
諏訪の未来をデザインする
前編に訪れたリビセンで、心が温かくなるようなお話を伺い、ワクワクするお店を拝見させていただいた後に向かったのは、「諏訪未来デザイン会議」の代表を勤めている岡勇樹さんとの待ち合わせ場所です。リビセンの東野さんから少しだけ聞かせていただいた、この興味深い団体のお話を、もうすこし詳しく伺おうと向かうのは、諏訪湖畔にある、「東洋バルブ」跡地 / 通称 東バル跡地(以下東バル跡地と呼ぶ)。「諏訪未来デザイン会議」は諏訪圏周辺6市町村のまちづくりについての議論と行政への提案をしていくために立ち上がった団体です。東バル跡地へは東野さんも一緒に向かいます。
心地よい風を感じながら走る車はもちろん前回に引き続き、メルセデスが未来の地球のことを考えて2019年に発表した100%電気自動車のEQC 400 4MATIC、カラーはハイテックシルバーです。
ガソリンを使用しないこの車は、今回この諏訪で出会う方々のように、新しい常識と未来を軽快に切り開いてくれるようなスムーズな走りを見せてくれます。
アクセルを踏んだ瞬間にスーッと加速する感覚は、今までの車にはない感覚で、体へのストレスがかなり軽減されたように感じます。
気がかりだった充電ステーションの場所もナビゲーションシステムで検索できて安心です。
もちろんこのEQC 400 4MATICも「ハイ、メルセデス」と声をかけて尋ねれば答えてくれます。
さて、5分ほど車を走らせたら、目的地の東バル跡地へ到着です。
象徴的な場所「東バル跡地」
7.2ヘクタールほどあるという、広大な敷地の入り口付近に到着すると、ちょうどタイミングよく岡勇樹さんも車で到着されていました。
こんにちは、とこちらへ笑顔で向かうその姿は、ミュージシャン、もしくは音楽関係の方、というような雰囲気が漂っていました。
東野さんから紹介されて、少しはにかみながら話す丁寧な語り口調は、そのファンキーな出で立ちとは違う、気遣いにあふれる優しい印象です。
岡勇樹さんと東野さんは、メルセデスの電気自動車が気になるようで、充電口を見たり、ホイールを見たりとあれこれ感心しながら車を見ていました。
なんとなく、こういう好奇心や新しいものを柔軟にすっと取り入れてしまう心持ちが、未来を面白く描いていく原動力なのかもしれないと感じながら彼らを見ていました。
この東バル跡地は2002年に工場を閉鎖し、2006年には諏訪市が都市開発のため取得し、それ以来「諏訪圏工業メッセ」はじめ、様々なイベントが催されているのだそうです。
想像以上に広大な敷地に圧倒されながらも、すぐ脇には諏訪湖があるこの美しい環境が有効活用され、市民のための場所となったら素敵だろうなと想像していました。
「この場所は美しい環境だけでなく、諏訪という街の未来には歴史的にも大切な場所なんです」
と、少し熱が入った感じで東野さんが語り始めました。その様子をニコニコし、うなずきながら岡勇樹さんも話に加わり、ここの場所について教えてくださいました。
諏訪を中心としたこの諏訪盆地(主に、諏訪市、岡谷市、茅野市など)は諏訪大社や、縄文遺跡など歴史的な建造物や物などで有名ですが、他にも精密機器の工場地帯としても有名です。
かつては「東洋のスイス」と称されたこともあり、セイコーエプソンを代表とする企業や、またそこから輩出された人材たちによる精密機器の会社が連なります。豊富で美しい水があるためと言われていますが、その水の恩恵を受けたもう一つ忘れてはならない産業がシルク産業です。
養蚕が盛んな地域だったこともあり、明治以降大きく発展していきます。その頃、製糸工場で使用するバルブを生産したのが「東洋バルブ」で、寒冷地での大量の製糸工程の際に従来のバルブだとどうしても割れてしまうということから開発され、その製品はやがて世界的に大きなシェアを誇ることになります。前述したセイコーエプソンと並び、この会社から独立した優秀な技術者が様々な精密機器の会社を立ち上げていったのだそうです。
