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「EQ」ブランドの最新コンセプトカー「Concept EQA」

words:Kazuo Shimizu
photo:Ryo Kawanishi

「第45回東京モーターショー2017 」でお披露目された「Concept EQA」に見る、メルセデスのEVに対する思いとは。国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏に解説していただいた。

メルセデスのEV専用ブランド「EQ」に新しい仲間が誕生する。Aクラスのコンセプトを持ったピュアEVが「EQA」としてフランクフルト・モーターショーで発表された。ダイムラーのディーター・ツェッチェ ダイムラーAG取締役会会長 兼 メルセデス・ベンツ・カーズ統括にとってはとても思い入れがあるはずだ。というのも、彼は初代Aクラスの開発責任者だったからだ。1997年だったと思うが、国際試乗会はベルギーで開催された。そのとき、『NAVI』という雑誌で当時の鈴木正文編集長と一緒にインタビューしたことがあった。その試乗会のお土産が3.6mまでしか測れないロール式の巻き尺だった。このAクラスには様々な話題がある。もはや検索エンジンで検索しても出てこないファクトが面白い。

まず、高級車メーカーだったメルセデスが初めてFFのコンパクトカーを開発することに世界は驚いていた。いままで大衆車メーカーと高級車メーカー、スポーツカーメーカーと住み分けてきた自動車産業がみんなフルラインメーカーになろうとしていたからだ。もっともショックを受けたのはトヨタだった。vision Aと呼ばれるAクラスのプロトタイプがデトロイトショーで発表されたとき、豊田章一郎さんが「ベンツがカローラを作るぞ」と危機感を持ったという。その危機感が実はプリウスを誕生させるきっかけとなったそうだ。Aクラスが誕生した1997年、メルセデスは全長2.7mのスマートを発表した。「コンパクトカーの世界にメルセデスが…」という期待とも脅威とも思える声があちこちから聞こえてきた。

しかし、メルセデスがコンパクトカーを開発した理由は単にエコだけではなかった。Aクラスの責任者だったツェッチェ氏は「コンパクトカーを開発する一つの動機は、ハンブルグの小学生のアンケートの中で嫌いな父親の姿を尋ねたところ、“アウトバーンの追い越し車線をベンツで走る自慢げな父親の後ろ姿”という答えがショックでした」と述べていた。

90年代は安全の時代でもあったが、地球温暖化の危機が話題となり始めた時代であった。そのときのツェッチェ氏は「いつまでも大きなクルマではだめなんだ」と考えていた。

1997年は京都議定書が発効された年でもある。議論が紛糾する中、当時の議長は時計の針を止めてでも、京都議定書を発効するという強い意思を持っていた。そんな時代を先読みしたメルセデスはAクラスとスマートを発表し、トヨタはハイブリッドカー、プリウスを発表した。両者はお互いにリスペクトしながら、その後の環境に優しいクルマ作りに情熱を注いだ。1997年は環境元年だったのだ。

もう一つのトピックスは安全性だった。小さなクルマは衝突に弱かったが、メルセデスは車体技術のブレークスルーを行った。車体設計のコンセプトにコンパティビリティという考えを盛り込んだ。重量と硬さと形状が異なるクルマ同士の衝突では、乗員の被害に大きな差が生じてしまう。重いクルマは、軽いクルマを潰すことで、自らの衝撃を緩和する。これが物理学の定理であった。そこでメルセデスは大きなクルマほど柔らかく設計し、小さなクルマほど硬く設計するというコンセプトを打ち出した。この考えがコンパティビリティだった。

重量と硬さと形状が異なるクルマ同士の衝突

Aクラスはサンドイッチ構造の車体を考案し、スマートはエンジンをリアに搭載し、フロント部分のエネルギー吸収を高めていた。Eクラスなどの高級車はフロント部分を柔らかく設計し、コンパクトカーへの加害性を緩和できるように設計した。軽自動車を200万台以上も生産する日本メーカーにとってコンパティビリティはとても重要な設計コンセプトであったのだ。当時の安全技術を統括していたインゴ・カリーナ氏は、私にとっては安全技術の師匠的存在となった。だいぶ前置きが長くなったが、安全と環境という技術的には二律背反しやすい領域の技術をAクラスは見事にブレークスルーしたのである。

