
代々木上原の住宅街を抜けて
前編に引き続き、東京で暮らすことや住まうことをテーマにめぐる旅の中編は代々木上原にある「などや代々木上原」へ向かいます。
代々木上原駅から徒歩で3分ほど、駅近くでありながら住宅が多くオフィスとお店は点々とあるといった場所に「などや代々木上原」はあります。
人通りも程々にあり、くねくねと細い道が交差する代々木上原駅前近くの道を走るのは、前回の旅と同様メルセデスEQ。CO2を排出しない100%電気自動車で、シリーズの中でもコンパクトSUVモデルのEQA 250、カラーはマウンテングレーです。メルセデスEQならではの新感覚とも言える滑らかで振動をほぼ感じることのない静かな走りは、他のシリーズと同様です。またコンパクトな車体なので、細い道や細かなコーナリングでもスムーズにこなしてくれます。その上、馬力も加速も抜群で、コンパクトと言いながらも車内はゆったりとして心地よい空間です。静かな走行なので、こういった住宅街で安心して走れることも魅力の一つです。
さて、ドライブを楽しんでいたら目的地の「などや代々木上原」に到着です。

ゆるりとした空間でまずはコーヒーを
「などや代々木上原」に到着し車を降りると、エントランスからふんわりとコーヒーの心地よい香りが漂ってきました。数年前まで住居として活用されていたその場所は、商業施設というよりは今も誰かが住んでいるという雰囲気が漂う門構え、石作の門柱の上にあるクリアなボックスの中にコーヒー豆とコップがさりげなく飾られていて、一体どんな空間なのだろうかと期待が高まります。
門をくぐり中へ入ると、楽しそうに会話をしている2人の姿がありました。「などや代々木上原」を運営している「などや」の共同代表である、建築ディレクターの岡村俊輔さんと、国内外で展示やインスタレーションなどを行うテクニカルディレクターの遠藤豊さんです。私たちに気づいた2人はゆるりと立ち上がり「おはよう、いらっしゃい」と優しい笑顔で迎えてくださいました。
築60年ほどの民家には中庭があり、中庭に面してコの字型に建てられた建物の奥にコーヒースタンドが、手前はガラス張りのギャラリー空間が設置されています。
まずはコーヒーでもと促され、コーヒースタンドのカウンターへ向かいます。
こちらの「nadoya no kaTte / ナドヤノカッテ」は神保町のGLITCH COFFEE & ROASTERS監修のコーヒースタンドで、個性的な果実味溢れるライトローストが特徴です。
カウンターでは今日いただけるコーヒー豆の香りや味わいなどの特徴を細かく説明してくださり、一つ選んで注文すると、その場で豆を挽きドリップしていただけます。
飲んだ瞬間、他とは違う味わいを感じました。香りと、豆自体の特徴や魅力がダイレクトに感じられ、アロマをより深く新感覚で楽しめるコーヒーと言えるのかもしれません。
香りと味をゆっくりと楽しみながら、2人にこの場所のお話を伺うことにしました。
自らの手を動かして作る“心地よい場”
築60年ほどという民家は、大きな桜の木を中心に梅や松などさまざまな植木が植えられたお庭がとても印象的です。このお庭の魅力を活かしながらバランス良くリノベーションされています。
施工業者の方にも入っていただいていますが、内装部分などを中心にかなりの部分は彼らの手で作り込まれているのだそうです。
建築ディレクターの岡村俊輔さんは前職でもリノベーションを多く手がけていらっしゃったそうで、その建物の魅力を活かしながらこの代々木上原という街に溶け込むように“心地よい場”づくりをされています。
コーヒースタンドのあった場所はもともと浴室だったそうで、そこにあったタイルを活かそうと、一度剥がし割れたところはそれぞれに金継ぎを施してまた壁に貼り、ギャラリーに配されているキッチンカウンターも、今ではあまりみられない美しい研ぎ出し仕上げに。こちらも岡村俊輔さん自らが施されたのだとか。
他にも、コーヒースタンドのカウンター部分は洗い出し仕上げ、隣の家との境に建てられた立派な壁も土壁で、これらももちろん自ら施されています。施工だけではありません、庭木の剪定も彼らが自ら行っていてこの空間全てに手をかけています。
デザインや設計をされるだけでなく、自らの手を動かすことにこだわり2人は動かれています。
一つ一つ丁寧に作り込んでいるからなのか、すらっとしたスタイリッシュな部分と、温かみを感じる手作り感を感じる部分のバランスがとても絶妙で、そのバランスの良さが居心地の良い空間を生み出しているのかもしれません。
また、ここで行われる展示やイベントの設置や装置、キュレーションも、テクニカルディレクターの遠藤豊さんを中心に自分たちの手を動かし、一つ一つ丁寧に作られています。彼らのそんな真摯な態度や柔らかな人柄もあってか、注目のアーティストやデザイナーの展示やインスタレーションだけでなく、様々な分野の展示やイベントが行われていて、話題を集めています。
彼らが運営する「などや」が生み出す空間は、ハードもソフトも合わせて温かみと人間味が感じられる“心地よい場”なのです。
高知のお祭りで出会いイタリアで再会
こんな素敵な場所ですがどのような経緯で出来上がったのか、とても気になり、今度はお庭に座りながらゆっくりとお話を伺うことにしました。
2人の出会いはと伺うと、照れ臭そうに話をはぐらかしながらも少しずつ話してくださいました。
前述もしましたが、岡村俊輔さんはこれまでも建築ディレクターとして活躍されていて、遠藤豊さんはオランダと東京を拠点に、展示やインスタレーションなどのテクニカルディレクターとして活躍されていました。