いわばこの東バル跡地は、近代諏訪地域の姿を形づくり、生み出したとも言える象徴的な場所とも言えるのです。
2人は口を揃えて、だからこそ、ここに新たに作る施設やこの場所の活用方法は、未来の諏訪にとってとても重要で、諏訪の未来の姿を形づくる象徴的で意味のあることだと語ってくださいました。
工場だった建物は現在も残っていて、今はイベントの展示場などに活用されています。
ただ耐震の問題もあり、ゆくゆくはこの建物も壊されてしまうそうです。がらんとした大きな何もない空間ですが、かつては活気に満ち溢れていたのだと思うと、彼らが言うように、この場所をまた諏訪の人たちにとって生き生きとした場所にしなければ、という気持ちになりました。
居場所を探した思春期、そして辿り着いた諏訪
工場ビルの周りをぐるっとまわったところで、東野さんは仕事のためにここでお別れです。
この後は岡勇樹さんにもう少し詳しい計画のお話を伺うことにし、その前になぜこの諏訪の未来の計画に加わることになったのかと、これまでの経緯を伺うことにしました。
岡勇樹さんは現在3つの会社を運営しています。もともと拠点は東京だったのですが、お子さんが生まれたことをきっかけに奥様の実家がある諏訪へ移住されたのだそうです。現在は東京や諏訪や、その他いろいろな地域を飛びまわり活動しています。
生まれは東京、その後サンフランシスコで11歳まで過ごし、また東京へ戻ってきますが、全くと言って良いほど日本の学校に馴染めず、少しひねくれた青春時代を過ごしたのだそうです。
馴染める場所を探し辿り着いたのが、米軍基地。そこで出会った仲間からの影響で、ライブハウスやクラブでの遊びの楽しさを教わり、その影響から音楽関係の活動を開始します。音楽イベントを行ったり、DJをしたりと活動していたところ、21歳の時に、どんな時も理解してくれたお母様を癌で失います。また、程なくして子供の時から全国を一緒に旅していた大好きなお爺様も認知症になり、その後亡くなるという大きな悲しみを体験します。
その経験から立ち上げた会社がNPO法人Ubdobe で、医療福祉に特化したイベントやデザイン、全国各地の行政機関とのタイアップ企画などを行っています。そこから発展し、デジタルアートとセンサーを活用したリハビリツールの開発を行っている会社、株式会社デジリハを立ち上げていきます。この2社もとても素敵な活動をされている会社です。
さてその後、家族が増えたタイミングで諏訪へ移住、暮らしやすい街だと思いながらも、特にこの場所で何かを、とは考えていなかったそうです。しかし、「類は友を呼ぶ」のでしょうか、東野さんを初め「諏訪未来デザイン会議」のメンバーと出会い、親交を深めた頃、東野さんからこの東バル跡地活用のことについて相談を受け、そこから岡勇樹さんの諏訪での活動が始まることになります。
「諏訪未来デザイン会議」発足
2006年に諏訪市がこの場所を引き継いでから、様々な活用方法が議論されていました。
東野さんはオブザーバーとして参加していたのだそうですが、本当の意味で、諏訪地域のためになり、未来を見据えた活用方法は他にあるのではないだろうかと思い始め、行政との取り組みを数々行っていた岡勇樹さんへ相談を持ちかけ、市長懇談会に彼を誘います。
2人のビジョンは一致し、それならばもっと市民の声をしっかり吸い上げて行政に伝える機関を作ろうという考えに至ります。
そこで岡勇樹さんが、諏訪に来て出会った中で、この人だと思う人材一人一人に声をかけ、「諏訪未来デザイン会議」が立ち上がります。
メンバーは8名、前編でご紹介した東野 唯史さんや、3年前にMeets Japanでご紹介した宮坂 勝彦さんも参加しています。それぞれ諏訪を拠点とし、街への想いが深く、とても興味深い活動をされている方たちばかりです。彼らが中心となってワークショップなどの活動を行い、ここに暮らす人々の考えを聞き、まとめ上げるだけでなく、諏訪についてもみんなで学ぼうという試みも行っています。
諏訪の文化、歴史、信仰、産業、自然、地理などなど様々な視点からのアプローチを行って、多様性を大切にしながら、未来に向けて諏訪らしいスタイルは何かを、見つけようとしているかのようです。
