She’s Mercedes meets Japan / Vol.22

中山道 前編 旧井上房一郎邸 高崎市美術館  館長 塚越潤

過去から未来へ引き継がれる豊かな街づくりのための哲学

日本各地に伝わる手仕事や、受け継がれてきた技を次世代へ伝えようと、活動をしている「uraku」。彼女たちが旅のみちみちで出会う日本の美しい風景や物、事、そしてそこに集う人々のつながりを、Mercedes-EQと共にみつめる旅紀行。女性2人ならではのロードストーリー。夏至を過ぎ、木々の緑が深まってきた頃、戦前戦後にかけて豊かな街づくりに挑み、様々な形を残した井上房一郎さんの面影を探しに高崎を訪ねます。

photo/鬼澤礼門 text&edit/石崎由子(uraku) navigator/田沢美亜(uraku)

今も昔も交通の要所として人々が行き交う場所

夏至を過ぎ、夏らしい日が徐々に増え、木々の緑も少しずつ深みを増し始めた頃、私たちは群馬県高崎市へと向かいました。群馬県はメルセデスでの旅では初めて訪れる都道府県です。
高崎市は群馬県の県庁所在地である前橋市を凌ぐ、県内最大の人口を誇る中核都市です。
前回訪れた諏訪地域と同じように古墳や史跡が多く残されていて、古代から人々が集い生活していた痕跡が残る古い歴史のある街です。
江戸時代には、徳川家康の二十八神将の一人として知られる井伊直政が初代の高崎城の城主となり、中山道と三国街道が交差する重要な交通の要所を守り高崎の町の礎を築きました。
現在でも、関越自動車道と北関東自動車道、上越新幹線と北陸新幹線の分岐点になっていて、交通拠点の一つとなっています。

今回訪れる場所は、高崎市美術館内にある「旧井上房一郎邸」で、美術館の館長を務める塚越潤さんを訪ね、お話を伺います。
この古い歴史を持つ高崎市の近代発展に貢献し、群馬地域文化の先覚者と称された井上房一郎さんの面影を辿りながら、残された素晴らしい建物とそこに引き継がれた思いを、探しにいこうと思います。

そして今回ももちろん旅を一緒にするのは、メルセデスが未来の自動車の姿として発表したエコカーのEQC 400 4MATIC、カラーはヒヤシンスレッド。CO2を排出しない100%電気自動車で、未来の地球環境を考えて提案されています。
新感覚とも言える滑らかで振動がほとんど感じられない静かな走りは長距離の運転にはとても快適で、疲労感を感じません。前回も感じた高速道路など加速する時の滑らかな反応は燃料エンジンでは感じたことのないスムーズでまるで飛ぶような感覚を覚えます。
室内の装備ももちろん整っていて快適にドライブを楽しむことができます。
さて、豊かな緑の中を清々しい風を感じながらストレスのないドライブを楽しんでいたら今回の目的地、「旧井上房一郎邸」の正門が見えてきました。

「旧井上房一郎邸」の正門

駅前のビル街の間にある異空間

高崎駅から歩いてすぐの場所、オフィスビルやマンション、住宅などが立ち並ぶ場所の一角に、まるで時が止まったかのような空間があります。
正門から入ると向かって左側に、井上房一郎さんの胸像があります。
書籍や資料などで残されている井上房一郎さんの姿と同じような、優しく穏やかな雰囲気で、この場所を見守っているかのようです。
今回の旅のキーマンとなる、この邸宅の主人である井上房一郎さんは、お父様の井上保三郎さんより「井上工業」を引き継ぐなど、様々な企業で重要な役職に就き、戦前から戦後にかけて高崎市や群馬県の経済発展に貢献しただけでなく、文化振興に大きな影響と貢献をされた事業家で、95歳で他界されてから30年近くなろうとしています。

邸宅の中へ入ると、今回お話を伺う美術館長の塚越潤さんが待っていてくださいました。
塚越潤さんはすらっとして上品な佇まいに優しい笑顔が印象的な方で、
まずは、邸宅について案内していただきながら詳しく説明していただきました。

意匠と機能、東と西、を併せ持った建築

この邸宅は、井上房一郎さんと親交が深かった建築家アントニン・レーモンドが麻布に持っていた自宅兼事務所の自宅部分を写して建てたものです。一部和室を造ったりと、変更はされていますが、国内に現存する貴重なレーモンドスタイルを今に伝える建築物です。
今も色あせないモダンな意匠と機能を併せ持った近代建築のデザインが魅力で、アントニン・レーモンドと、井上房一郎さんの世界観が見事に融合していて、2人の深い友情を感じる建物であり、場所なのではと感じます。

