メルセデス・ベンツにとって国内初登場のEVとなるEQC。このクルマは、「Sensual Purity(官能的純粋)」という同社のデザインフィロソフィを突き詰めたそのフォルムによって、クルマに新たなる先進性をもたらした。
と同時に、安全性、操縦安定性、快適性、利便性、品質といったドライヴァビリティに直結する数々の技術要素には、これまでメルセデス・ベンツが蓄積してきた圧倒的な知見が、そのまま高いレヴェルで実装されている。言うなれば、ドライヴモードによってはダイナミックな特性に自動的に切り替わったり、回生ブレーキを用いることで「EVらしい走り」を堪能することができる一方で、「従来の乗り味」をひとつも損なわないという自動車のオーセンティックな魅力が貫かれているのだ。
その姿勢が最も色濃く現れているのが、加速のセッティングだろう。EQCには、EVの特徴と言える「走り出した瞬間に発生する強大なトルク」は程よく抑制され、アクセルの踏み込みによって生じる加速は、極めてナチュラルかつエレガントだ。
EQCが、「メルセデス・ベンツが考える『次世代のクルマのあり方』」を提示している点はほかにもある。例えば、2018年に発売されたAクラスに搭載され話題を呼んだ対話型インフォテインメントシステム・MBUX(Mercedes Benz User Experience)の実装。

自然対話式音声認識機能や、ユーザーの使用履歴を学習しシーンに応じた設定を提案する機能……といった先進的なUXがクルマのスタンダードとなるのは、そう遠くない未来のはずだ。
あるいは、安全面。ヨーロッパにおける自動車安全テスト「ユーロNCAP(European New Car Assessment Programme、ヨーロッパ新車アセスメントプログラム)」による衝突安全テストの結果、EQCは最高評価の5つ星を獲得している。
ドライヴァビリティ、UX、安全面におけるこうした価値提供からは、パワートレインが内燃機関からモーターへと移行してもなお、自分たちこそが「モビリティのパイオニアである」というメルセデス・ベンツの矜持を感じずにはいられない。

思い起こせば、いまではすっかり「モビリティの未来」を語るうえで欠かすことのできないパワーワードとなった「CASE(C=コネクト、A=オートノマス〈自動運転〉、S=シェア&サーヴィス、E=エレクトリックモビリティ〈電動化〉)」にしても、今後クルマ社会に実装していくべき4つの至上課題として、メルセデス・ベンツが最初に掲げた言葉であった。
このCASEというコンセプトが今後、モビリティの枠を超え、ライフスタイルにどう影響を与え、浸透していくのか……。そんなスペキュラティヴな問いに対するひとつの回答が、六本木に期間限定でオープン中の「EQ House」だ。

「リヴィングとモビリティをつなぐ」というコンセプトをもつこの「EQ House」は、文字通り、生活空間のなかにクルマが溶け込む提案がなされているほか、センシングを始めとするIoTデヴァイスが随所に盛り込まれている。
また、その特徴的なファサードは単なる装飾ではなく、木漏れ日のような光と自然の風を感じられるよう365日の日照パターンをシミュレートした、コンピューテーショナルデザインによって生成されており、日照量や太陽の位置に応じて室内の明るさを調節するという、動的な機能も持ち合わせている。
モビリティが電動化し、自動化していく(つまりはCASE化していく)ことが予想されるこの先、建築、あるいは都市側にも、当然、機能の変化が求められていくことになる。「EQ House」は、そのひとつの実験室だと言えるだろう。
いずれにせよ、今回のEQCの登場によっていよいよ国内でも、メルセデス・ベンツがライフスタイルとEVをどうコネクトしようとしているのかが、徐々に全貌が見えてくることになるだろう。その流れはまず、特別限定車「EQC Edition 1886」から始まることになる。
1886という数字は、ダイムラー社の創始者であるカール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーが、それぞれ別々にガソリン自動車を発明した年にちなんでいるという。実はほぼ同時期に、電話機とロールフィルム式カメラが発明されている。
20世紀の人類の生活様式や文化に大きな影響を与えたこの2つの発明は、トランスフォームの果てに、現在はスマートフォンの主要機能として生きながらえている。一方でモビリティは、この先どのようなトランスフォームを見せるのだろうか。いずれにしてもその本質は、メルセデス・ベンツによって生み出されるオーセンティックな価値基準から染み出していくに違いない。

本記事は、コンデナスト・ジャパンが運営するウェブサイト WIRED.jpに掲載されていました。