
豊かな産業が生んだ文化
「岡田製糖所」で丁寧な手仕事を目の当たりにした私たちは、吉野川をまた少し下流へ下り、徳島市街地へと向かいます。
次の目的地は「阿波十郎兵衛屋敷」、この徳島に残る人形浄瑠璃の舞台上演と資料展示が見られる阿波人形浄瑠璃の拠点施設です。
前回に引き続き、車はC220 d STATIONWAGON AVANTGARDE。カラーはダイヤモンドホワイトです。長距離や高速での加速も安定していて、安心して旅ができます。
前編でも触れましたが、この大きな吉野川は徳島にたくさんの産業をもたらしました。
豊かな水を運ぶだけでなく、幾度となく氾濫した川は、その度に栄養豊富な土を運び、農作物を実らせ、豊かな土地となりました。その様々な産業の中でも、この徳島で最も代表的なものは「藍」と言えます。
徳島の藍は他の産地のものに比べて質が良く値も高く取引されたほどで、そのため豪商と呼ばれる藍商人もたくさん存在しました。そんな豊かな商人たちと、周りの農民たちが育み育てた文化「阿波人形浄瑠璃」の魅力を感じてみたいと思います。
庶民に受け継がれた阿波人形浄瑠璃
「阿波十郎兵衛屋敷」に到着すると、館長の佐藤憲治さんが出迎えてくださいました。
このお屋敷は板東十郎兵衛という庄屋さんのお屋敷跡を利用した施設で、阿波人形浄瑠璃の上演や、様々な貴重な資料が見ることができる施設です。
まずは佐藤さんに案内されて、資料の展示室へと向かいます。
展示室には古い資料や、人形が展示されていて、その一つ一つを丁寧に佐藤さんが説明してくださいました。
この阿波人形浄瑠璃の成り立ちですが、浄瑠璃という日本の伝統的な語りもの音楽に人形芝居が合わさり、西暦1600年頃にこのような人形浄瑠璃という芸能が成立したようです。その時に人形を操ったのが、淡路島の人たちであると言われています。淡路島は江戸時代には、徳島藩の領地であったことから、早い段階で徳島へも人形浄瑠璃が伝わりました。徳島では、藍商人がスポンサーとなって頻繁に人形浄瑠璃の公演が行われ、やがてそれは県南部の農山村にも広まっていったそうです。そこでは地域の人々が、神社の境内に多数の人形芝居専用の野外劇場農村舞台を建て、「人形座」を作っていきました。そして春秋のお祭りで芸能を鎮守の神に奉納するという形でどんどん発展していったそうです。
昔から日本人は、お祭りや、行事で、神様に芸能を奉納するということを行ってきましたが、今ではその芸能も少なくなってきているのが現状です。しかしこの徳島には今でも人形浄瑠璃がしっかりと受け継がれているようです。
現在でも人形製作者は40名ほど、演じる「座」は30組ほど残っているそうです。
阿波人形浄瑠璃の人形は、農村舞台など屋外で演じられたことから、頭が大きく光沢があるのが特徴です。制作の工程なども資料館ではわかりやすく展示されています。
また太夫さんの楽譜など、普段見ることのできない資料も見ることができます。
こちらで説明を受け、予備知識を得たところで、阿波人形浄瑠璃の上演を見に舞台へ移動することにしました。
初めての阿波人形浄瑠璃体験
阿波人形浄瑠璃は義太夫節の浄瑠璃と太棹の三味線、3人使いの人形の三者によって演じられる人形芝居です。
本日上演してくださる大谷旭源之丞座は、なんと170年に渡りその技を継承されてきた伝統ある「座」の方達です。演目はこちらの「阿波十郎兵衛屋敷」の十郎兵衛さんをモデルに創作されたお話「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」です。
カチカチと甲高い拍子木の音が鳴り響き、上演が始まります。
よく通る義太夫さんの語りに合わせ3人で操る人形が、まるで本当に生きてるようにしなやかに動きます。表情もまるで感情が表れているように見えるので不思議です。
効果的に重く響く三味線の音に心地よさを感じながら物語に引き込まれて、瞬く間に時間が過ぎてしまいました。
上演が終わると大谷旭源之丞座のみなさんが、人形を持って舞台挨拶をされ、
私たちにわかりやすく説明をしてくださいました。
人形たちはそれぞれの「座」が所有しているのだそうで、今回使用された人形は制作されてから100年程経ったものとのこと、大切に修理されながら使われてきたのだそうです。そんな貴重な人形を実際持って見て動かすという特別な体験もさせていただきました。
持ってみるととても重く、操作も複雑です。それぞれの指で細かな動作を同時に行うので、人形の重さと慣れない動きで長い時間持っていることはとても困難です。
頭部分、腕の動き、足の動きと3名がそれぞれ分担しているとはいえ、とても体力が必要です。細かな動きは日々の鍛錬を相当されているのだなと感じました。
人形を操る黒子の方達は、立ちながら人形を少し上に掲げて動かします。
黒子の方達の足元は隠されていて人形の足元に合わせた舞台となっていますが、見えない足元は人形を高く持ち上げるため舞台下駄と呼ばれる高下駄のようなものを履いているのだそうです。人形操作だけでも大変なのに、このような履物を履きながら動くなんてと、驚いてしまいました。
人形の作りはシンプルでありながら、とても効果的に動かすことができたり、観せれるようにうまい具合に作られていて、 長きにわたり工夫を重ねられてきたことが伺えます。
私たちが理解しやすいように、普段人形の着物の下に隠れて見えない操作の部分を、外して動かし見せてくださったので、より構造を理解することができました。
大切にしてきた芸能に込められた思い
このシンプルながら絶妙に作られた人形を制作する人を人形師といいます。特に「頭」の作りが人形の命を吹き込む為には、とても大切になってきます
人形浄瑠璃が盛んだったここ徳島からは、優秀な人形師を多く輩出しました。
今でも、大阪の文楽をはじめ全国各地で徳島の人形師が製作した人形が使われています。
しかし人形浄瑠璃に携わる人々が多く残る地域と言われるこの徳島でも少なくなってきていることが現状で、人形師は40人ほどといっても長い経験と知識、技を持っている人は、ほんの一握りしかいらっしゃらないのだそうです。ここ「阿波十郎兵衛屋敷」ではそんな現状を考えながら、未来へこの文化をつなげていくために人形浄瑠璃の上演や資料の展示の他にも、阿波人形浄瑠璃の魅力を伝えるための様々な取り組みを行っています。
400年以上前に生まれ、発展して日本中に広がっていった人形浄瑠璃ですが、今ではこの徳島のように引き継がれているところは数えるほどになってしまいました。
商人や農民などの庶民に受け継がれてきた大切な文化、祭りなどの祭事や祈りの為に発展してきた芸能を大切にすることは、私たちが何を思い、何を大切にしてきたかを問い直すことなのではないだろうかと思いながら、100年以上大切に使われてきた人形の、可愛らしい表情を眺めていました。
店舗データ
阿波十郎兵衛屋敷

〒771-0114 徳島県徳島市川内町宮島本浦184
tel: 088-665-2202
fax: 088-665-3683
http://joruri.info/jurobe/
定休日:12月31日〜1月3日
営業時間 : 9:30~17:00 (7月1日〜8月1日は18:00まで)
専用駐車場あり
<urakuプロフィール> http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)と
TOKYO DRESS などのプレスやアパレルブランドのディレクションを勤める
石崎由子(いしざきゆうこ)2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。
<Special Thanks>
Continuer:Sunglass