は見えてきたのだそうですが、大きく潮流が変わったのは販売することの考え方自体を転換させてからだと言います。
それは従来のワインショップに卸すのではなく、日本酒など地酒を扱う酒屋さんへの卸を行うようになったからだと有賀淳さんは語ります。その後2012年、正式に3兄弟が醸造所に入りそれぞれの場所で活躍を始めそれまでのこだわりに磨きを深め、今のような醸造所へと発展していったのだそうです。
テロワールという考え方に従い、この場所ならではの原料でこの土地の風土を生かしたワイン、それは地酒なのではないだろうか、有賀家の人たちがそのことに気づき、独自のブランドをうまく発信していった結果なのだと思います。彼らは海外から押し寄せる有名なワインブランドにも負けない「勝沼」という場所の魅力を、このボトルに詰め込んで国内だけでなく海外に発信しているのだなと感じました。
ここの風土を生かした原料を自らで育て、その個性を引き出す醸造を自らで行い、その魅力を最大限に伝えることのできる場所で発表する。
決して大量生産でなく大規模ではないけれど、彼らの行っているワイン造りはとても清々しいほどに筋が通っています。「この場所の魅力を」と考え日本酒のシーンにヒントを得たのだと「本質で造って本質で売る」そんなシンプルなことですよねと有賀淳さんは語ってくださいました。
最後に、面白いことにワイン醸造所は日本酒酒蔵にヒントを得て、日本酒の酒蔵はワイン醸造所からヒントを得ているのだという話を伺い、自らの源を認識することができたなら、私たちが勝手に決めたカテゴリーなんてこうやって簡単に飛び越えられて、繋がれるのだなと感じました。
お土産のワインをいくつか見繕いながら、新しい醸造棟とワインショップが完成したら、また必ず訪れようと密かに心に決めていました。
施設データ
勝沼醸造株式会社

〒409-1313 山梨県甲州市勝沼町下岩崎371
Tel 0553-44-0069
営業時間 9:00~16:00
休日 年末年始
https://www.katsunuma-winery.com
<urakuプロフィール>
http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とアパレルブランドのプレスやディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)の2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。また梅仕事など日本の食文化を伝えるため栽培から生産まで行い、その際に出る剪定枝を使用した草木染め事業もスタートするなど、手仕事と循環をテーマにしたライフスタイル提案も行っています。
<Special Thanks>
PLANET PLAN & CO. (https://www.planetplan-co.com):Tops、Pants
ABOUT CAR
EQB 250
メルセデスの電気自動車ブランド「Mercedes-EQ」初の7人乗りSUVモデル。最大限のスペース効率を追求して生まれたスクエアなボディが特徴。電気自動車ならではの静粛性とトルクフルな走り、高度な操縦安定性を高いレベルで実現している。