「EQはCASEに向けたブランドだから、そのデザインはプログレッシブ(より先進的)に見えなくてはいけない」。ダイムラーAGのチーフデザインオフィサー、ゴードン・ワグナーにEQブランドへの想いを聞くなかで、彼はこう告げた。
Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(シェア&サービス)、Electric(電動化)の頭文字を並べて「CASE」。2016年秋のパリモーターショーでディーター・ツェッツェ会長が初めて使った言葉だ。同じショーでメルセデスは新たなブランド「EQ」を発表し、その進化を予感させる電気自動車(EV)のコンセプトカー「ジェネレーションEQ」を披露した。
あれから3年余り、ジェネレーションEQの量産化版とも言うべきEQCが発表された。EQCをデザインの視点から語ってもらおうというのが、今回のインタビューの主旨だ。
「メルセデスには4つのブランドがあり、我々はそれぞれにデザイン言語を開発している。メルセデス・ベンツはモダン・ラグジュアリーなブランドで、AMGはパフォーマンス・ラグジュアリー、マイバッハはアルティメイト・ラグジュアリー。EQはプログレッシブ・ラグジュアリーだ」
2008年からダイムラーAGのデザインを率いるワグナーは、CLS以降、 「センシュアル・ピュリティ」という哲学を掲げてメルセデス各車のデザインを刷新してきた。センシュアル=官能的、ピュリティ=純粋性。スポーティさやエレガンスといった情緒的要素を、無駄のない造形で表現するというのが、彼の一貫した方針である。
「センシュアル・ピュリティはEQブランドも同じだが、それをよりプログレッシブに、より抜本的に表現する」
EQCを見ると、例えばその顔付きは、従来のメルセデスとは明らかに違う。グリルとヘッドランプの間にボディ色を入れる、という長年の伝統からEQCは抜け出した。
「EQのデザインの基本テーマのひとつは『シームレス』だ。ただクリーンという以上にクリーンに、ただシンプルという以上にシンプルにしたい。だからヘッドランプとグリルをひとつの黒いパネルで括った。これがEQの顔になる」
いまにして思えばこの顔付きは、2016年のジェネレーションEQで予告されていた。リアの車幅一杯に広がるテールランプも同様だ。
「ジェネレーションEQを発表したとき、すでにEQCのデザインは完成していた。量産車はデザイン決定から生産開始まで3年ほどかかるからね。量産車のデザインが良いものになるとわかっていたので、コンセプトカーはそれと違いすぎないようにデザインした」
「左右のランプを光の帯でつないだテールランプも、EQブランドのシグネチャーだ。とてもクリーンかつシンプルで、とてもシームレス。薄型のランプなので、路上でクルマをハイテクに見せる効果もある」
EQブランドの「プログレッシブ」のひとつの意味は、「ピュリティ」を従来以上に突き詰めることにあるようだ。例えば新型Aクラスのボディサイドを見ると、ワグナーたちデザイナーが「キャットウォークライン」と呼ぶ折れ線がショルダーに水平に突き通っている。EQCにはそれがない。
「シルラインはいつもあるが、これはキャラクターラインではなく、プロポーションを整えるためのラインだ。EQCのボディサイドには(シルラインを除けば)まったく折れ線がなく、すべての面がシームレスにつながっている」
ワグナーの言う「シルライン」とは、ドアの下端近くからリアバンパーに延びるラインこれは現行メルセデス車のほぼすべてで見られる。一方、現行モデルでショルダーにラインがないのはEクラス・クーペ、CLS、AMG GT、AMG GT 4-door Coupeとクーペばかり。パッケージング的に余裕のあるクーペは分厚いショルダーで明暗のメリハリを得られるが、そうでなければラインを入れて影を作るというのがこれまでの手法だった。しかしEQCは5人乗りのSUVだ。そこにEQのプログレッシブさが見える。
「EQCはとてもスポーティだとも思っている。キャビンが後方に向けて絞り込まれるにつれ、ショルダーの厚みが増していく。キャビンのプロポーションはハッチバックとクーペの中間といえるほどスポーティであり、そこに力強いショルダーが組み合わさることで非常にスポーティに見えてくるのだ。EQを環境に配慮するなだけでなくスポーティなブランドにしたいと考えている。実際、EQCの加速は素晴らしく、ファン・トゥ・ドライブだ」
「ピュリティ」だけではない。「センシュアル」の要素であるスポーティさについても、EQはよりプログレッシブに表現しているのである。