建築士でもある塚越潤さんは、この邸宅の他とは違う魅力的な部分を、一つ一つ詳しく説明してくださいました。
補強材である火打ち梁を機能を押さえながらデザインとして活用したり、真鍮の釘を使ってまるで衣服のステッチのように敢えて見せる仕上げにしたり、ランドスケープと室内がつながっているかのような空間を作るため、庭に向かう前面を引き戸にして、柱を室内に入れたり、軒下と室内の屋根がつながっているような視覚効果を狙ったりと、実にたくさんの細かな仕掛けが施されています。屋根がガラスになっている広いパティオや、居間の高い位置に明かり取りの障子を設置して光を取り入れたりと、全体的に明るく広々とした空間がゆったりとした時間の流れを演出しているようです。
アントニン・レーモンドの細かなこだわりと、彼の奥様、ノエミがデザインした家具たち、それらを建築やデザインという観点だけでなく、考え方や哲学までも理解していた井上房一郎さんが精巧な技術を持つ高崎の職人さんとともに少しアレンジを加えて作り上げた空間は本当に素晴らしく、心地よい空気が流れていていつまでも浸っていたいという気持ちになります。
建築的な仕様はここでは紹介しきれないということもありますが、見てみないと理解できない部分もたくさんありますので、できることならこの空間に来て体感してもらえたらと思います。

パリで学んだ近代哲学から自らの進む道を見つける

一通り邸宅内を見せていただいた後は、のんびりと窓辺に座ってゆっくりお話を伺うことにしました。
井上房一郎さんは家業を継ぐ前に、親交のあった画家の山本鼎さんの勧めでパリへ留学、そこで絵画への造詣を深めることにより、近代哲学の核心に触れ当時の日本人に必要であると感じます。特にセザンヌには大きな影響を受けたようで、近代哲学の核心を表現しているセザンヌの絵画から、その後の活動思想の基礎となる部分を築いていきます。
帰国後は、自身の会社経営だけでなく、思想、哲学、文化、芸術を根付かせる活動を社会貢献として行い、そうすることにより日本が経済的にも精神的にも豊かな国になるとの信念を持って実に幅広い活動をされていました。
日本の伝統工芸を見直し新しいデザインを施し輸出までも見据えた活動のためいくつかの会社も設立、銀座には「ミラテス」という家具工芸店も立ち上げます。安住の地を求めて来日した、ブルーノ・タウトを高崎に招き工芸デザインの協働をしていたということもあり、「ミラテス」では共同で家具や雑貨なども販売していました。
また後進の育成にも積極的で、晩年には高崎哲学堂を設立。母校の高崎高校後輩たちへ講演会を中心に指導を行い、やがて一般市民にも学びの場となっていきます。
井上房一郎さんは、塚越潤さんが高崎高校在学中の頃、美術の時間に教室を訪れ、生徒たちにいろいろアドバイスなどをされていたり、校庭にあるバラ園の手入れをされていたりしたのだそうです。審美眼と鑑識眼が高かった井上房一郎さんはそうやって若い才能も見出してもいたようです。
また高崎哲学堂の活動の一つの講演会で、湯川秀樹博士の講演を聴いたこともあるそうで、邸宅内に飾ってあった博士の言葉はその縁からではないかなとおっしゃっていました。

哲学と思想が凝縮した邸宅

高校生の頃は、井上房一郎さんについて、とても偉いおじいさん といった程度の認識しかなかった塚越潤さんですが、時代は進み、井上房一郎さんが亡くなられた後、歴史的価値のあるこの邸宅を高崎市が管理し美術館内で一般公開を始め、のちに館長を務めることになり、ここで時間を過ごすうちに、この邸宅を未来へしっかり残し伝えていく必要があると感じました。そこで失われていた図面を再構築するため、採寸し直し、新たに図面に起こす作業を始めます。
そうして実際、測って数字を入れてみて、改めてこの邸宅のデザイン性と機能性の見事なバランス感に感嘆したのだそうです。

アントニン・レーモンドと井上房一郎さんはその哲学や思想といった部分で多くの部分を共感、共有し、親交が深かったようで、その後中編でご紹介する「群馬音楽センター」の建設も共に行いました。この邸宅には、二人が目指していた信念が見事に融合されて表現されているのかもしれません。
その深い部分をデーターでも、感覚でも受け取っているからかもしれませんが、塚越潤さんは、この邸宅の説明を熱く語っている時などに、ふと井上房一郎さんが傍にいるかのような不思議な感覚に見舞われることがよくあり、そんな時は心の中で「井上房一郎さんこれであってますか?」と語りかけたりしているのだそうです。

