時代の要請から生まれた「小さな高級車」
メルセデスの高級車シリーズの入り口に立つのはCクラスだ。サイズ的にも使いやすく、機能的にも高級車を手に入れたという満足度は高い。そのCクラスがビッグマイナーチェンジして市販される。ビッグなマイナーという言い方は妙だが、フルモデルチェンジの間に行われるスモールチェンジを海外ではフェイスリフトと呼ぶが、今回市販される最新Cクラスは、その中身が大きく進化しているのだ。そんなCクラスの魅力をたっぷりとレポートするが、まずはCクラスの歴史から振り返ってみよう。

Cクラスのルーツは1982年に生まれた190であったことはあまり知られていない。日本では1700ミリ以下のボディサイズだったので5ナンバーで市販されたことがあった。それまでビッグサイズとミッドサイズの高級車メーカーとして知られてきたメルセデスがいきなり5ナンバーで乗れるモデルを発表したので、日本では多くの人が190オーナーに志願した。メルセデス・ベンツがなぜコンパクトな190を開発したのだろうか。

当時の社会はオイルショックを背景にした石油に対する危機感から、アメリカ政府でもメーカーの平均燃費を義務化することになった。そのときメルセデス・ベンツは燃費のよい2リッターエンジン中心の190の開発を決定した。そんな事情から190が誕生した。デザインを担当したブルーノ・サッコ氏は小さな高級車を作ることに熱心だったそうだ。このモデルはW201と呼ばれたが、二代目のW202から「Cクラス」と命名されるようになった。

ちなみにブルーノ・サッコ氏は1997年に登場したAクラスを最後に現役から退いたが、人生でもっとも情熱を注いだのはこのAクラス、そして190とだったと後に語っていた。
妥協のない快適性と安全性を体感
最近のメルセデスのフェイスリフトは信用できない。これは良い意味の話だ。つまり、フェイスリフトとは外観だけの変更の意味で使われてきた言葉だが、デジタル技術を駆使する開発手法ではハードやソフトも大幅に進化させることが昔ほど難しくない。昔の開発手法なら、じっくりと時間をかけてフルモデルチェンジ、その間に外観を少し変更し、新型車として市場に出す、というルーティンが行われていたが、クルマ自体も開発手法もデジタル化とIoT化が進むと、進化のスピードが二倍速になってきている。いや、それ以上かもしれない。

最近インタビューしたミヒャエル・ケルツ開発責任者(Michael Kelz=Head of development CLS / GLC / E-Class & EQC)はこう述べている。「メルセデスはカスタマーが求めている期待値に敏感です。お客さまからたくさんのフィードバックをいただきますので、この期待値からなるべくずれないように最大限に努力します。例えば、 Cクラスが市場に導入されるとお客さまに印象を聞き、そのフィードバックをデータに反映しています」
昔なら先送りするような課題でも、すぐに製品に反映するような開発体制を構築している。メルセデスほどの伝統的なメーカーが、これほどスピーディな開発システムを持っていることが驚きだ。前振りが長くなってしまったが、いわゆるフェイスリフトされた新型Cクラスはフルモデルチェンジに近い内容と持っている。

主な変更は新開発のガソリンモデルと、ディーゼルモデルがラインアップされたこと。C 200 AVANTGARDEに搭載されるのは1.5ℓのガソリンターボ、C 220 dは2ℓのディーゼルだ。1.5ℓガソリンエンジンに関しては後で詳しくレポートするが、ディーゼルは最新の排ガス浄化装置を備えており、厳しい規制にも堂々とクリアできる。

実際に試乗してみて真っ先に感じるのが乗り心地の良さだ。C 200やC 220 dにはS・Eクラス譲りのエア・サスペンションがオプションで設定され、C 180には電子制御のダンパーがオプションで設定される。まさに快適性に関しては妥協がない。

