
私が大学生活を送ったのは、ちょうどバブル期。日常生活にはいつもクルマが存在し、通学にも遊びに行くにも、友達同士クルマに乗り合わせて行動するのが常だった。女子の間では、カラフルでコンパクトなフォルムのものが人気の中、私が父から与えられていたのは、Eクラスのシルバーのクーぺ。若い女の子が乗るには少々いかめしく、助手席に座った後輩などは緊張してしまう。私はクーペを遠ざけ、友だちのクルマに便乗するようになった。
ある日の朝、玄関を出ようとすると、父に呼び止められた。「その格好で学校に行くのか」。振り向いた私が着用していたのは、当時流行っていたディストレス・デニム。作業着のジーンズを先生の前で履くとは何事か、というのが当時の我が家のルールだった。「パパは今の若い子の気持ちが全然わかってない。クルマだって、もっと女の子らしいものに乗りたい!」。度重なる見解の違いに思わず不満を口にすると、父から一蹴された。「娘を守れるクルマのどこがいけないんだ。自分は君の父親だ。君を守っていく!」
自分が親となった今、父が言ったその言葉の意味が、心から理解できる。大学生の息子の行動と選択は、私を心配させることもあるけれど、親として思うことは父と同じ ――― 精一杯応援しながら、互いを思い合うことの大切さを伝えていくこと。
現在の我が家の愛車はメルセデス。夫や子どもの送迎など些細な日常に、あの時の父の毅然とした姿をふと思い出す。今月、父は喜寿を迎える。家族揃ってこのクルマに乗り、お祝いに出かけるのを今から楽しみにしている。
※このコンテンツはユーザーの皆様からのストーリーをもとに再現しており、モデルの表記や仕様については実際と異なる場合があります。