She’s Mercedes meets Japan / Vol.24

東京都環状線 前編 株式会社竹中工務店 鍵野壮宏

思いを引き継ぎつなげ、豊かに暮らすまちづくりへ

日本各地に伝わる手仕事や、受け継がれてきた技を次世代へ伝えようと、活動をしている「uraku」。彼女たちが旅のみちみちで出会う日本の美しい風景や物、事、そしてそこに集う人々のつながりを、メルセデスと共にみつめる旅紀行。女性2人ならではのロードストーリー。2022年新年度を迎え、今年度最初の旅は、桜がきれいな東京の街を、暮らすことや住まうことをテーマにめぐる旅からスタートします。引き継がれてきた思いと、そこから生まれる人々のつながり、さらにはより良い未来へ向けて新たな発信や試みをされている魅力的な方々を訪ねます。

photo/鬼澤礼門
text&edit/石崎由子(uraku)
navigator/田沢美亜(uraku)

桜がきれいな千鳥ヶ淵を抜けて

様々な出来事が起こった激動の2021年を乗り越え、迎えた2022年も新年度を迎え、新緑が綺麗な季節となりました。2017年から続くこのメルセデスでの旅も今年で6年目を迎えようとしています。
2020年からの時代のうねりの中で、改めて身の回りのこと、環境のこと、豊かさについて思いを巡らしたという方は多かったかもしれません。そんな思いを私たちなりに考えて、今年初めての旅へと出かけました。
始まりはメルセデス・ベンツ日本のお膝元である東京の街からということで、今年初めての旅は東京で、“暮らすこと、住まうこと”を軸に未来を見つめた提案をされている面白い方々を訪ねます。
前編となる今回の旅は、創業1610年、宮大工の棟梁を起源とし、数多くのランドマークとなる建築物の設計施工の実績を持つ大手総合建設会社(ゼネコン)である竹中工務店が、建物の価値を未来に継承すべく2018年よりスタートした「レガシー活用事業」として手がける歴史的建築物をめぐり、彼らが目指すまちづくりの思いを伺います。

今年も旅を一緒にするのは、もちろん、メルセデスEQ。その中でもコンパクトSUVモデルのEQA 250で、カラーはマウンテングレー。CO2を排出しない100%電気自動車で、地球環境などを踏まえた新しい車移動のあり方を示唆する存在でもあります。メルセデスEQならではの、新感覚とも言える滑らかで振動をほぼ感じることのない静かな走りは、とても快適で疲労感を感じさせない乗り心地です。都内のような入り組んだ道路や、繰り返される信号停止などにもその乗り心地は快適さを保ちストレスがなく運転できます。
コンパクトながらも車内空間は広々としていてラゲッジにはたっぷりと荷物を詰むことができます。
“MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)”はさらに進化しているとのこと、色々試してみようかなと思いながら、まずはいつも通り「はい、メルセデス!」と呼びかけてカーナビに目的地を伝え最初の目的地、九段下にある「九段ハウス」へ向かいます。
品川から九段下までの20分ほどのドライブの途中には、皇居脇の千鳥ヶ淵を通ります。ちょうど見頃を迎えた桜のお花が、一面薄ピンク色に染まっていて、美しい光景が広がります。そんな桜並木の脇をゆっくりと眺めながらドライブしていたら、目的地の「九段ハウス」に到着です。

九段下にある目を引く洋館

到着すると、待ち合わせしていた竹中工務店の鍵野壮宏さんが、門の前で待っていてくださいました。こちらの九段ハウスは、「旧山口萬吉邸」として2018年に登録有形文化財となった建築物です。関東大震災直後の1927年に建てられ、建築家は構造設計、耐震構造の生みの親とも言われ、東京タワーを始め多くの有名な建築物を設計した内藤多仲さんをはじめ、木子七郎さん、今井兼次さんという当時としてはとしてはトップクラスの方々の手によるものと伺っただけでも興奮してしまいます。
九段下駅や日本武道館などからも近く、東京の中心地とも言える場所に、およそ290坪という広い敷地を持ち、そこに鉄筋コンクリート3階建、地下1階のスパニッシュ様式の洋館と、美しい庭園があり、通りかかった人たちの目を惹く存在です。
現在この場所は「kudan house/九段ハウス(以後九段ハウスと明記)」と名前を改め、会員制のビジネスイノベーションの拠点として活用されています。
取り壊されるケースも多い九段ハウスのような歴史的な建築物をひとつでも救うために、竹中工務店は、歴史的建築物を所有者から一括で借り受けて活用する「レガシー活用事業」を2018年に始めました。ここ九段ハウスは、東急、東邦レオと3社共同で、オーナーから建物を借り受け取り組んだプロジェクトです。
その「レガシー活用事業」を立案し、推進されている方が、今回ご案内いただく鍵野壮宏さんで、立案者ご本人から色々な思いを伺えるとあって弾むような足取りで、「九段ハウス」のエントランスへ足を踏み入れました。