ハイテク関連ではADASと呼ばれる高度なドライバー・アシスト・システム(メルセデスの場合はレーダーセーフティパッケージと呼んでいる)もSクラスと同等の性能にアップデートされた。カメラとミリ波レーダーをハーモナイズさせた機能は自動運転にもっとも近い機能を有している。高度な機能を備えているわりにメルセデスのシステムが使いやすいのは、つねにドライバーが直感的にわかりやすく使えるかどうか、というユーザー視点を持っているからだ。
このように中身を見ると、最新が最良というメルセデスの哲学を感じるのだ。
「EQ Boost」が拓く、新しい可能性
BSGって何?と聞かれたことがあったが、ここで抑えておくべき知識はISGとBSGのこと。これはメルセデスだけに通じる専門用語で、ISGは「インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター」の略で、直列6気筒のガソリンエンジンに採用される技術である。具体的にはギアボックスに内蔵されるモーターのことを指すが、このモーターで「エンジンスタート」「駆動」「回生ブレーキ」の三役をこなす。まさにインテグレ-ト(集積)だ。そして48Vの電気システムを使いターボの過給をサポートする。
一方、BSGとは「ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター」の略だが、通常のスターター/オルタネーターに48V電気システムを組み合わせ、発進時のトルクをモーターで発生させる。これでターボのタイムラグをカバーしれくれるから、すこぶるスムーズに発進できる。もちろん、減速時はスターター/オルタネーターで電力を回収するので、燃費は向上できる。

このように48V電気システムを巧みに使うシステムを「EQ Boost」と呼んでいる。
ところで、メルセデスはバッテリーで走るEVを「EQ」、エンジンとモーターでコンビを組むプラグイン・ハイブリットを「EQ Power」、48V電気システムを持つエコ・システムが「EQ Boost」。つまり数年後のメルセデスはすべてEQのアイコンが付くことになり、完全にメルセデスのサブブランドとなりそうだ。

実際に今回発表した新型Cクラスの色々なエンジンを試してみたが、想定外だったのはC 200だった。まず従来の4気筒ターボよりもエンジンがとても静かになり、走りは元気だ。排気量は1.5ℓだが、最高出力184ps+最大トルク280Nmは想定外のパワーだ。ターボシステムもツインスクロール・ターボチャージャーを採用しているので、48V電気システムとの相乗効果が大きい。見た目はコンパクトなハイブリッド・システムだが、実際のパフォーマンスは文句ない。エンジンの不得意なところを見事に電動化でカバーしてくれる48V電気システムは新しいハイブリッド・システムと言えそうだ。
地球環境の未来を先駆ける
CクラスファミリーはEV走行が50Kmも可能なプラグイン・ハイブリットEQ Powerから、1.5Lターボと48V電気システムのEQ Boost、そして最新のディーゼルもラインアップしている。
約30年前に誕生した190がCクラスのルーツであるが、生まれた時から環境のことを考えていた。その先代の思いは見事に花が咲いている。このCクラスのプラットフォームは電気自動車のEQC、燃料電池車のGLC F-Cellにも使われる。まさにCクラスファミリーが多様化するのだ。

最後に伝えたいことは、Cクラスは最先端のテクノロジーをわかりやく使えるように進化している。自動運転を見据え各種センサーを備えたクルマは他にも存在するが、多くの場合はスイッチ類が煩雑で使いにくい。しかしメルセデスは「ユーザーのミスユースをなくすこと」「ユーザーが直感的に使いやすいこと」に多大な努力を払って開発している。技術屋よがりにならず、人はミスをするという前提に立って、システムを構築している。
例えば右ハンドル車の場合、ステアリングの右手親指だけで「走る機能」に係るスイッチを操作できる。左手親指はオーディオなど「直接安全に係る機能」が集約さている。ヘッドアップディスプレイも余計な情報を与えず、自車速度と規制速度がわかりやすく表示され、アナログとデジタルを巧みに使いこなす。開発チームに心理学者や社会学者を有していることにも由来するのだろう。
まさに哲学者がステアリングの向こう側にいると思うと、ワクワクするではないか。
ABOUT CAR
C 200 AVANTGARDE
世界最高峰の安全性が、大きな安心であなたを包むインテリジェントドライブ。さらなる洗練とクオリティによって、精緻を極めたダイナミズムをまとうエクステリアと、スポーティなドライビングを心から愉しむための心地よさが溢れるインテリア。目に見えない部分まで、およそ6,500ヶ所を更新。
全長: 4,705mm
全幅: 1,810mm
全高:1,430mm
メーカー希望小売価格: ¥5,520,000
PROFILE
清水和夫/KAZUO SHIMIZU

国際自動車ジャーナリスト。1954年生まれ、東京出身。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして、多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとしても活躍。自動車国際産業論に精通する一方、スポーツカー等のインストラクター業もこなす異色の活動を行っている。