それから20年後の2017年、Aクラスの遺伝子を継ぎ、バッテリーEVとして新しい価値を提供できるConcept EQAが登場した。パワートレーンがエンジンからモーターに変わっても、1997年の初代Aクラスに刻まれたメルセデスの哲学は貫かれているはずだ。しかも、バッテリーとモーターはエンジン車よりもボディパッケージの自由度が高い。初代Aクラスではできない新しい価値を早く味わってみたいものだ。

さっそく、Concept EQAのプロフィールを見てみよう。昨年のパリ・モーターショーで発表されたEQのコンセプトカー、ジェネレーションEQよりもConcept EQAはコンパクトなので身近に感じる。ボディサイズは全長4,285、全幅1,810、前高1,428mmとなり、全長の割にホイールベースは2,729mmと長いのが特徴だ。EVはパッケージの自由度が高いので、エンジン車ではできないデザインが可能なのだ。

Concept EQA

よく見るとタイヤは限りなく四隅に配置されているので、とても精悍でスポーティだ。2ボックスデザインだが、細部に魂が宿っているような生き物を感じる。ボディカラーも新鮮で、ブラックのパノラミックガラスルーフとブラックパネルとの間に力強いコントラストをもたらしている。オーバーハングが小さいホイールアーチは、なんなく20インチホイールを装備する。

Concept EQAを担当したデザイナーのゴードン・ワグナー氏は「官能的でシンプルなデザインに、モダンなラグジュアリーを表現しました」と述べている。たしかに、クリース(折り目)のないボデイはまさに生き物のように思える。このConcept EQAは従来のメルセデスにはない、セクシーなスタイルを持っている。

Concept EQA

モーターは前後のアクスルに配置されるモーター四駆だ。合わせて200kWのモータートルクはとても大きいので、四輪駆動は必須だろう。しかも前後のモータートルクは自由自在にトルク配分が可能なので、ケース・バイ・ケースで操縦性を変えることができる。モーターの最大トルクはなんと500Nm以上を発生する。EQAの0~100km/h加速は約5秒なので、自分が持っているメルセデス・ベンツW210型E55AMGに匹敵するではないか。また、走行モードは「スポーツ」と「スポーツプラス」の2種類を備えている。静かでトルクフル。ハンドリングもご機嫌に楽しめそうだ。EVで気になる航続距離はメルセデス・ベンツのインテリジェントな制御戦略ともあいまって、約400kmは可能だ。充電は自宅でも可能だが、ドイツでは非接触の誘導充電やウォールユニットによる充電のほか、急速充電にも対応している。

Concept EQA

バッテリーはパウチ型セルによる高効率なリチウムイオンバッテリーを使用し、その容量は60kWhを上回る。このバッテリーはダイムラーの子会社であるドイチェ・アキュモーティブで生産されるが、近い将来は空気リチウムイオンを社内で開発し、よりエネルギー密度が高いバッテリーが実用化するはずだ。

メルセデス・ベンツは2022年までに、ピュアEVを10台以上市場に投入すると公約している。そのポートフォリオの中でもConcept EQAはまさに中核的な存在だろう。ツェッチェ会長は「Concept EQAはメルセデスがEV導入に真剣に取り組んでいることを証明するものです」と発言している。

ジェネレーションEQ、smart vision EQ fortwo、そしてConcept EQAとEQファミリーは新しい仲間が増えている。2022年には大家族となるわけだが、伝統的なFRセダンの高級車とプレミアムコンパクトとして最近急成長するA/Bファミリー。そしてこのEQシリーズがラインアップされる。それはまさにメルセデスブランドの新しいチャレンジなのである。

 

モータージャーナリスト 清水和夫

清水和夫

1954年生まれ東京出身。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして、多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとしても多数出演。国際産業論に精通する一方、スポーツカー等のインストラクター業もこなす異色な活動を行っている。


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