メルセデスが考える「安全性」とは
1978年のABS(アンチロックブレーキシステム)、1995年のESP®(エレクトロニックスタビリティプログラム)、1998年のディストロニックアダプティブクルーズコントロールがあり、1999年にCLクラス(C 215)で採用したABC(アクティブボディコントロール)。
今日のメルセデスの“Intelligent Drive”を構成するこれらは、いずれもアクティブセーフティ=能動的安全性のために開発されたものだ。

能動的安全性の原則は、1960年代初頭にイタリアで造られた。要約すれば、「人々のパートナーである自動車は、人々のために事故の危険性を減らすものではなくてはならない」ということだが、能動的安全性に関して1940年代に初期の検討を行っていたメルセデスは1960年代半ば、今日にも適用される定義づけを行う。<安全な走行の実現、快適な運転環境の構築、安全性の強化・推進>を含むメルセデス・ベンツの能動的安全性の定義は、開発マネージャーのハンス・シェレンバーグ、エンジニアのカール・ウィルフェルトとベラ・バレニーによるものである。
デジタル技術の進化が可能にしたアクティブセーフティー
1950年代初頭から研究開発に着手し、1970年にテルディックスアンチブロックシステムの名で発表した最初期のABSは、その制御をアナログ制御に頼っていたため信頼性に欠けるものだったが、デジタル制御の開発・導入が転機となる。フルブレーキ時のタイヤロックを防ぎながらステアリング操作を維持する、瞬間的かつ緻密な制御が可能になったのだ。
今や世界中のほとんどすべてのメーカーの車両に搭載されているABS。メルセデス・ベンツが1978年に実用化した、ボッシュ社との共同開発から誕生したABSは、能動的安全性を初期段階から体系的な技術へと押し上げる決定打でもあった。
安全運転支援システムの多様化と発展
デジタル制御のABS実用化は、能動的安全性のさらなる開発・発展に大きく寄与することになる。というのも、センサーが取得する、ABSの制御に用いられる様々な情報は、他の安全運転支援システムにも利用・応用することができるからだ。

ブレーキをかけると同時に駆動力を制御するASR(アクセレーションスキッドコントロール)、空転しているタイヤの回転をロックするASD(オートロックディファレンシャル)は、駆動輪のスリップ防止機能として1985年に実用化。同じ年には、前後アクスル間およびリアホイール間の駆動力を、走行状態に応じて自動配分する4MATICも新たに開発した。どれも有効なトラクションの確保=車両の安定を目的としたものであり、デジタル制御なしには実現しなかったものである。
ABSしかり、ボッシュ社のソフトウェアを最初に使ったASR/ASDに始まるデジタル制御の安全運転支援システムはその後、BAS(ブレーキアシスト)、ESP®、電子制御オートマチックトランスミッション、ディストロニックアダプティブクルーズコントロール(前方車両との距離が縮まると減速し前方がクリアになると速度回復を行う技術)へと発展していくのだった。
新しい時代の新しい安全性とは
ドライバーに対して自動車が常に、適切なサポートを行えるよう、安全運転支援システムの開発を精力的に推し進めてきたメルセデス・ベンツは1990年代、2つの先駆的な装備を実用化した。

その1つが、1995年にSクラスクーペで初めて搭載したESP®である。無数のセンサーとコントロールユニットがCAN(Controller Area Network)を介して膨大な情報をやり取りしながら作動するESP®は、1つ以上の車輪に特定の制動力を加えることによって、もし必要ならエンジン出力を制御することによって車両の安定を確保し、ドライバーの危険回避行動を助けるものだ。ドライバーがペダルを踏む速度から緊急事態を検知し、即座に最大ブレーキ圧を発生させるBAS(ブレーキアシストシステム)の実用化は翌年のことだった。

また、油圧による走行時の車体姿勢制御と快適な乗り心地の両立を図ったABCをCLクラスに採用した1999年の前年には、2つめの先駆的な装備であるディストロニックアダプティブクルーズコントロールの実用化に成功。メルセデス・ベンツが1999年以降、すべての車種に新しい安全運転支援システムを標準装備するようになったことから、とくにESP®は自動車業界の「標準」になっていく。
クルーズコントロールの進化
1998年にSクラス(W 220)で世界初の実用化を果たしたディストロニックアダプティブクルーズコントロール。

特定の速度範囲内で自動的に作動するこれは、例えばクルーズコントロールを100㎞/hに設定していた場合に、前方車両との距離が縮まるとエンジン、ブレーキ、トランスミッションを制御して減速、前方がクリアになると100㎞/hまでの速度回復を行うもので、前方車両との距離と速度差の監視にはレーダーが用いられていた。発展型として2005年に登場したディストロニックプラスは、作動範囲が大きく拡大。これは、非常に広い範囲を監視できる、新しく開発された24GHz短距離レーダーによって実現したもの(※欧州仕様)だ。

1995年のパークトロニックと1996年の音声認識機能、1998年のCOMANDシステムは直感的な操作を可能にし、人と機械の関わりを大きく変えた。そして、人工知能を活用したまったく新しいインフォテインメントシステムとして2018年に実用化したMBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)では、乗員とクルマとの間に感情的なつながりを生み出そうとしている。現在の高い安全性は、快適な運転環境をもたらす、これら多くのシステムによって支えられているのである。
統合的安全性の時代をリード
時代が進むとともに、メルセデス・ベンツの能動的安全性は広範で多用途、そして効果的なものへと進化と遂げてきた。その根底には1999年にまとめられた概念があり、2002年になると、車両の全方位を監視するセンサーが事故につながる兆候を察知し、衝突の影響を最小限にとどめる準備をクルマがあらかじめ自動で行う、PRE-SAFE®システムとして早くも具現化。2005年から多くの量産モデルに導入していくことになる。

・アダプティブブレーキライト(2005年)
・BASプラス(2005年)
・PRE-SAFE®ブレーキ(2006年)
・インテリジェントライトシステム(2006年)
・ブラインドスポットアシスト(2007年)
・アクティブパーキングアシスト(2009年)
・アテンションアシスト(2009年)
・アダプティブハイビームアシスト(2009年)
・レーンキーピングアシスト(2009年)
・アクティブブラインドスポットアシスト(2010年)
・アクティブレーンキーピングアシスト(2010年)
21世紀を迎えたメルセデス・ベンツは、上記に代表される、能動的安全性を発展・向上させるいくつもの先進的な技術を生みだしてきた。そして、これらをシステムとして統合的に、すべての量産モデルに導入していることはご存じのとおりだ。
未来の安全性を追求して
進化と発展を続けてきたメルセデス・ベンツの能動的安全性は、未来の自動車の安全性を端的に表すものとして、2010年代に“Intelligent Drive”という名前に生まれ変わる。

都市部や郊外のさまざまな状況下で自動運転の未来と可能性を探った、2013年のS 500 Intelligent Drive(実験車両)。その知見をもとに行ったメルセデス・ベンツ インテリジェントワールドドライブは、Sクラスをベースにしたテスト車両が、自動運転で5大陸の道を走ってみせた。
ドライバーのサポートおよび安全システムのネットワーク化を意味する、“Intelligent Drive”というメルセデス・ベンツの哲学。より高い次元の運転支援と統合ネットワークの構築を目指し、さらなる安全性を追求すべく歩みを進めている。