Interview

自由気ままに移動する──漫画家・浦沢直樹が語る「空想型ドライブ」

words: Masashi Takamura

「空想型ドライブ」をテーマにしたJ-WAVEのラジオ番組『Mercedes-Benz THE EXPERIENCE』。ゲストとして登場した漫画家・浦沢直樹に訊く、“理想のドライブ”とは。


現在『週刊ビッグコミックスピリッツ』誌上にて連載中の漫画『あさドラ!』の執筆で多忙な浦沢直樹さん。番組では、作品にも関わりが深い「1964の東京」をテーマに、スガ シカオさんとのトークを繰り広げたが、さらに「どこにドライブしてみたいか?」と、別の行き先を聞いてみると、音楽好きでも知られる浦沢さんらしい答えが……。

浦沢直樹(以下浦沢) アメリカのハイウェイ「ルート66」ですね。一生のうちに一度は、その端から端までをクルマで走破してみたい。海外渡航が難しいコロナ時代に今すぐ、とはいきませんが……。時代を問わず、ということであれば、1930年代でしょうね。さまざまなカルチャーを生み出した道ですが、とくにブルースからロックが生まれたあの時代のアメリカを見てみたいですね。
ロバート・ジョンソンというブルースマンが、ミシシッピ州のとある十字路で、魂と引き換えにロックのノウハウを手に入れたという「クロスロード伝説」と呼ばれる逸話があります。ルート66からは少し外れますが、その十字路にも行ってみたい。彼が悪魔に魂を売る、その現場に居合わせたいな(笑)。これは、偉大すぎるジョンソンの人間離れした所業に対して生まれた伝説ですけど、ロックファンの間では、まことしやかに語り継がれているんですよ。

浦沢直樹/Naoki Urasawa

※画像は欧州仕様車となります。

 
その「空想型ドライブ」で駆っていたいクルマは、現在、浦沢さんの相棒だというメルセデス・ベンツのGクラス。かれこれ10年以上の付き合いで、今は乗り継いで2代目というお気に入りよう。その魅力とは?

浦沢 堅牢な四角いボディには、「どこにでも行けるぞ」という安心感がありますよね。まさにコレ一台で世界中どこへでも行きたくなる。10年以上乗っているので、すっかりその感覚に慣れてしまっていますね。きっと悪路であったろう当時のアメリカの道も走破できそうです。
一方で、登場以来ほとんど変えていないその形状も魅力。いつの時代でもほとんど同じカタチで、どの時代に走っていたとしても見た目上の差がないタイムレスな感じもいいですね。詳しい人は、見分けてしまうんでしょうけれど(笑)。そういう点では、クルマらしいクルマといえるかもしれません。

確かにクルマは、4つのタイヤで走行するという意味において、登場以来そのフォーマットを変えていない乗り物。浦沢さんが、アップデートをしながらも不変的なデザインを維持するGクラスに惹かれるのもうなずけるような気がする。

理想のクルマとは何か?

『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」をリメイクした浦沢さんの作品『PLUTO』(浦沢直樹 スタジオ・ナッツ×手塚治虫 長崎尚志プロデュース 監修/手塚眞 協力/手塚プロダクション)では、過去から未来を思い描いたレトロフューチャーな表現が多く見られる。そうした世界観のなかで、クルマの表現にはひと際頭を悩ませたそう。浦沢さんにとって、未来のクルマ像はどういうものなのだろうか。

浦沢直樹/Naoki Urasawa

『PLUTO』Ⓒ浦沢直樹(スタジオ・ナッツ) 長崎尚志 手塚プロダクション/小学館

 
浦沢 『PLUTO』の中で、主要登場人物のゲジヒトが乗るクルマをどうするか。非常に悩みましたね。未来を描く作品でよく見かける、タイヤを排除して宙に浮かぶようなマシンも選択肢としてはありえたのでしょうけれど、僕はそうしなかった。結局、タイヤを描きましたね、4つ。4輪を外してしまった場合、それは、はたしてクルマなのだろうか、という思い。そう考えると外したくなかったんですよね。
そして、やはり必要なものは残っていくと思うんです。急ブレーキなど、クルマを制動するときに摩擦は物理的な点で非常に有効ですから。だから、たとえ未来でも摩擦を司る4つのタイヤは不可欠じゃないか、と思い至りました。

ストーリーを紡ぐ中でディテールの追求にも余念がない、緻密な浦沢作品の一端が垣間見える。このように必要という点を熟慮してしまうと、その一方で、アトムがなぜ飛ぶのか、という問いに突き当たったという。

