
つながりから生まれるその地域の色
2017年の7月から始まったメルセデスで巡る旅、3年目となる今年の初旬、世界中で大きな被害を及ぼしたCOVID-19流行により、私たちも旅をすることができなくなってしまい、しばらくお休みをしなければならなくなりました。
ひっそりとした春が過ぎ、お祭りのない夏を過ぎた頃、少しずつ街に活気が戻り始め、She’s Mercedes meets Japanも、この秋からまた再出発することになりました。
再開するにあたって、自粛中にいろいろと思い巡らしたことを少しだけ加えて、日本各地の素敵な手仕事や場所をより深く魅力的に伝えていけたらと思います。
ここ最近、頻繁に起こる自然災害や、今年起こった人々を不安にさせるウイルスの流行、私たちは今までの生活を見直さなければならない時期に来ているのかもしれません。4月〜5月の自粛期間に、より一層自分の生活環境や生き方など、足元を見直したり、人と人のつながり方について深く考えたりという人は、多かったのではないかと思います。
そんな思いや迷いに少しでも寄り添えるように、今まで通りの素晴らしい手仕事や、引き継がれた思いに加え、そこで生まれる人々のつながりや、つながりから生まれるその地域の色のようなものをお伝えできたらと思います。
さて、再出発はいつも東京から、というわけで、品川から東海道を進み恵比寿へ向かい、恵比寿という都会のど真ん中で有機農業を行う方たちを訪ねます。
そんな今回の旅のお供は、Mercedes-GLC 220 d 4MATIC、カラーはヒヤシンスレッド。
スタイリッシュな出で立ち、オフロードでの活躍も期待できます。農道のような足場が悪い道でもサスペンションが効き、揺れをダイレクトに感じることもありません。高速道路などの走行中も快適な室内空間を提供してくれます。トランクも大きく荷物をたくさん乗せられたり、後部座席でもエアコン操作ができ、助手席にもシートヒーターとシートクーラーが付いていたりなど、搭乗者全員に嬉しい機能がいくつもあり、家族での遠出などにもぴったりです。
さて心地よいドライブを楽しんでいたら今回の目的地「YEBISU GARDEN FARM」が見えてきました。
東京で行うアーバンファーミング(都市農)
今回は品川から恵比寿へ向かい、恵比寿から大山道をめぐる旅となります。
最初の目的地は、恵比寿ガーデンプレイス内にある「YEBISU GARDEN FARM」です。
この場所は今年3月、恵比寿ガーデンプレイス内のサッポロ広場に、サッポロ不動産開発株式会社が運営する畑を特定非営利活動法人アーバンファーマーズクラブ(以下、UFC)と共に、楽しく野菜を育てるカルチャーと地域コミュニティを育てる都市農の実践を目指し、アーバンファーミング(都市農)を実践する“場”としてスタートしました。
恵比寿という東京のど真ん中で農薬を使わない農業を行っているという団体、UFCを立ち上げ、率いている小倉崇さんにお話を伺うため、「YEBISU GARDEN FARM」で待ち合わせです。
恵比寿ガーデンプレイスに本社を構えるサッポログループ本社棟ビルの真ん前、都会に突然現れる不思議な空間、といった感じの農園へ私たちが訪れると、そこには農家というよりアウトドアを楽しむスタイリッシュな東京人という出で立ちで、小倉さんが迎えてくださいました。
もともと緑溢れるサッポロ広場の中に作られ、面積はおよそ200平米ほど。農場としては広いとは言えない空間ですが、ここで行われている都市農は、有機栽培を基本に行われています。
私たちが訪れた初秋の頃は、夏の野菜の収穫もおわり、植えられたばかりの秋から冬にかけての野菜や、根菜、お芋などを小倉さんが丁寧に手入れをしている最中でした。
年間を通して、様々な種類の作物をここで栽培しているとのこと、私も少しだけお手伝いさせていただきながら、お話を伺いました。
江戸時代の長屋のような共同体を生み出す都市農
UFCは現在この恵比寿ガーデンプレイスの他にも原宿、渋谷、恵比寿にもう一箇所と都内に4ヶ所、加えて神奈川県・相模原には1ha(ヘクタール)の畑があり、合計5ヶ所の農園を運営しています。
参加条件は誰でも、会員になり都合の良いとき、または興味のある項目にどんどん参加できるというスタイルで、広く緩やかなコミュニティーを形成しています。
