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メルセデス・ベンツが取り組む、パワートレーンの未来へ

words:Kazuo Shimizu
photo:Ryo Kawanishi

「第45回東京モーターショー2017」で発表された燃料電池車、 GLC F-CELLのテクノロジーと、ここに至るまでのメルセデス・ベンツの歩みと思想を国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏にレポートしていただいた。

PHEVとF-CELL

2017年5月末、気象庁は日本の二酸化炭素(CO2)の濃度が上昇し続けており、観測史上最高に及んだと発表した。2015年のCOP21で合意されたパリ協定では、全体目標として掲げられている「世界の平均気温上昇を2度未満に抑える(1.5度に抑えることが、リスク削減に大きく貢献することにも言及)」目標に向け、人間活動による温室効果ガス排出量を実質的にゼロにしていく方向を打ち出した。その実現のためにはCO2排出を抑制する低炭素社会を実現しなければならない。そのときクルマは電動化がキーワードになるだろう。

2016年6月にドイツで開催されたメルセデス・ベンツの技術のワークショップ「Tec Day2016」に参加したが、その際に発表された言葉が印象的だった。それは「All Mercedes-Benz model series will be elec-trified」という一文。すなわち、メルセデスは今後すべての車両を“電動化”していくことを宣言したのである。
気の早いメディアの中にはエンジンがなくなるとの誤報もあったが、全てのクルマからエンジンが消えるわけではない。エンジンだけのクルマ(非ハイブリッド)は生き残れないという意味なのである。

この先、ニーズやユースケースに応じてはエンジンとモーターを使うプラグインハイブリッド(PHEV)が台数的には主力となるし、電動化車両の完全なゼロ・エミッションはバッテリーで走るEVと水素で走る燃料電池車なのである。電気や水素は一次エネルギーではく二次エネルギーなのであるが、その作り方がポイントとなる。バッテリーで走る電気自動車や水素で走る燃料電池車はテールパイプから一切の排ガスが出ないので、クルマだけで見るとCO2排出量はゼロだが、こうした二次エネルギーは再生可能なエネルギーを使えるのが最大のメリットだ。特に水素は「電気の入れ物」として理解するバッテリーよりも多くのエネルギーを蓄えることが可能で、電気よりも運びやすく、長期にわたって貯蔵することができる。こうして考えるとバッテリーEVと水素燃料電池車は同じゼロ・エミッション・カー(二酸化炭素無排出車)の仲間なのである。

GLC F-CELL

ここではCクラスのプラグインハイブリッド(PHEV)、C 350 e AVANTGARDE(「第45回東京モーターショー2017」に展示)と、同展で発表された水素燃料電池車、GLC F-CELLについてレポートしてみたい。

メルセデスが切り開いたPHEVの新次元

数年前からメルセデスはPHEVの普及に積極的で、2018年くらいまでに17モデルにPHEVをラインアップすると発表していたが、C 350 e AVANTGARDEはその初期モデルとして登場した。トルコンATの中にモーターを組み込み、バッテリーは6.2kWhのリチウムイオンバッテリーをトランクルームの床下に搭載し、そのEV走行距離は約30kmだ。
そもそもプラグインハイブリッド=PHEVとは従来のハイブリッドと比べて何が違うのだろうか。通常のハイブリッド車よりも多めのバッテリーを搭載することで、電気だけで走るEV走行の距離を伸ばすのが目的だ。街なかではエンジンを止めてモーターだけで走ることが可能だし、街なかで排ガスを出さないで済む。しかも騒音もなく静かに走るので、クリーンで過ごしやすい都市空間が得られる。郊外に行くときは、エンジンを始動し(自動的に)高速走行が可能となる。

C 350 e AVANTGARDE

実際にC 350 eに乗ってみると、合計4つの走行モードが備わっていることに気が付く。これはケース・バイ・ケースで最適なモードがチョイスできるのだ。例えば「E-MODE」を選ぶと、エンジンを使わないEVモードで約30km走ることが可能で、その時の最高速度は130km/h。街の中心部や深夜の自宅の駐車場周辺ではこの「E-MODE」がいいだろう。

「HYBRID」モードではエンジンとモーターのコンビネーションで走るが、コンピューターはバッテリーの残量を計算している。「チャージ」モードでは、走りながら充電できるモードで、街の中心部に入る前に充電しておくと便利だ。「E-SAVE」モードはバッテリーを長持ちさせるモードとなる。静かでトルクフルなC 350 eはとても快適に走れるが、この快適性はPHEVだからというわけではなく、全てのメルセデスに共通する特質だ。とくにPHEVとしては、エンジンが始動しなくても走れるので、EV機能が新鮮だった。充電は200Vを使うことになるが、自宅でも電力会社に依頼すると200Vの電源を用意してくれる(有料)。PHEVはしっかりとしたライフスタイルを持っている人にオススメできる。自宅とオフィスの距離が20km前後なら(条件次第)、エンジンを使わずに通勤に利用できる。自宅とオフィスに200Vがあれば文句無しだ。