雨の日だからこそ見れる美しさ

井上房一郎さんの話を伺っていたら、朝から小雨が降ったり止んだりしていた天候が、本格的な雨になり、「この邸宅は雨樋がないのです。屋根から落ちる水滴が下に敷いてある那智黒石に直接当たるようになっているんですよ」と塚越潤さんが教えてくださったので、その様子をみるために、もう一度外へ出てみることにしました。

先ほどより強くなった雨のせいで、屋根からは水滴が光を受けてキラキラと輝きながら落ちてきます。下に敷かれた那智黒石にピチョンピチョンとリズミカルに心地よい音が雨音に混じって響きます。よく手入れされ、高崎の自然を写した庭の景観と見事に融合して、雨の景色をこんなにも美しく演出している様子を見ながら、これは雨が降らないと決してわからない景色なのではと思い、もしかして井上房一郎さんが「どうですか綺麗でしょ」と語りかけてくださっているような気持ちがしてきました。
また驚いたことに雨天なのに私たちがお話を伺っていた邸宅の居間はとても明るく、とても効果的に外の光を取り入れる設計がされているのだなと、心地よさを求めた機能美のこだわりを強く感じました。

時代を超えて思いを引き継ぐ

日本がまだ貧しく、より良い発展へみんなが努力していた時代、パリへ赴き、近代哲学に触れることで、本当に豊かな社会とはどういうことなのかを考え、未来へつながる様々な活動をされていた
井上房一郎さん。企業家としてはもちろんですが実践的思想家としての側面を群馬県や高崎市では多くみることができます。

経済やお金、物質の豊かさだけでなく、それらを生み出し作り上げていくのには、一貫した哲学を持たなければならない、豊かな文化芸術のある生活は経済活動を支える哲学や思想のようなものであると、晩年彼が立ち上げた高崎哲学堂は、まさにその精神性が詰まったものだったのかもしれません。
「建物はあとで良い中身が大切だと」おっしゃられていたそうで、1969年の立ち上げから1993年に亡くなられるまで講演会を主宰し、彼の資金や寄付金などで261回まで行われ、その後引き継がれて、2006年まで続き、375回まで行われたそうです。
豊かな審美眼と鑑識眼から選出された講師たちは本当に素晴らしく、梅原猛さん、湯川秀樹さん、石坂浩二さん、ドナルド・キーンさん、安部公房さん、司馬遼太郎さんなどなど、私たちも参加したかったと思うような方々が名を連ねます。
「境遇は与えられるが、環境は作っていくもの。文化も同じだ」という言葉を口癖に、いつも精力的に未来につなげていけるような、真の豊かな街作りにつながる活動をされていたそうです。

井上房一郎さんは、多くの方と交流を持っていて、多くの方が塚越潤さんと同じようにささやかなエピソードを持っていられるのだそうです。
もしかしたらそのみなさんが、それぞれの専門分野で、井上房一郎さんのことを感じて心を通わせているのかもしれません。
そう考えると井上房一郎さんがこの地域に伝え、そして引き継いでもらいたかったものは確実につながっていて、今もこの地で生き生きと息づいていて、それがこの地域の魅力を支えているのだなと感じます。偶然にもこの記事も彼の命日である7月27日を過ぎたばかりの掲載となり、私たちも少しだけ井上房一郎さんと心を通わせることができたのかなと感じています。

そんなことを感じながら邸宅に戻り、茶道をたしなむ奥様のために作られた和室へもう一度足を運びました。ここから見える緑の楓の葉は雨に濡れてとても美しく、この風景を夫婦揃ってご覧になりながら一服いただいていたのかなと想像しながら眺めていたら、いつの間にか雨は止み、青空が顔を見せていました。

店舗データ

旧井上房一郎邸 高崎市美術館敷地内

旧井上房一郎邸 高崎市美術館敷地内

〒370-0849 群馬県高崎市八島町110-27
TEL : 027-324-6125
https://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2014011000353/
定休日 : 高崎市美術館に準ずる
月曜日(祝日は開館し翌日休館)、
祝日の翌日、展示替期間、年末年始(12月28日から1月4日まで)
※展覧会により異なる場合がありますので、詳細は各展覧会ページの休館日情報をご確認ください
営業時間 : 3月~11月:午前10時~午後6時(ご入館は午後5時30分まで)
12月~2月:午前10時~午後5時(ご入館は午後4時30分まで)
上記は旧井上邸の開館時間となります。

<urakuプロフィール>  http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とプレスやディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。

<Special Thanks>
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ABOUT CAR

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ダイナミックな走りとスポーティなデザインが特長のメルセデス・ベンツの電気自動車、EQC。最新のリチウムイオンバッテリーを搭載し、フル充電で約400kmの航続距離を誇ります。静粛性も高く、室内空間はフューチャリスティック&ラグジュアリー。新しいクルマの楽しみ方を教えてくれる一台です。

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