会員は立ち上げてわずか3年で現在530名を超えています。参加されている方も実に様々で、主婦の方、学生、フリーランスの方、近所の会社に勤務されている方、それぞれの背景や思いも違うなかで、土を触り、植物を育てるという目的で結びつき、交流を楽しんでいらっしゃるのだとか。参加されているみなさんが一様に言われるのは、慌ただしい日常のストレスから解放され、リフレッシュできるということ、また自身を包み込む環境から解放された人々との交流が、新たな気づきをもたらすのだとか。ここで生まれた繋がりが新たな仲間を作り、子供たちもそれぞれが仲良くなったりと、今では小倉さんの知らないところで、活動もどんどん広がりを見せて、野菜を育てる農場から、新たな交流を生み出す“場”としての機能が働いているのだそうです。
まるで江戸時代の長屋のような繋がりは、近年の都市生活者が抱える問題の一つでもある、孤独感をも緩やかに解消してくれているのかもしれません。
東日本大震災で気がついた都市の持つ脆さ
わずか3年という期間でここまでの広がりを確立したUFCですが、発起人の小倉崇さんは、元々は雑誌の編集者で、農業とは全く無縁の生活をされていました。
大きなきっかけとなったのは、2011年に大きな被害をもたらした東日本大震災だったと、振り返り少しずつ私たちにお話ししてくださいました。
編集者として忙しい毎日を送る傍、心の片隅で、いつかガーデニングや家庭菜園ができたらいいなと、考えてはいましたが、なんとなくそのままになっていたときに、大きな震災を体験することになります。ちょうど同じ年、直前にお子さんが生まれ、父親になったばかりだったこともあり、家族で奥さんの実家がある関西方面へ一時的に避難、数日後、仕事があった小倉さんだけが東京に戻ってみてその状況に愕然としたそうです。それは食料品店やコンビニエンスストアなどの陳列棚から様々な品物が、ほとんど姿を消してしまっていたからです。特に食料品や飲料水が品薄になってしまっている状況にかなりショックを受け、小倉さん自身を大きな恐怖と不安が襲います。あらゆるものが集中し、揃うはずの大都会東京には、人が生きていく最低条件である食料を生み出す生産性が、全くないのだなと、その時改めて感じ、同時に父親になったばかりの小倉さんに、今度は子育てへの不安が襲ってきたのだそうです。
この大きなインパクトと言える象徴的な出来事が心に残り、今度こそ作物作りにトライしてみようという気持ちがふくらんでいきます。少しずつ東京の機能が回復し始め仕事も動きだした頃、たまたまオーガニックや有機農業を取材する機会が増え、知識が溜まっていきました。そんな頃、神奈川県藤野で有機農業を行う油井さんに運命的な出会いを果たします。彼の農園を初めて訪れた時に食べたほうれん草が、本当に味わい深く、体に染み渡る感覚を覚えた小倉さん、油井さんとは趣味の音楽なども似ていて、うまがあったということも手伝って、その後彼の農園へ通うことになります。
バンドを作り演奏するように農業をする
油井さんの汗水垂らして働く姿を見ているうちに、自分が稼ぐ1万と、彼の稼ぐ1万は同じ価値があるのだろうか?と、人が働くという根本的なことを感じ始めたのだとか、また、週末土いじりをして帰る時、なんだか清々しく心地良い疲れが体を包み、ストレスを緩和してくれていることに気づいていきます。そんなこともあり、こんな素晴らしい体験と、農作物があることを広めたいと仲間に声をかけ始めると、その輪はどんどん広がっていくことになります。
どちらかというと気持ちがいいから、おいしいからの気持ちが強く突き動かし、仲間たちと週末、ライブハウスへ行くように農作業をして、作業後に飲んだり食べたりの輪が広がっていったのだと語ります。お話を伺っていると、まるでバントを作るように楽しみながら作業をし、人を集めフェスのような広がりというかグルーブを生み出していったように感じました。
その動きが、そのうち渋谷のライブハウスで、畑を作ることへと発展し、現在のUFCの前身となります。渋谷で畑を始めると、さらに人が人を呼ぶことになり、一時期の小倉さんは毎日のように様々な人と会って活動を語ったり紹介したりしていたそうです。同時にイベントなども企画して小倉さんの活動は大きくなっていきます。
そうした活動をする中、渋谷で掘り起こされたある工事現場を見て、当たり前だけど渋谷にも土はあったんだなと感じ、これからの都市は土を隠すのではなく、土や緑を取り戻すべきなんだ、と強く感じたのだそうです。
渋谷区にあるそれぞれの畑の色
油井さんの作る美味しい野菜を、という思いから始めた都市農は、その後たくさんの人がつながることにより発展し、UFCを立ち上げることになります。
現在、その渋谷の農園は、ライブハウスの営業理由のため閉めてしまいましたが、前述した5ヶ所はそれぞれの特色を持たせて運営しています。
