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ゴードン・ワグナーが語るEQCのデザイン【後編】

words:Takumi Chiba
photo: Daigo Kazan

ゴードン・ワグナーへの特別インタビュー第二弾。

ゴードン・ワグナーが語るEQCのデザイン【前編】はこちら

メルセデス初の量産バッテリーEVとなるEQC。そのエクステリア・デザインは「シームレス」をテーマに、メルセデスのデザイン哲学である「センシュアル・ピュリティ(官能的純粋)」を、よりプログレッシブ(より先進的)に表現したものだ。では、インテリアはどうか? 

ドライバーの正面に超ワイドなスクリーンを備えるのはSクラスやEクラス、新型Aクラスなどと同じだが、それらとはひと味違うムードが漂う。一因はエアアウトレットが丸型ではないことだろう

2008年にダイムラーAGのデザイン責任者に就いたゴードン・ワグナーは、先代Aクラスから一貫して、航空機の翼をモチーフにした水平方向に伸びやかなインパネにジェットエンジンのインテークをヒントとする丸型のエアアウトレットを組み合わせてきたのだが・・。

「EQCではインテリアにも、従来のメルセデスとは違うデザイン言語を使おうと考えた。まず第一に、ドライバーを中心に考えたデザインのコックピットだ。センターのエアアウトレットにドライバーに向けた角度を付けることで、コックピットにドライバー・オリエンテッド感を表現した」

インパネが水平方向に伸びやかなことには変わりないが、水平に突き通るものはないので翼のイメージはもはやない。スクリーンとセンターのエアアウトレットをひと括りのエリアに配置しつつ、それとコンソールでドライバーを囲むというスポーティなデザインだ。

「第二に、軽やかでエレクトリックなイメージのデザイン言語にしたい。そこでエアアウトレットを薄型にした。銅線を連想させるようなローズゴールド色のルーバーがあり、それ囲む形状は非常に薄くて軽やか。サイドのエアアウトレットも同様だ。電気自動車にはそれに相応しいデザイン言語が必要だから、EQCにはジェットエンジン・スタイルのエアベントは使わなかった」

「インパネの表皮も他のメルセデスとは異なる。『マイクロ・クラウド』と呼ぶ新素材でインパネを覆った。合成皮革の一種だが、とてもソフトで、とてもハイテク感がある。アンビエントライトはブルーだ。もちろん色を変えることはできるが、基本はブルー。それがEQのシグネチャーだからね。シートにも青みがかった色を使っている」

エクステリアはスポーティさと「シームレス」のシンプルさを融合し、インテリアはスポーティさに加えて素材や色でハイテク感を表現する。新型Aクラスが先鞭をつけたインターフェイスの新技術「MBUX」も、もちろん標準装備だ。

「他のメルセデスと同様にエモーショナルで緻密でラグジジュアリーでありながら、よりプログレッシブなインテリアにできたと思っている」

インテリアデザインの基礎となるパッケージングは、電気自動車(EV)専用のプラットホームの上に構築されている。一般にEVのパッケージングは内燃機関の車より自由度が高いと言われるが・・。

「バッテリーを床下に収めるのはチャレンジだった。12〜15cmの高さが必要なので、EVはSUVがやりやすい。それがEQをSUVから始めたひとつの理由だ。GLCのセグメントにしたのは、それが最も旬なセグメントだから。GLCのようなミッドサイズのSUVは世界中で需要が多いので、そこから始めるのが一番適していると考えた」

「当初はバッテリーの搭載に苦戦したけれど、最終的にバッテリーパックをなじませることができた。エクステリアのプロポーションは完璧だし、室内の広さを考えればボディサイズは非常にコンパクトだ」

最後に、昨年のペブルビーチで発表された「ビジョンEQ シルバーアロー」についても聞いてみよう。過去と未来が交錯するようなデザインの、シングルシーターの電動スーパーカーだ。楽しんで作った感覚が伝わってくるデザインだが…。

「その通り。それこそが最初の狙いだった。デザイナーも量産車ばかりやっていたら創造性が限られてしまう。彼らに自由に発想できる機会を与えれば、新しいアイデアが生まれ、それが量産車のデザインの幅を広げることにつながる。これはとても重要だ。そこで我々はペブルビーチを”デザイナーズ・ドリーム”を披露する舞台だと考え、まず2台のマイバッハ(16年の“ビジョン メルセデス マイバッハ6”と17年のビジョン メルセデス・マイバッハ6 カブリオレ)を開発した」

「マイバッハが大きな反響を巻き起こして、次をどうするか? 1938年に435km/hの最高速度の記録を出したレコードレーサーにヒントを得て、“ビジョンEQ シルバーアロー”をデザインした。これはEQブランドのイメージリーダーだ。EQブランドの可能性を拡大し、メルセデスの伝統と電気自動車の未来を結び付けたいと考えたのだ」

当然ながら、“ビジョンEQ シルバーアロー”が何年か後に生産化されるなどと期待することはできない。しかしEQCの内外装に漂うスポーティさを感じれば、内に秘めたスピリットは共通だとわかる。EQブランドの大きな未来に思いを馳せながら、EQCの日本発表を楽しみに待ちたいものである。

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