浦沢 これは本当に悩ましい問題でした。重力のある地球という星での移動という点に向き合ったときに、何もアトムという一個人が飛ばなくてもいいわけですよ。実社会では、飛行機が世界中を飛び回っているのですから。アトムも飛行機に乗ればいい(笑)。でも、それでは夢がないんですね。結局、アトムは「僕らも飛べたらいいな」という夢を乗せているんだなと。それを体現している存在。だから、夢を乗せて飛んでいるんです。

それでは、浦沢さんが考える、夢のあるクルマの未来は、どのようなものだろうか。

浦沢 やっぱり4輪はあります(笑)。4輪のまま、ビルを垂直に移動するクルマなんて出てきそうですね。メルセデスと絡めるならば、MBUX(対話型インフォテインメントシステム)がさらに進化して、ものすごく頼りになる存在になってほしいですね。クルマの枠を超えて、相談相手になってくれたり、慰めてくれたり、心の支えにすらなってくれるような。個性を持っているわけですから、口喧嘩なんかしたりしてね(笑)。それって、昔僕らが思い描いたロボットそのものなんですよ。人とクルマの付き合いが深くなっていく未来も面白いですね。

浦沢直樹/Naoki Urasawa

※画像は日本仕様と異なります

 

浦沢流クルマとの付き合い方

浦沢 いつも原稿のある前方50㎝以内の世界で暮らしているので、どこに出かけるのも新鮮。例えば、ちょっと前のこと。とある展示会の会期中、連日会場へと通う道すがら、高速道路の高架がだんだんと高くなり、最後は目に映る景色が、前方の道と空だけになる場所があったんです。それがとっても気に入って。会期末には寂しくなって、用もないのにまた来ようかな、なんてね(笑)。
最近で一番のドライブは、去年の秋に出かけた箱根ターンパイク。夕暮れと富士山とススキ野原が融合して、それはキレイでした。思わずパノラマで写真を撮りましたよ。
今って、景色を見たければ、インターネットで画像を見ることはできるじゃないですか。でも、実際に体を移動させて体験することって大事だと思うんです。自分の現在地と目的地をつなぐのがクルマ。ふと気になることがあれば、道からそれたっていいんです。漫画制作のために、よく気になる風景を写真に収めるんですが、クルマだと「おっ」となったら停めて撮れますしね。予定していなくても自由気ままに動かせる。そういう点でもクルマは魅力的です。

番組でも放送されたご自身の楽曲「僕の姉さんUFOにさらわれて」からもわかるとおり、ミュージシャンとしても精力的に活動されている浦沢さん。さて、ドライブ中はどんな曲を聴くのだろうか。

浦沢 古いタイプのiPod クラシックを5台くらい持っていて。そこに、自分がコレクションしているCDやレコードを全部収録してありますね。多いもので1万5000曲くらい入っている。それをクルマではシャッフル再生して聞いています。だから、僕にとっては最高に趣味のいいDJって感じなんですよ。当たり前ですが(笑)。この曲のあとこう来たか、なんて言いながら。
それに、これは友人とも話す“シャッフルあるある”なんですが、絶妙なタイミングで絶妙な曲がかかる。雨ならばRAINモチーフだったり、黄昏ならばTWILIGHTだったり。アレ、不思議ですよね(笑)。

欠かせない移動の相棒であると同時に個室空間でもあるクルマ。その使い方にも“らしさ”が滲む。

浦沢 移動に疲れたら、少しクルマを停めて、ただぼーっとすることもありますね。雨が降っていたりするとなおいい。夕暮れ時の雲を眺めるのも好きです。その移ろいを1時間くらいは余裕で見ていられますよ。そして、僕自身もバンドのボーカルなので、車内ではガンガンに歌の練習をします。密閉された最高の個室ですよね(笑)。

 

PROFILE

浦沢直樹/Naoki Urasawa

浦沢直樹/Naoki Urasawa

1960年東京都生まれ。1983年『BETA!!』でデビュー。代表作に『YAWARA!』『MONSTER』『20世紀少年』などがあり、国内外で数々の漫画賞を受賞。ミュージシャンとしても精力的に活動している。現在『週刊ビッグコミックスピリッツ』誌上に『あさドラ!』を連載中。単行本は1〜3巻発売中。8月末に第4巻発売予定。

 

6/7 0A プレイリスト

 

Mercede-Benz THE EXPERIENCE

Mercede-Benz THE EXPERIENCE

J-WAVE 81.3FM
ON AIR EVERY SUNDAY 21:00 -21:54

その時代、その場所で、どんな音楽を聴きたいか──時代を越えて、国境を越えて、ナビゲーターのスガ シカオが旅好き・音楽好きのゲストと共に音楽談義を繰り広げる、空想型ドライブプログラム。ドライブには切っても切り離せないラジオと音楽で、リスナーのカーライフをより豊かでワクワクするものに。