相模原は、UFCの原点、油井さんの農場も近くにある場所です。古民家を都会からリトリートに訪れるメンバーに開放し、そこから歩いて1分の広い畑で農作物の栽培をおこなっています。「おもはら」と言われる原宿東急プラザの屋上は基本的には原宿近辺の保育園といっしょに栽培を行っています。恵比寿にあるもう一箇所、「うのさわビルの屋上」、こちらは今回少しだけ立ち寄らせていただいたのですが、近所の保育園と共に稲を育てていて、その傍らに主にハーブを栽培しています。このハーブは、小倉さんが相模原の藤野で、油井さんの他にとても影響を受けたJapan Herb Science主宰の石井智子さんから教わりながらの栽培だそうです。屋上に上がるとそのビルの室外機がずらっと並んでいて、その傍らにハーブが植えられた大小のポットと、水が張られ稲が植えられたポットが並んでいて、すごく不思議な光景でした。
実際作業を行いに、UFCメンバーの方も来ていて、少しだけその様子を見させていただきました。
そして今回訪れた「恵比寿ガーデンファーム」、ここは恵比寿ガーデンプレイス近郊の様々な人たちの交流を目指して、新しい街作りをと考えていたサッポロ不動産開発株式会社と一緒に、3年前から緑を中心とした街作りを目指しています。当初は恵比寿の保育園が行う畑が中心で、年に一度イベントをおこなっていましたが、今年から畑を広げ取り組んでいます。
所有する価値観から分け合う価値観へ
5年前に渋谷の畑を始めてから、短い間に活動が広がり、新たな動きまで見せていることには、小倉さん自身も驚いているのだそうで、自分でやっているという気持ちよりも、タイミングと出会いが次から次へとリズム良く扉をひらいて行ってくれた、そんなイメージがあるとおっしゃいました。
実際、農作業をすると心地良くなるということには、順天堂大学で実験もしていただいたそうで
土を触ると脳からオキシトシンとコルチゾールが出ることにより、ストレスが緩和され多幸感を与えてくれるのだとか。都会で暮らす人たちにとって、都市農はまさに望んでいたことだったのかもしれません。
心地良いからという思いから始まり、広がった新たな“場”では未来につなげる取り組みも様々おこなっています。
例えば種を繋ぐこと、UFCでは作物の種を3代続けて自家採取し、その環境に適応した固定種作りも行っていて、渋谷のルッコラや渋谷のコリアンダーなど、すでにいくつも渋谷産の固定種を持っていて大切な資源の保管も行っています。また農作物を作る土作りも、オニバスコーヒーと組んで、廃棄されるコーヒかすを使った堆肥づくりを行っています。
これからの街作りには欠かせない持続可能なグリーンインフラを整えていく取り組みも考えているようです。
参加するみんなで時間も作業も作物もシェアして、東京のど真ん中で農作物を育てていく、忘れてしまった横のつながりが自然と蘇り、作業しながら、またその後も様々な交流を生み出して自分たちの生活を豊かにしていく、その姿はまるで江戸の町のよう、威勢の良い掛け合いが聞こえてくるかのようです。
個人の所有や資本に縛られすぎていた価値観から脱却して、共同で分かち合いながら、個性を尊重していく、私たちが否定し、忘れてしまった生活が、時を経て新たな形でまたこの東京に姿を見せ始めています。
この姿は東京だけではなく、今現在日本の各所に芽生え始め、さらにはインターネットによって遠くのコミュニケーションが可能になった今、その点と点が緩やかに繋がりを広げています。
震災、水害、ウィルス、と様々なショックを乗り越えた私たちが、未来につなげるために作り始めた“場”、そんな場所をこれからも旅をしながら紹介していきたいなと強く感じました。
店舗データ
YEBISU GARDEN FARM
特定非営利活動法人アーバンファーマーズクラブ

https://www.facebook.com/groups/urbanfarmersclub
https://urbanfarmers.official.ec/items/10437746
<urakuプロフィール> http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)と
アパレルブランドのプレスやディレクションを勤める石崎由子(いしざきゆうこ)
2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。
<Special Thanks>
GARMENT REPRODUCTION OF WORKERS:overall、vest
Continuer:Sunglass