弧を描く流麗なサイドビューが醸し出す印象は紛うことなきCLSのカタチだが、ディテールには当然、次世代メルセデスのデザインコンセプトが積極的に用いられている。

そのことをもっとも強く主張するフロントセクションは、ダイヤモンドグリルとシングルルーバーを戴く台形のグリル、グリルと呼応するように切れ上がったヘッドライト、シャークノーズと名づけられた前傾姿勢のフロントノーズによって、シャープで力強い造形を構築。CLS特有の伸びやかなフォルムがさらに際だって見えるのには、ロングノーズを強調するためボディパネルと完全に一体化するようデザインされた、複雑な曲面をもつボンネットの存在がじつは大きい。

CLSが4ドアクーペであることを端的に象徴するサイドビューは、新型にも高いウエストラインと小さなグリーンハウスが引き継がれており、一見したところ変わった印象は受けない。しかし、凹凸を限りなく減らしたサイドウインドウを含め、きわめて滑らかな質感をともなっている点が目新しい。

メルセデス・ベンツのチーフデザイナー、ゴードン・ワグナーが掲げるデザインフィロソフィー“Sensual Purity=官能的な純粋さ”とは、要約すれば「飾り立てるのではなく、削ぎ落とすこと」。結果として、本質的な美しさ=豊かさに近づくというものだが、フロントとリアをつなぐショルダーラインなどのカーデザインに不可欠な線は、新型CLSにおいてはすべて曲面による凹凸で表現されており、サイドビューはまさに“Sensual Purity”のフィロソフィーを体現したものになっているのだ。鋭いエッジやプレスラインに頼らない新しいアプローチが、鍛え抜かれたアスリートの筋肉を思わせる、美しく逞しい質感を実現しているのである。

流れるように一体になったCピラーとリアフェンダーを通じて絞り込まれたリアセクションは、スパッと切り落としたような面にテールライト、リフレクター、エグゾーストパイプを上から順にレイアウト。横長・水平とすることで視覚的な安定感を演出しつつ、2分割とすることでラゲッジルームの実用性向上に寄与するテールライトは、物理的に平滑で奇をてらわないシンプルなデザインながら、エッジライトテクノロジーによって奥行きのある、立体的な光り方で魅せる工夫がなされている。

こうしたデザイン性と機能性の融合はインテリアにも見受けられ、新型CLSで初採用となったイルミネーテッドエアアウトレットは、ジェットエンジンのタービンをモチーフにした送風口がアンビエントライトと連動し、設定温度を上げると赤く、下げると青く光るという、非常に“実用的なギミック”が用いられているのだ。
ゴードン・ワグナーが「4ドアクーペのアイコン」と自負するCLSのDNAに刻まれた、新しさ、美しさ、力強さ──。変えるべきところは変え、変えないところは変えない、Sensual Purityを追求した変容には、進化と深化の言葉こそがふさわしい。