「流しの料理人」。彼女を知る人は、愛情を込めてそう呼ぶ。イタリア料理をベースに世界中の「根っこを持つ」料理をあるときは個人宅で、またあるときはイベント会場で腕を振るう出張料理人・岸本恵理子さんに、クルマに求めるものを訊いた。
出張料理人という仕事柄、いつもたくさんの荷物をクルマに収納して、現地に向かう岸本さん。特に個人宅が多いということもあり、実際に調理をする場の環境は必ずしも整ってはいない。食材や調味料などはもちろん準備するが、食器類から鍋、あるいはボウルなどまで持参することもある。そうなると必然的に収納力の高いクルマを求めることになる。
「クルマ選びの基準は、とにもかくにも荷物が積みやすいことです」と語るが、話していくうちに、彼女がクルマに求めるものが、それだけではないことに気づかされた。

特に、高速道路を運転中のこと。いきなり岸本さんが「このクルマってエンジンの搭載位置が低いですか?」と尋ねてきた。たしかに、このGLAは一般的なクロスオーバーSUVと比較してボンネットの位置は低く、その走りの安定感には定評がある。女性の口からはなかなか聞かれない言葉。現在、岸本さんの愛車は水平対向エンジンを積んだステーションワゴンなのだが、その愛車に通じるようなロードホールディング性能を感じたのだという。
「カーブを通過するときも路面をきっちり這っているような、地面を捉えているような感覚があったのです」とその乗り味を評価していた。

皿などの割れやすいものや、ケーキなど繊細なものを載せることもあるから、路面からの入力も気になるところだ。これに関しても、突き上げや振動が少なく、安心して荷物を運ぶことができるし、座ったシートもしっくりとくるような“包まれ感”があったという。
「そんなにクルマには詳しくない」というが、クルマの良し悪しを直感的に感じることができる岸本さん。そもそもなぜ「流しの料理人」になったのだろうか。

「大学を卒業後、広告代理店に勤めていたのですが、ふとしたきっかけで夏は休日になると葉山の海の家で料理を作るようになりました。そこから発展し、カフェからケーキ作りを頼まれたりと料理を日常的に作るように。そうこうしていると、勤めていた代理店のクライアントにまで噂が及び、社員の誕生会用のケーキを毎月作ってきてほしいという話になったのです。そのケーキを気に入っていただき、結局、料理修業に出るまでの2年以上、毎月私から提案したいケーキを2台ずつ持って行くようになりました」

その後、まわりの声もあり会社を辞め、本格的に料理を勉強することを決めた。最初は何度も訪れたことがあったという米国カリフォルニア・ナパの料理学校を考えたが、ふと立ち止まったとき、アメリカ料理というものの実態、“根っこ”はどこにあるのかと考えるようになり、“根っこ”が欲しいと思った。和食やフレンチも考えたが、30歳を過ぎて修業するには時間がない。そんななかでたどり着いた答えがイタリア。よく、「マンマの味」といわれるが、イタリア料理は「女の人の味」なので、入り込む隙間があるように思った。
イタリアではスローフード協会が開いた学校で3カ月間勉強した。そこはイタリアの伝統料理を各州別に教える学校で、そのなかからさらに自分が勉強したい料理の店でスタージュ(研修)に入ることができた。最初に選んだのはイタリア中部、ローマの東に位置するアブルッツォ州の山あいにある店で、料理だけでなく言葉までも教わった。いまも交流があり、毎年店を訪れるという。さらに約2年のイタリア修業後、いまから約9年前に料理人となった岸本さんは帰国した。
帰国後、出張料理人になったことを聞きつけた前述の会社からもオーダーが入り、その関係性はいまも続いているという。ケーキを作り、運んでいた当時とは荷物の量も違う。必ずしも家で料理をするとは限らない。例えば、去年は鹿児島の山林の中で300人前の料理を作った。キッチンすらない場所だったから、ホームセンターでキッチンの代わりになる道具を揃えて即席キッチンを作った。

「出張料理はどんな場所に行くことになるかわからないから、クルマは機動力があるほうが絶対にいい。今回、試乗させていただいたGLA 220 4MATICはそんな期待に応えてくれるクルマ。キビキビ走れる足回りの良さと安定感のバランスが取れていて、運転していて楽しかったです。大き過ぎず小さ過ぎないサイズ感もちょうどいい。そして見た目以上にラゲッジルームが広くて、普段、出張料理に持参する荷物がぴったり収まったのも良かったです。運命を感じてしまうほど、ぴったり(笑)」
ラゲッジに積んだ発泡スチロール素材の黒いボックスは、密閉力が他社のものに比べて格段に高く、長時間の移動でも安心して食材を運べるという。その右にあるハンドル付きのカゴは、フランスで漁業に使われているカゴと同じ素材で作られており、耐久性が高く、重いうえに割ってはいけないお皿やビン類などを持って運ぶのに最適だという。どちらも外国製ゆえ日本のものとは規格が異なるのか、国産車ではしっくりこない隙間が生まれてしまうのだとか。
「でもGLAは欧州車だからなのか、偶然なのか、私が使っているこれらの収納用品がラゲッジにぴったりとはまりました。荷物がきちんと収まっている安定感、“片付いている感”はシックで端正な印象で、見ていてうれしくなります」
生まれたのは愛媛県の松山だが、子どもの頃から家族の転勤に伴い、引っ越しを繰り返してきた。母親は広島で、父親は石川の出身。場所に縛られず、自由に、求められる場所で料理の腕を振るう岸本さんのルーツは、そんな生い立ちにあるのだろう。彼女はこれからも日本の、世界の各地で料理を作り続ける。クルマのハンドルを握り、道路の感触を感じながら、時に長い道のりを走る。ラゲッジルームに、たくさんの食材と道具と、料理に込める想いを乗せて。そんな彼女の相棒に、GLA 220 4MATICは最適な一台なのではないだろうか。
PROFILE
岸本恵理子 / Eriko Kishimoto

出張料理人、料理メニューアドバイザー、フードコーディネーター、イタリア・スローフード協会・スローフードマスター。レストランのメニュー開発、ワインと料理のマッチングについての執筆、広告およびTV番組のフードコーディネート、ワインイベントにおける通訳など幅広いフィールドで活躍。