昨年、秋に発足され、今年1年間に毎月行うワークショップの予定を発表し募集していますが、参加希望者はどんどん増えていっているようで、みんなで考えるという理想的な街のスタイルがここにはあるのだなと、とても温かい気持ちになりました。
7.2ヘクタールを生きたデザインへ
また、岡勇樹さんと東野さんは、「諏訪未来デザイン会議」でまとめた考えや方向性を具体的に形に落とし込んだ計画を企業として行政に提案を行なっていく予定です。
そのこともあり、岡勇樹さんはすでにメディア運営やイベント制作、オンラインショップの展開のために設立していた合同会社ONE ON ONE で、諏訪地域に特化したメディアLocal Small Magazineの運営も開始しました。
東バル跡地活用計画はまだ公募前とのことなので、あまり具体的には記述できませんが、単純に商業施設や、公共施設を作るだけでなく、諏訪らしく暮らす人々や、働く人たち、またここで起業している人たちのことを考え、また外から来る人たちへ諏訪地域の魅力を伝えられるような、提案を考えているようです。
少しだけご紹介すると、宿泊施設や、サイクリングロード、湖を使ったウォーターレジャー、もちろん商業施設もあり、公共施設もあります。またこの施設全体に循環型やカーボンニュートラルの考え方を盛り込んだエコタウンとなる建築を目指します。また未来の子供たちへの教育を考えて、教育施設の誘致も考えているそうです。
お話を伺っていると、ワクワクしてくるような東バル跡地活用企画で、その一つ一つの考えに、暮らす人々の思いが反映されていて、生き生きとした計画なのだなと感じました。
地域の魅力を見直して、日本を一つに
「諏訪未来デザイン会議」のようなあり方は、民主主義の本来の姿なのかもしれません。
私たちは自主的に、意思を持って自分たちの環境を整えていく努力をしなければならないのだと思います。また岡勇樹さんに伺っていると諏訪市の行政の皆さんもとても柔軟にいろいろな考えに対応してくださっているのだなと感じます。
インタビューの中で岡勇樹さんが面白いことをおっしゃっていました。
「今って幕末の龍馬が駆け巡っていたあの頃みたいな気がする」と。
東京や大阪などの大都市の一極集中が進んだため、地方との分断や格差が広がってきてしまい
環境問題も加速してきていますが、このようにしてそれぞれの地域が立ち上がり魅力を発揮し、また違う地域と繋がり、さらに力をつけて、大都市を介さなくてもどんどん繋がって一つになっていく。龍馬の時代とは違う形で一つに繋がっていくのかもしれません。
この諏訪という地域には何か未来社会の理想の姿のヒントがあるのかもしれないと思いながら、もう一度諏訪湖の周りを車で走り、美しい水の香りがする風を感じてみることにしました。
諏訪の充電スポット
諏訪市役所

長野県諏訪市高島1-22-30
24時間利用可 事前申請不要
店舗データ
<urakuプロフィール> http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とアパレルブランドのプレスやディレクションを勤める石崎由子(いしざきゆうこ)2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えていく事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。
<Special Thanks>
MARGARET HOWELL:Tops、Pants
ABOUT CAR
EQC 400 4MATIC
ダイナミックな走りとスポーティなデザインが特長のメルセデス・ベンツの電気自動車、EQC。最新のリチウムイオンバッテリーを搭載し、フル充電で約400kmの航続距離を誇ります。静粛性も高く、室内空間はフューチャリスティック&ラグジュアリー。新しいクルマの楽しみ方を教えてくれる一台です。