世の中にインパクトを与えたモデル、セールスで大きな成功を収めたモデルなど、憧れとステータスをまとったメルセデス・ベンツのクルマは、いつの時代も、そして時間を経てもなお、変わらぬ魅力と価値を保ち続けている。“オールタイムスターズ”の名にふさわしい名車の数々は、卓越した走行性能と耐久性をもって、今日においても高く評価され、愛され続けているのだ。

例えば、“パゴダ”という特徴的なルーフ形状を持つW113 SLシリーズやC107 SLCは、メルセデスのラグジュアリーを体現したパーソナルなロードカーとしてだけでなく、様々なレースシーンでも確かな足跡を残してきた、“オールタイムスターズ”の象徴的な存在といえるだろう。こうしたモデルは現在、世界中で行われているクラシックカーラリーの“常連”になっている。

アルプスの麓を舞台に2010年から始まったアールベルグ・クラシックラリーは、1975年までに製造された名車たちが集う大規模なイベントとして知られるが、1939年以前のクラシックカーを40台も数えた2016年には、前述の2台も当然のように参加。かつて、オーストリアの子会社オーストロ-ダイムラーのハンス・スタックが同じアールベルグで1927年に初開催された国際レースで優勝した縁ある地には、スーパーチャージャーエンジンを搭載する1929年製のメルセデス・ベンツ SSKLの姿もあり、愛好家たちが駆る“オールタイムスターズ”は、時代を超えた輝きを放ったのだった。
このアールベルグ・クラシックラリーで2016年のアンバサダーを務めた、一人の女性を紹介しよう。

1982年、スコットランドでオートバイビジネスを営む両親のもとに生まれ、8歳でレーシングキャリアをスタートさせたスージー・ヴォルフ(旧姓:ストッダート)。オートバイレースに参戦する“本格派”の父と祖父は、彼女が3歳になる前に4輪バイクを与えた。スージーがレースの世界に触れるのは当然のなりゆきだったのだ。小柄な少女はカートで腕を磨き、2000年からフォーミュラ・フォードに参戦。フォーミュラ・ルノー、イギリスのフォーミュラ3をドライブし、キャリアを着実に積んでいく。イギリスのヤング・ドライバー・オブ・ザ・イヤーにノミネートされた彼女は2006年、DTM(ドイツ・ツーリングカー・マスターズ)のメルセデスのワークスドライバーとして契約。ハイレベルなDTMの世界で、6年間にわたってメルセデスを走らせた。
後にメルセデス・モータースポーツのヘッドになるトト・ウォルフと2011年に結婚。2016年、アールベルグ・クラシックラリーのアンバサダーを務め、現在はメルセデスがグローバルに展開している“She’s Mercedes”のブランドアンバサダーとして活躍している。クルマとレースと家族を愛し、溌剌と生きるスージーの姿に、自動車黎明期のメルセデス・ベンツを走らせた女性たちが重なって見えることだろう。