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写真家・石川直樹 流氷の旅、春の訪れ

Gクラスを走らせ、石川直樹が知床で出会った新しい季節の記録。

冬、知床には流氷がやってくる。
流氷がくると、ただでさえ寒い道東の半島に、本当の寒さが訪れる。ぼくは毎年斜里町の沿岸、以久科原生花園のあたりで流氷に出会い、水平線までびっしりと埋まる海を眺め、その上を歩きながら、巡る季節を肌で感じる。

流氷

海が氷で埋め尽くされていても、氷はただ海上に浮いているだけなので、氷と氷の隙間に踏み込まないように注意しながら、氷上を歩いてみる。地元の人は「平らなところのほうが危ない」と言う。雪が出っ張っているところを歩いたほうが安全だ、と言われていたので、その通りに歩く。氷が出っ張ったところは、明らかに氷の塊だとわかるが、平らなところは氷と氷の隙間に雪がかぶっているだけかもしれないからだ。

流氷

何十メートルも歩くわけではなく、ほんの短い散歩をするだけなのだが、これが毎年恒例の儀式のようになっていた。これらの氷は遠くロシアのアムール川の河口からやってきた。流氷は川からが流れ出た真水が凍ってできたもので、海水自体が凍っているわけではない。
 北極のように、単純に寒さで海が結氷するのではなく、アムール川の河口から旅してきた水が、海を介して道東の沿岸と繋がる。海が隔てるのではなく、繋げてくれる存在でもあることを流氷は可視化してくれる。眼に見えない黒潮よりも、流氷が流れ着くオホーツク海のほうが、地球の距離や時間などを体験的に教えてくれて、いい。

昔オロッコ族が暮らしていたという言い伝えのある岩山

以久科原生花園から、さらに北のウトロという港町まで車で走っていくと、左手にオホーツク海が広がる。そのときの海の広がりがぼくは好きだ。夕暮れ直前の時間帯が最も美しく、誰しもが吸い込まれそうになって、車内の会話も止まる。
ウトロに着くと、今度はオロンコ岩の周辺に行ってみる。オロンコ岩というのは、昔オロッコ族が暮らしていたという言い伝えのある岩山で、海に突き出している。その先には、小さな三角岩があって、そこから見る流氷も最高だ。

知床峠

ウトロのさらに北には、間近に羅臼岳、遠くに北方領土の国後島が見える知床峠があるのだが、そこは冬の間は閉鎖されている。流氷が去り、道路の冬期通行止めが解除されると、春はすぐそこだ。

雪が降る夜空

春が来るまでのしばしのあいだ、流氷を楽しむために、知床行きをお勧めする。何も寒い冬に寒い場所に行かなくても、と思うかもしれないが、そういう土地には一番寒い時期に行くのがいい。風向きにもよるが、三月中旬までロシアから流れてきた氷群を見られるだろう。

PROFILE

石川直樹/NAOKI ISHIKAWA

石川直樹/NAOKI ISHIKAWA

1977年東京生まれ。写真家。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最近では、ヒマラヤの8000m峰に焦点をあてた写真集シリーズ『Lhotse』『Qomolangma』『Manaslu』『Makalu』『K2』(SLANT)を5冊連続刊行。最新刊に写真集『知床半島』(北海道新聞社)、『Svalbard』(SUPER LABO)、著書『ぼくの道具』(平凡社)がある。

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