魅力を残し、さらに進化させるリノベーション

エントランスを抜け1階ホールに入ると、その格調高さに圧倒されます。床のタイル、ランプシェード、空調を隠している美しい意匠を施された金属製の柵、入口のアーチの形などなどたくさんの細かな部分にこだわりを感じます。階段を上りゆっくりひと部屋ずつ、鍵野壮宏さんは建物の魅力について説明をしてくださいました。
建物の大きさの割には、部屋割りが細かく、ひとつひとつのお部屋の面積が小さめですが、それは内藤多仲さんの構造設計の考え方で、ここには柱や梁がほとんどなく、分厚い壁で建物自体を支えているのだそうです。
その分厚い壁は24cmにも及び、建物の改修の際に耐震補強は必要なかったというから驚きです。また、中には空気の通り道があり、建物内に空気が循環するように設計されているのだとか、ところどころの壁の片隅に可愛らしい空気の窓があり、デザインや意匠だけでなく、構造設計の緻密さに驚いてしまいました。この空気の通り道は、寒い時には地下のボイラー室で温めた空気を通し循環させて、建物全体を暖かくするのに活用されていたのだそうで、エネルギーを有効に活用するシステムがすでに取り入れられていたようです。
3階まで行くと広々としたテラスが広がっていて、この場所でもさまざまなイベントなどが行われ活用されています。お風呂場や洗面所などもきれいに修復されていて当時の美しい暮らしに思いを馳せることもできます。

建物を見せていただいた後は、1階まで戻り今度は素敵なお庭を見せていただきました。
お庭に出る手前に広がるポーチには大きな窓がいくつもあり、お庭から地続きのような感覚でゆったりできるように設計されています。外壁のゴツゴツしたテクスチャーもお庭の雰囲気を効果的に見せていて、当時アメリカで流行し日本に入ってきたというスパニッシュ様式の建築物によく見られる特徴なのだそうです。
改修にあたり、当時のままの姿を残し修復したところもあれば、ビジネスイノベーションの拠点として使いやすい空間にリノベーションされたお部屋もあります。しかしどれも建築家と、現在の持ち主であるご子息の意向を取り入れながら、全てに程よいプランを話し合いながら行っているのだそうです。
現在は会員企業の研修や展示会、会員同士の交流を深めるプログラム等、企業のビジネスを促進する利用も多いのだとか。
街の象徴とも言える存続を危ぶまれた建物が、新たな形で人々がつながる“場”へアップグレードして再生した形なのだなと感じました。

1932年に建てられた新橋の「堀ビル」

「九段ハウス」を見せていただいた後、もう1件東京で彼らが手がけた建築物へ移動します。
こちらも行き交う人々が足を止めてしまうような魅力的な建物で、新橋駅から程近く外堀通りに面し、登録有形文化財に登録されている「堀ビル」です。
「九段ハウス」からは車で15分ほど、また桜を眺めながらEQA 250でドライブをする間、車の中で鍵野壮宏さんから見どころなどを伺っていたら、あっという間に到着です。
こちらの「堀ビル」は1932年に錠前や建具金物を製作、輸入販売されている、創業1890年という老舗、堀商店の自社ビル及び自宅として建てられました。
ここ「堀ビル」も関東大震災後の建築で、当時は周りに高い建物もなく、日本初の鉄道駅舎新橋駅と並んでモダンな作りが目を引く存在だったそうです。
先ほどまでいた「九段ハウス」の静かな環境とは違い、こちらは日本有数のビジネス街のど真ん中とあって、人々がひっきりなしに行き交っています。そんな立地を生かし、この場所はシェアオフィス「goodoffice新橋/堀ビル(以後堀ビルと明記)」として運営し活用するという事業を、グッドルーム株式会社と共に「レガシー活用事業」のプロジェクトとして行っています。
さて、到着し車を駐車したら、今度は「堀ビル」の魅力を探りに建物の中へと入ります。

このビルは、オーナーがオーダーメイドの丁寧な手仕事の錠前や建具金具などで評判の堀商店とあって、とにかく細かな部分の金具たちがどれもこれも美しく、また機能的に作られていて、細部も見逃せない建築です。
エントランスにあるランプ、ところどころに施された鉄製の柵、それぞれの部屋の扉や窓の鍵、大きな扉の取手、ドアストッパー、階段の手すりなどなど、その仕事の美しさと芸術性に、度々足を止め、ため息をつくほどでした。現在はこの場所から移転し変わらず営業している堀商店ですが、実は「九段ハウス」で見られた鉄製の金具や柵などの修復を手がけていらっしゃるのだそうです。
当時住居空間だった5階に上がると、今までの洋風オフィスとはとは違う空気が漂っていました。天井の網代が美しいお茶室、暖炉が印象的な書斎のような部屋、角に面しカーブし見通しの良い窓がある子供部屋、どこも隅々まで細工が美しい空間でした。屋上は広々としていて、石造りのレリーフなども修復し当時の面影を残しています。建物外壁のテラコッタタイルにもいくつものレリーフが施されていてその全てが綺麗に修復されています。現在屋上は植栽の工事中で、近々ベンチなども設置し憩いの場所として生まれ変わるのだそうです。