たまたまどちらも友人に誘われて訪れた高知のお祭りで紹介され出会うことになります。その時はたくさんの人と一緒だったので知り合いといった関係でしたが、その後、岡村俊輔さんがイタリアの建築関係の展示会に訪れる際連絡を取ってみたら、偶然にも遠藤豊さんも同じ場所にいて、2人は合流してそこで親交が深まることになったのだそうです。詳しく伺うとキックボードを2人乗りして街を巡ったりしたのだとか。まるで「ローマの休日」大人の男性版のようですねとその場で一同笑ってしまいました。
帰国後、前職を退職、独立した岡村俊輔さんが以前から温めていた構想があり、物件を探していたのですがなかなか良いところが見つからず、やっと見つけて契約まで漕ぎ着けたのですが、時はちょうど2020年の2月、世の中で様々な自粛ムードが漂い始めます。その上2年の定期借家ということもあり、暗礁に乗り上げた岡村俊輔さんは、ふと、ちょうど帰国しているという遠藤豊さんに連絡します。そこでいろいろな知恵を出し合い、手探りながらも「などや恵比寿」のリノベーションが動き出したのだそうです。
“心地よい場”を求めて
温もりを感じながらも細部へのこだわりを感じる「などや」の空間ですが、どのように計画し、どのように2人で意見を出し合っているのだろうかと伺うと、それぞれの専門分野が違うので自然と棲み分けているのだとおっしゃいました。「などや」の名前も2人でお酒を飲み交わしながらヒョイと決まった名前なのだそうで、そんな感じで成り行きや周りからの影響から決まることも多いのだそうです。
実際「などや恵比寿」の「Fuyu Gallery」も手前にあった建物が予定より早く取り壊され、目の前が開けたという環境の変化に、2人が思いつきで対応した結果なのだとか。まず環境や時代、その場にあった「箱 / 空間」を作り出し、そこに意味と哲学をつけていくそんな作業で「などや」は動いていると語ります。
そしていつも自分たちにとっても“心地よい場”であることにこだわり続け、探し続けているのだそうです。
さて、お話に出てきたもう一つの「などや恵比寿」は今年(2022年)3月までの定期借家だったそうで、実は今日がお別れ会。彼らもこれから向かうのだと伺い、私たちもお別れ会に参加することにして、恵比寿に向かうことにしました。
物(場)があって、そこから哲学(思想)が生まれる
「などや恵比寿」に到着するとそこは、“などやのお通夜”と称された会場になっていました。
会場には祭壇まで設けられ、2人も喪服に着替えるという徹底ぶり。2人が手塩にかけて作り上げたこの空間に対する愛情を感じます。そしてこの場所を愛した人々が次々と訪れお酒を酌み交わし別れを惜しむ時間が始まりました。
古びた民家をリノベーションした場所が、こんなにもたくさんの人を惹きつけ愛される“心地よい場”へ変化した姿を代々木上原、恵比寿と観て体感することができました。
この場所が生み出す力というものをあらためて感じ、先ほど代々木上原でコーヒーを飲みながら2人が緩やかに語ってくださったことを思い出していました。
それは、「などや」はハードウェアの仕事で、さまざまな創造的な交流などを生み出す“ハブ”なのだと、目まぐるしく移り変わる情報や時間の中で、ふと立ち止まり左右、上下を奥深く見つめ直し、つながる場所なのだと、哲学(思想)があって物(場)が生まれるのでなく、まず物(場)があってそこから哲学(思想)が生まれるのだと。
急流の川では交わることができない水も、そこに石を投じたら、その石の周りに澱みができたり、渦ができたりと流れが変わったり、交わったりする、時間が経てば、そこに魚や植物も集まってくる。そんなことなのではないかと。混迷の2年間を過ごした私たちは立ち止まること、そしてつながることが、人が生きて生活することに不可欠なのではと感じ始めています。
「などや」は“心地よい場”というハードウェアを作り、アート、食、文化という効率や合理性だけにとらわれていない物や事を通して、私たちに未来に向けてどう暮らしていこうかと問いかけているようです。
恵比寿はなくなるけれど、また次に違った形の“心地よい場”を計画中だと「などや恵比寿」にお別れを告げにくるお客様にお酌をし、ゆるゆると語る2人を眺めながら、この“心地よい場”をもう少し感じてみようとぼんやりお庭の大きな梅の木を眺めていました。
施設データ
<urakuプロフィール>
http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とアパレルブランドのプレスやディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)の2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。また梅仕事など日本の食文化を伝えるため栽培から生産まで行い、その際に出る剪定枝を使用した草木染め事業もスタートするなど、手仕事と循環をテーマにしたライフスタイル提案も行っています。
<Special Thanks>
MARGARET HOWELL:Tops、Pants
ABOUT CAR
EQA 250
メルセデス・ベンツの電気自動車ブランド、メルセデスEQのコンパクトSUVモデル。静粛性が高く、室内空間はフューチャリスティック&ラグジュアリー。パワフルなモーターを搭載しているので立ち上がりもスムーズ。EQCと同じく、新しいクルマの楽しみ方を教えてくれる一台です。