ストレスフリー。
メルセデス・ベンツのSクラスは、2017年に新型へと移行した。ラインナップのなかで、いち早く日本市場でのデリバリーが始まったS 400に試乗して真っ先に口を衝いたのが、この言葉だった。とにかく、運転していて一切のストレスを感じないのだ。
排気量3ℓのV型6気筒ツインターボエンジンは、信号待ちの発進から高速道路まで、望めば望んだだけの加速を提供してくれる。しかも9速ATは、ドライバーが変速したことに気付かないほどスムーズかつ迅速にギアを変えるから、加速も減速もシームレス。
ステアリングホイールを握っていると外界の喧噪が遠くの出来事に感じるほど車内は静かで、その乗り心地の良さたるや身体がとろけるようだ。

ただし、「自動車の完成型」と呼びたくなるほど機能に秀でていることだけがストレスフリーの理由ではない。たとえば取材先への手土産を買おうとデパートの駐車場に入る。普段乗っている自分のクルマよりはるかにサイズが大きいから停められるかどうか逡巡するけれど、あっさりと停められるのだ。
簡単なことのように聞こえるかもしれない。けれども、このクラスのラグジュアリー・セダンにおいて停める場所に苦労しないというのは、実は得難い特徴だ。ここでは、メルセデス・ベンツの新型Sクラスがなぜ駐車する場所に苦労しないのかを考えてみたい。題して、「ラグジュアリー・セダンのサイズと駐車場の関係」について。
手始めに、日本の駐車場事情を確認してみよう。
2017年春に鳴り物入りでオープンした商業施設・GINZA SIXは、オープン当初の賑わいをいまもキープしている。ここに愛車でアクセスすると仮定してみる。423台が停められる機械式駐車場は、「全長:5.3m」という制限がある。ちなみにメルセデス・ベンツS 400の全長は5125mm、オプションのAMGラインを装着しても5155mmだから、まったく問題がないことがわかる。
実はこの「全長:5.3m」というのが、東京の駐車場のひとつの基準となっている。日本橋三越本店(パーキングビル駐車場 自走式/機械式)、コレド日本橋、六本木ヒルズなどなど、多くの百貨店や複合商業施設では「全長5.3m以下」という制限を設けているのだ。これを知ると、Sクラスでデパートへ買い物に立ち寄った時にスムーズに駐車できたことがすとん、と腑に落ちる。
さらにメルセデス・ベンツの新型Sクラスで都内を移動してみると、その駐車の容易さの理由が全長だけではないことが体感できる。たとえば、世田谷区の住宅街の狭い路地にうっかり入ってしまった時に、パッと見て「大丈夫かな?」と思える場面でも楽々曲がることができた。自動車専門誌的な表現を使えば「取り回しが良い」となるが、つまりSクラスは、小回りがきくのだ。

そこでSクラスの最小回転半径を調べると、5.5m。最小回転半径とは、ハンドルを目一杯切った時に、外側の前輪が描く円の半径。当然ながら、この値が小さいほど小回りはきく。
他社のラグジュアリー・セダンの最小回転半径の数値を確認してみよう。BMW7シリーズは5.5〜5.7m、アウディA8が5.8m、レクサスLSが5.7~5.9mとなっている。少しだけ専門的な話をすると、ハンドルの切れ角が大きいほど最小回転半径は小さくなるから、メルセデス・ベンツSクラスで駐車をして感じた「ハンドルがよく切れる」という印象は、数値でも証明されたことになる。これくらいの大柄なサイズになると、0.1m違えば駐車スペースでも路地を曲がる時でも、体感的には大違いなのだ。
さらに言えば、Sクラスにはリモートパーキングアシストという機能もある。クルマの外からスマートフォンのアプリで駐車操作ができるというものだ。これを活用すれば、乗り降りしにくい狭い駐車場でも楽にクルマを停めることができる。また、Mercedes meアプリの駐車位置検索機能を活用すれば、広い駐車場を利用したときや、土地勘のない旅行先で駐車したときに、駐車位置を探してまごつくこともない。
と、ここまではメルセデス・ベンツS 400を題材に、ご自身でステアリングホイールを握るオーナードライバーの方に向けて書かせていただいた。ただし、Sクラスにはショファー・ドリブンという用途ももちろん存在する。そういう使い方にあたっては、全長を13cm延長し、そのほとんどを後席居住スペースの拡充に充てたロングや、ノーマルモデルより33cm以上も長いメルセデス・マイバッハSクラスもラインナップしていることは付記しておきたい。

Sクラスのようなラグジュアリー・セダンを評価する際には、快適性や居住性、走行性能や装備の豊富さなどで語られることが多かった。もちろんそういった要素はラグジュアリー・セダンにお乗りになる方が重視するポイントだ。けれども実際に使う身になって考えると、「駐車場に停めやすいかどうか」「小回りがきくかどうか」はインテリアの上質さと同じくらい重要だ。もっと言えば、駐車の容易さや取り回しの良さも快適性に含まれるのかもしれない。どんなにラグジュアリーな自動車も、どんなにハイパフォーマンスな自動車も、ずっと走り続けているわけにはいかない。自動車は、一日に何回かは駐車をする必要がある。さすがに、「新車を買ったはいいけれど、自宅ガレージに入らなかった」では笑い話になってしまうけれど、ビジネスであれプライベートであれ自動車を使う場合には、出会う駐車場の種類は千差万別なのだ。
日本語だったら「大は小を兼ねる」、英語だったら「Bigger is better」と、大きなものの方が便利だというのは世の東西を問わず常識になっている。けれども、こと自動車に関して言えば、その常識が通用しない場面もあるのだ。
オーナードライバーに向けてはジャストサイズで小回りのきくストレスフリーなモデルから、ショファー・ドリブン用途に向けてはゆったりと寛げるモデルまで。メルセデス・ベンツのフラッグシップにSクラスという名称が冠されたのは1972年で、以来、45年にわたってこのモデルは世界の自動車の指標とされている。現行モデルも全世界で30万台以上を販売しているが、そのストレスフリーな性能に接すると、真の高級とは何かがわかっていると感じる。
ABOUT CAR
S-Class Sedan
常に最高峰であり続けるために、自らを革新し続けるSクラス。
そこにあるのは、自動車の行く先の道標となる、揺るぎない未来。