メルセデスが生み出した「新しい常識」
メルセデス・ベンツがエアバッグの開発に初めて着手したのが今から半世紀以上も前、1966年のこと。1971年には、エアバッグに関連する特許を登録。今ではエアバッグは世界中の自動車メーカーが“必須の装備”とするほど浸透しているが、その先駆者となったのはメルセデス・ベンツだった。

Sクラス(W 126)に運転席用エアバッグを初めて採用した1981年以来、メルセデス・ベンツは受動的安全=パッシブセーフティの研究開発を積極的に推進していく。より高度な受動的安全を実現するために、エンジニアたちはエアバッグを運転席だけでなく他の座席にも適合させるべく、さまざまな改良を行った。その結果、運転席用エアバッグに続き、1987年に世界で初めてSクラスのセダン/クーペに助手席用エアバッグがオプションで設定された。翌年デビューしたEクラス(W 124)にもオプションとして設定。早くも1992年にはSクラス/SLクラスに標準装備された。1994年8月からは後席ヘッドレストとあわせ、すべての乗用車モデルが運転席用・助手席用エアバッグを搭載することになる。

初期の助手席用エアバッグは、運転席用エアバッグより大きな容量が必要なためにグローブボックスを占有してしまっていたが、問題解決のためのエアバッグユニットの小型化は、それ以上に大きな恩恵をもたらした。というのも、メルセデス・ベンツのエンジニアたちは、事故シナリオのひとつにすぎない正面衝突以外に対応する、多様なエアバッグの開発・搭載を目指していたからだ。
さまざまな事故の可能性に備えて
1993年に発表し、1995年のEクラス(W 210)に採用したサイドエアバッグは横からの衝突の危険性を大幅に低減するものであり、1998年のSクラス(W 220)ではカーテンのように車内側面に沿って展開することで頭部の外傷を防ぎながら、後席の乗員も保護するウィンドウエアバッグを標準装備とした。

エアバッグユニットを収納するルーフを持たないカブリオレでは、シートやドアトリム内から上方にも展開する頭部・胸部サイドエアバッグ(2001年)で対応しているが、さまざまな事故を想定して開発・搭載したニーバッグ(ひざ部の衝撃を緩和する乗員保護補助装置。2009年)、ペルヴィス・エアバッグ/ベルトエアバッグ/クッションエアバッグ(2013年)も当然、エアバッグユニットの小型化なしには実現しなかったものである。
変わらない価値と意義、進化する技術
進化したセンサーシステム/コントロールユニットはエアバッグに、衝突時の衝撃=加速度に応じて2段階に展開することで保護性能を高める最適化をもたらした。しかし、センサーが衝撃を感知するのとほぼ同時に膨らみ、人体への衝撃の影響を低減するという基本原理は、Sクラス(W126)に運転席用エアバッグを初めて採用した1981年来、ほとんど変わってはいない。

メルセデス・ベンツは研究開発当初から、エアバッグがもっとも重要な拘束システムであるシートベルトに取って代わるものとは位置づけていない。エアバッグとシートベルトの関係は、シートベルトテンショナーおよびロードリミッターとの協調であり、すなわち相互補完こそが安全性を高める最善策と考えているのだ。
精力的かつ包括的な研究開発の継続によって、メルセデス・ベンツがエアバッグをはじめ、自動車の安全性に関わる数多くの“世界初”を生みだしてきたのは、安全性こそがメルセデス・ベンツというブランドのコアバリューだからである。