ところで「HYBRID」モードでスポーティーに走ると鋭い加速が楽しめる。エンジンはガソリン2リッター・ターボで211PS/350N・mを発生するので、モーターとエンジンのトルクを合算するとなんと600N・m近いトルクが得られるのだ。このパワートレーンの加速力はC 63 AMG並みの速さだ。これまでハイブリッドはエコカーの代名詞で「草食系」といわれてきたが、C 350 eに限ってはAMGのスピンオフだと思える。C 350 eに採用された新技術として注目したいのは「インテリジェント・アクセルペダル」。これはモーターだけで走っているとき、エンジンが始動するポイントを足で感じることができるものだ。ペダルを踏み込む重さが変化するポイントがある。「これ以上踏むとエンジンが始動する」ということが直感的に分かるのはうれしい。走りに影響する走行モードは「エコ/コンフォート/スポーツ/スポーツ+」の4つが選べる。通常はコンフォートモードで十分だが、「スポーツ+」ではホットなドライブも楽しめた。走行中に一定の速度で走っているとコースティングと呼ばれる機能が作動しエンジンはストップする。そして再びエンジンが始動する時、車速に見合ったエンジン回転数にピシャリと同期できた。制御がとても素晴らしいと思った。

次世代のパワートレーン、F-CELLの誕生

メルセデス・ベンツは2011年、カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーがガソリン自動車を考案してから125周年を迎えたことを記念した大イベントを企画し、Bクラスを使った燃料電池車、F‑CELLで世界一周を実施した。エネルギーやCO2問題を考えるとガソリン車のように長距離を快適に走れる燃料電池車こそ次世代に相応しいと考えている。

2011年1月29日にスタートしたこのビッグイベントは、3台のBクラス F-CELLが世界4大陸・14か国を走破し、出発地点のドイツ・シュツットガルトに戻るという、総走行距離3万kmを125日かけて走破するものだった。ドライバー陣も豪華で、F1ドライバーや著名なジャーナリストが参加していた。残念ながら水素タンクの規格の違いから、日本はルートから外されたが、東日本大震災で被災した日本に元気を出してもらおうと、栄光の最終区間の1台が日本チームに宛がわれたのである。そして私は急きょハンブルクに飛び、北欧からドイツに戻って来たF‑CELLの最終区間を走った。
ダイムラーが水素燃料電池車にこだわる理由は明確で、バッテリーEVにはできないハイスピードと航続距離と充塡(EVの場合は充電)時間の短さだ。スピードを大切にするドイツにとって、バッテリーEVでは乗り越えられない壁がある。そこは水素に電気をためて、エンジンの代わりに、スタックという発電器を搭載して走る燃料電池車が有利なのだ。

GLC F-CELL

2017年のフランクフルト・モーターショーでワールドデビューした量産ベースの燃料電池車は正しくは「GLC F‑CELL EQ Power」と呼ばれており、メルセデスに仲間入りした新しいEVシリーズ「EQ Pow-er」の一つのモデルである。発表資料では正式な量産モデルではなく、法人リース方式を採用するとのことだが、プラットフォームはC 350 eのPHEVをベースに開発されている。

つまり、水素ステーションがない場所ではバッテリーで走れるように、プラグインハイブリッドとして水素燃料電池車を開発したのである。エンジンの代わりに、スタックと呼ばれる発電器を搭載し、フロア下には水素の高圧タンクが格納されている。今のところ、航続距離は500km以上とされているが、水素の充塡時間は3分以内と短い。

1960年代から始まったアポロ計画のコア技術の一つであった水素燃料電池の技術が半世紀の時間を経てクルマに使われようとしている。この壮大なチャレンジがいよいよ実を結ぶ時が来たのである。宇宙が出来たときの最初の元素が水素であること、水素は水の素(もと)であることを考えただけで、とても感動的な気持ちになれるのだ。

 

モータージャーナリスト 清水和夫

清水和夫

1954年生まれ東京出身。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして、多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとしても多数出演。国際産業論に精通する一方、スポーツカー等のインストラクター業もこなす異色な活動を行っている。

Mercedes-Benz EQ Power


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