あたらしい“場”を作るということ

「九段ハウス」、「堀ビル」は、共にそれぞれの建物が持つ特徴と、存在する区域、そしてオーナーさんの意向をうまくまとめ新しい“場”へと見事に変身しています。どちらも歴史的にも貴重で素晴らしい建築物ですが、オーナーさんが維持し、未来へ残し続けること、また使い続けることはとても大変なことです。竹中工務店が始めた「レガシー活用事業」はそういった全てのことを請け負い、未来へつなげるため運用のことまで一緒に考え、ひいてはこの歴史的財産を街のためになる存在へと導いていくプロジェクトなのだと思います。
その「レガシー活用事業」ともつながるプロジェクトである京都山崎にある「聴竹居」という重要文化財の建築物へ、実は私たちは伺ったことがあります。建物を中心としたとても素晴らしい取り組みで、そこでこのような活動を竹中工務店が行っていることを知りました。
今回同行してくださっている鍵野壮宏さんがその「レガシー活用事業」の立案者とのこと、どのような思いを抱いていらっしゃるのかその部分を建物の見学を終えたところでゆっくり伺うことにしました。

鍵野壮宏さんは大学で建築や設計を学び、将来はそんな仕事をと漠然と考えていたそうです。大学の頃代官山のヒルサイドテラスを中心とした代官山のまちづくりの活動に参加することになり、その活動での出会いが彼に衝撃を与え、自らの進路への変化へとつながったのだそうです。
人の目を引くような歴史的な建築物を有効的に活かすことで、人と人が行き交う“場”が生まれ、新しいカルチャーも生まれます。街が活性化し、良い方向へ向かっていく、そんな感覚を覚えたのだそうです。
建築や不動産の持つ新たな側面、スクラップアンドビルドにはもたらすことができない可能性を肌で感じたのだとか。その時のご縁で竹中工務店のことを知り入社、社内で新しい事業を募集するコンペに提案し、現在の「レガシー活用事業」へとつながっていったのだそうです。

過去からつながる良いまちづくり

前述しましたが、1610年の創業で、宮大工の棟梁を起源とする竹中工務店は、現在は日本では有数の大手総合建設会社の1つです。そんな中でもこのような取り組みに注目を続けているのは、その宮大工発祥という部分に誇りを持っているからだと話してくださいました。実際神戸には日本唯一の大工道具を収集した博物館「竹中大工道具館」を設立し、また自社での設計にこだわり、手がけた建築物を“作品”と考え、良い作品を社会に残す、そんな理念が会社の根底に流れているのだそうです。
そんな会社だからこそ、鍵野壮宏さんの思いと目標がうまく共鳴し様々なプロジェクトが行われているのだと思います。

高度成長、バブルなどを経て、ただただスクラップアンドビルドするだけでは体験できない、引き継がれた思いや土地に潜む感覚など、そんな部分を私たちは、大切だったのだと思い出し始めています。
400年近く建築に携わってきた会社だからこそ、その思いを感じることができているのかもしれません。
人々が安心して暮らせるようにと先人が考えて思いを込めて作られた建築物に、新しい価値をプラスし、
引き継ぎながら“今“の私たちがその場所でまたさらに新しい価値を見つけていく、そうすることで人々がつながり、街が活性化し、より良い未来につながる。
良い暮らし、豊かな暮らし、とはなんだろうかと問い始める時に、過去同じように考えていた人々の考え方や感覚に思いを巡らせ、その上みんなで考えられる。そんな“場”がここにはあるのだなと、美しい唐草紋様の鉄柵の影を眺めながら、改めて感じていました。

施設データ

kudan house/九段ハウス(旧山口萬吉邸)

kudan house/九段ハウス(旧山口萬吉邸)

〒102-0073 東京都千代田区九段北1-15-9
https://kudan.house

goodoffice新橋(堀ビル)

goodoffice新橋(堀ビル)

〒105-0004 東京都港区新橋2-5-2
https://goodoffice.work/locations/shimbashi/

株式会社竹中工務店

https://www.takenaka.co.jp

<urakuプロフィール>
http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とアパレルブランドのプレスやディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)の2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。また梅仕事など日本の食文化を伝えるため栽培から生産まで行い、その際に出る剪定枝を使用した草木染め事業もスタートするなど、手仕事と循環をテーマにしたライフスタイル提案も行っています。

<Special Thanks>
MARGARET HOWELL:Tops、Pants

ABOUT CAR

EQA 250

メルセデス・ベンツの電気自動車ブランド、メルセデスEQのコンパクトSUVモデル。静粛性が高く、室内空間はフューチャリスティック&ラグジュアリー。パワフルなモーターを搭載しているので立ち上がりもスムーズ。EQCと同じく、新しいクルマの楽しみ方を教えてくれる一台です。

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