She’s Mercedes meets Japan / Vol.20

東海道 中編 ちょうなはつり「むか井」 向井恭介

古代から受け継がれる「ちょうなはつり」を新しい形で未来につなげる

日本各地に伝わる手仕事や、受け継がれてきた技を次世代へ伝えようと、活動をしている「uraku」。彼女たちが旅のみちみちで出会う日本の美しい風景や物、事、そしてそこに集う人々のつながりを、メルセデスと共にみつめる旅紀行。女性2人ならではのロードストーリー。新たな年を迎えての旅の物語は前編に引き続き、三重県亀山市にある、趣ある街並みが残る関宿を訪ねた時のお話です。

photo/鬼澤礼門  text&edit/石崎由子(uraku)  navigator/田沢美亜(uraku)

ちょうな 削り(はつり)という技法

前編に引き続き、中編も昨年秋に訪れた、風情ある街並みが残る関宿にある「工房而今禾 (KOBO Jikonka)」のお茶室での時間から、旅のお話は続きます。
ゆったりとした心地よい時間を過ごしていたら、今回お話を伺う向井恭介さんが、工房を訪ねていらっしゃいました。
このお茶室の大きな無垢のテーブルの中心に施されている、「削り(はつり)」という技法を引き継ぎ伝えている方で、米田さんはこちらのお茶室だけでなく、工房全体の様々な箇所でこの技法を採用されています。今日は新たに工房の手すりを取り付けにいらしていて、「削り(はつり)」を施した手すりを手早く設置されていました。
作業が終わったところで、一緒にお茶をいただきながらはつりについてお話を伺うことにしました。
お茶室に入った向井恭介さんは少し緊張気味でしたが、米田さんの振舞うお茶をいただいて、少しほぐれてきたのか、はにかみながらも穏やかで丁寧に「削り(はつり)」についてお話をしてくださいました。

大工道具の生きた化石 ちょうな

「削り(はつり)」とはお茶室の柱などによくみられる鱗のように木を削る技法で、漢字もそのまま「削り」とかいて「はつり」と読みます。
「ちょうな」という道具を用いて行う技法で、斧と共にもっとも原始的な道具と言われ、世界中のあらゆる文明で使われてきたそうです。
木を削ったり、倒したり、掘り込んだりと、日本でも石器時代からその原型は見つかっています。
この「ちょうな」ですが、その昔から形状が全く変わらず今に至る所から「大工道具の生きた化石」と呼ばれ神格化された存在となっていて、今でも神社やお寺の工事始めには安全祈願に行われる儀式は「釿始め(ちょうなはじめ)」と呼ばれているのだそうです。
向井恭介さんが参考にとお持ちいただいた資料に掲載されていた、石山寺縁起絵巻1巻(1324〜26年)の中には、今使われている「ちょうな」と同じ形をした道具を持った大工さんたちが描かれていました。ちょうどこの時代ぐらいから、ノコギリやカンナが登場しますが、これらは時代と共に進化していて今と同じ形ではないのだそうです。
そんな話を、お茶室の大きなテーブルに施された「ちょうなはつり加工」を見ながら伺っていたら、作業しているところが見たくなってきました。
向井恭介さんも、是非見にきてくださいとおっしゃってくださり、早速工房へ向かうことにしました。

工房「むか井」へ

「工房而今禾 (KOBO Jikonka)」がある関宿から車で15分ほど走り、隣の津市に入ったあたりの場所に、工房「むか井」はあります。
向井恭介さんの案内のもと、今回も前回に引き続き快適な移動を支えてくれるのは、メルセデス・ベンツ B 200 d、カラーはデニムブルー。
洗練されたスタイルでありながら足回りはしなやかで、郊外の細かな道のコーナリングにも安定感があり安心です。レーダークルーズコントロールやヘッドアップディスプレイなどの最新装備のサポートのおかげで、初めての場所なども精神的に疲労感の少ないドライブが楽しめ、女性にも安心の車と言えます。
さて、快適なドライブを楽しんでいたら木材がたくさん積まれている開けた場所が見えてきました。工房「むか井」へ到着です。

