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【試乗記】石井昌道氏が乗る、S 400 d

words: Masamichi Ishii
photo: Daijiro Koori

知性派モータージャーナリストとして知られる石井昌道氏。エコドライブ、パフォーマンス、ドライブ・フィールと幅広い視点でS 400 dのインプレッションをレポートしていただいた。

Sクラスに新たに加わったS 400 dの試乗会に参加した。6代目の現行Sクラスは、2017年8月にフェイスリフトを受けたときにディーゼル・エンジン搭載車がラインアップから消えて何やら寂しい思いをしていたから、楽しみでならなかった。

メルセデス・ベンツ S 400 d

じつは、以前に存在したS 300 hには、ちょっとしたスイートな思い出がある。それぞれが低燃費ソリューションであるディーゼルとハイブリッドを掛け合わせ、このクラスとしては驚異的な20.7km/L(JC08モード)の燃費性能を証明するべく、鹿児島県・佐田岬から東京・六本木のメルセデス ミー 東京(当時はメルセデス・ベンツ コネクション)まで無給油での走破にチャレンジしたのだ。
燃料はまだ約10 ℓ残っていて、メーターに表示される航続可能距離は250kmだったから、そのまま福島県・郡山まで行ける計算だ。

メルセデス・ベンツ S 400 d

そんな思い出があるS 300 hがラインアップから消えてしまったのは、なにも人気がなかったからではない。2015年8月に登場したS 300 hは販売の30%を占める主力グレードだった。ただ、メルセデス・ベンツの先進パワートレイン戦略は留まるところを知らず、S 450はISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)+48V電気システムを導入。おそらく今後のメルセデス・ベンツのガソリン車の大半はこういったソリューションを持つようになり、それよりもストロングなPHVがシェアを拡大してトータルの電動車比率を大幅に高め、燃費改善およびCO2排出量削減に邁進するのだろう。

メルセデス・ベンツ S 400 dのエンジン

S 400 dの特徴はなんといってもコードネームOM656の新エンジンが直列6気筒であることだ。Sクラスでは一足早くV型6気筒から直列6気筒へ切り替わっているが、ディーゼルではどうなのだろうというのが最大の興味のポイントとなる。

メルセデス・ベンツ S 400 d

エンジンを始動してみると、びっくりするほどに静かだった。あまりにも静かなので試しに車外に出てみたが、それでもアイドリング音は極小。遮音性に優れて室内に音が届かないのではなく、エンジンそのものが静かなのだ。

メルセデス・ベンツ S 400 dのインテリア

再びコクピットに戻って走り出す。ディーゼル特有のカラカラという音は、低回転である程度の負荷がかかった状態で聞こえやすいが、それもまったくなし。
ありとあらゆるエンジンのなかでも、最高に静かで振動も少ない部類なのだ。
1200〜3200rpmで発生する700Nmもの図太いトルクが走りに余裕をもたらす。街中でも高速道路でも2000rpm以上を必要とする場面はあまりなく、首都高速・湾岸線を80km/hで巡航しているときは8速で1000rpm+α。それほどに低い回転でも右足の微細な動きに敏感に反応してドライバーが意図した通りに速度をコントロールできる。ゆるやかな登り区間にさしかかると、メーターで確認しないとわからないぐらいのスムーズさで7速にシフトダウンして1400rpmで速度をキープ。少し加速させると、そのままのギアでググッとボディを押し上げていった。音や振動からはまったくもってエンジンの存在を感じさせず、だが図太いトルクで極上のドライバビリティを提供する。あくまで黒子に徹するが、この上なく頼もしい特性は、Sクラスのキャラクターにぴったりだ。

S 400 d

合流区間で試しにアクセルを深く踏み込んでいくと、思いのほかスポーティなサウンドを響かせながら5000rpm近くまで軽やかに回っていった。これもまたディーゼルらしからぬフィーリングだ。
圧縮比が高いディーゼルは、がっしりとした造りであるため、高回転が得意ではないのが一般的だが、OM656はメルセデス独自のNANOSLIDEと呼ばれる技術でフリクションを徹底的に削減。効率を高めて燃費性能とパワー&トルクを向上させることに加えて、回転フィールがスムーズで軽快になる。そこに直列6気筒が生まれながらにして持つ優れた振動特性が加わって、ディーゼルに望外なスポーティさをももたらしているのだ。S 300 hの圧倒的な燃費性能も魅力だったが、S 400 dは高級車に相応しい静けさや頼もしさ、さらに軽快な回転上昇感など、フィーリングでドライバーを魅了するのだった。

S 400 d

Sクラスならではの快適な乗り心地にもしびれる。道路にカーペットを敷き詰めたかのように路面の凹凸を感じさせず、ひたすらにスムーズで滑らか。
AIRマティックサスペンションがもたらす、ゆったりとしたクルーザーのような乗り味は、じつに贅沢な気分にさせてくれる。それでいて、ダイナミックに走らせれば安定感も抜群だ。

S 400 dのインテリア

ショーファーとして使われることも多いSクラスだが、こんなに美味しいドライブ・フィールの持ち主を、人に運転させるなんてもったいない。できることなら、再び無給油でどこまで走れるのか、このまま旅に出たいとさえ思う。新たな直列6気筒ディーゼル・エンジンを搭載したS 400 dは、究極のドライバーズ・カーでもあるのだった。

ABOUT CAR

S 400 d

メルセデスが築き上げてきた哲学と情熱が生んだ最高峰。

 

PROFILE

石井昌道/MASAMICHI ISHII

石井昌道

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。
国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。
また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビングテクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。
最近ではメディアの仕事の傍ら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。
エコドライブ教習会のインストラクターを務めるとともにTV番組に参加し、エコドライブの効果、テクニックを広めている。

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