力強くリズミカルに行う繊細な技術

工房のある場所のまわりは、いろいろな種類の木材が積まれていて、心地よい木の香りが漂っていました。その中を奥へと進み、いつも加工を行っている場所で、実際の作業を見せていただくことになりました。
向井恭介さんはおもむろに、本当に何気なく、加工する木材をまたぎ、「ちょうなはつり加工」をし始めました。
突然パーンという大きな音が、あたり一面響き渡ります。私たち一同は想像していた様子とあまりにも違う荒々しい様子に「わっ!」と思わず声をあげてしまいました。
まるで、斧で薪を割るような勢いながら、リズミカルに整然と、はつりを施していきます。
実は、私たちのイメージではもう少し彫刻刀やノミで削るような、イメージでいたので、まさかこのような勢いある作業とは思っていなかったのです。
この様子は写真ではなく動画の方が伝わると思いますので、ぜひ動画をご覧いただけたらと思います(旅紀行の最後に動画があります)。
削った木片は勢いよく周りに飛び、迫力ある様子に先ほど伺った「大工道具の生きた化石」という言葉を思い出しました。確かにとても根源的な作業なのかもしれないと感じていました。
ちょうなはつり加工をした木材は、その模様がきれいに揃い、美しく繊細な仕上がりです。
亀の甲羅のような六角形が並ぶ亀甲柄や、斜めに並ぶ斜め柄など、美しく整った柄が生み出されます。大胆な作業ながら高度な技術が必要なのは、出来上がった木材を見ればすぐ理解することができました。
驚いている私たちの様子を笑顔で見ていた向井恭介さんに、もう少しこの「ちょうなはつり加工」について詳しくお話を伺うことにしました。

わずかに残り技術を伝える、ちょうなはつり職人

この「削り(はつり)」という技術は、「平」という漢字の起源にもなっていて、そこからも伺えるように、かんななどの平らにする道具や、木材を四角く加工する技術がなかった頃に丸い木材に平らな面を施すためのものでした。
お茶室などで使われている技法と思っていましたが、家の柱や床などに昔は使われていたそうで、古民家の大きな柱や梁などに面取りのように削られているものがありますが、それが「削り(はつり)」なのだそうです。そう伺って記憶を辿ってみると、現存するお城や、神社、お寺、古民家の柱や梁、床、濡れ縁などと至る所に「ちょうなはつり加工」があることを思い出しました。ちなみにこの「削り(はつり)」のことは「名栗(なぐり)」とも言われるのですが、この場合ちょうなを使用しない木材表面加工も含まれるのだそうです。
この技術は人類が最初に木材に対して行った加工で、世界各地で発生しそれぞれの地域で行われてきましたが、時代が進み建築道具や技術が進歩すると、手間と時間がかかるこの加工方法は消えていきます。
ところがこの日本では、お茶のわびさびの世界で注目を集めることとなり、木材の表面に味を出し、表情を持たせる加工としての魅力が見出され、引き継がれていくことになります。木材を扱う日本各地にあった木場では、「ちょうなはつり加工」を専門的に行う職人が必ず何名かいたのだそうです。
しかし近代化と共に進んだ加工作業の機械化と、日本家屋の減少でどんどんその人口は少なくなり、今では京都や三重県などに数名しか残っていらっしゃらないのだそうです。

ちょうなはつり加工に新たな広がりを

「削り(はつり)」の技術を繋げている向井恭介さんは、もともとは建築業界で職人として働いていたのだそうですが、この古い技術に魅了されて、5年ほど前に「ちょうなはつり加工」専門として活動を切り替えたのだそうです。
わずかに残る「ちょうなはつり加工」は、やはりお茶の世界や、伝統的建築物での需要が圧倒的に多く、そのための技法のようになってきてしまっている様子を感じ、この技法そのものの魅力をもっと広く身近に感じてもらいたいと、向井恭介さんの活動は始まります。
もちろん建築資材となる、柱や梁、床板のようなものも扱いますが、それ以外にもオリジナルで国産木材のみを使用した表札、お皿、手すりなど身近で手軽なものをたくさん取り扱っていらっしゃいます。
インターネットが普及した現在は、日本中から様々な声がかかり、今までの仕事では繋がることのない方から依頼を受けたり、面白い内容の依頼を受けたりと、「ちょうなはつり加工」をきっかけに広がる世界を楽しんでいらっしゃるようです。

あまりにも古くから伝わる技法ゆえ、伝統に縛られ広がりを狭めてしまっていた「ちょうなはつり加工」に自由な発想と、フットワークの軽さで新たな魅力を広げ続けている向井恭介さん。
前編でお話を伺った「而今禾(Jikonka)」の米田さんとの交流はとても自然で、必然のような気がしました。絶えず問いかけや挑戦を忘れず、でも丁寧にゆったりと、向井恭介さんの活動も同じような空気を感じます。
この地で見つけた、未来へと伝える新しいつながりの“場”は穏やかで美しい時間が流れていました。


 

店舗データ

ちょうなはつり「むか井」

ちょうなはつり「むか井」

三重県津市芸濃町
Email: kyosuke111@icloud.com
https://hatsurist.com

<urakuプロフィール>  http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とアパレルブランドのプレスやディレクションを勤める石崎由子(いしざきゆうこ)2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えていく事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。

<Special Thanks>
jikonka:Tops,Pants
Continuer:Sunglass

Share on:

Mercedes-Benz LIVE!

メルセデス・ベンツの
ブランドポータルサイト
Mercedes-Benz LIVE!もチェック