AJICO再始動。そのきっかけはカナダの離島に移り住んで3年目を迎え、インフラの整備や母屋のリノベーションが落ち着きはじめた2018年、UAさんの何気ない日常からもたらされたという。

※画像は一部日本仕様とは異なります。
「カナダに移住する前は沖縄に3年半住んでいて、東京のことをまったく見ないような環境で過ごしていたんです。でも、カナダまで離れてしまうとかえって日本のことがおもしろく思えてきて。自分のキャリアがない場所で、要するに“UA”ではない状態で暮らしていると余計に、UAである自分を意識しはじめるといいますか。2020年にはデビュー25周年を迎えることを周りから言われるようになって、どう自分をアプローチしていこうかなと、なんとなくイメージがそこに向かいはじめていた時期でもありました。
きっと、ずっと東京で暮らしていたら、自分の表現というものをどんどんマニアックに掘り下げていったかもしれない。でも、長らく東京を離れることで、まったくの手放しになれたんです。“ポップ”であることのレアさというか、ポップってこと自体はレアではなく真逆なんですけれど、そこにあえてトライすることの面白味というのはすごいことなんだなと、月並みながら実感する出来事もあったりして。
たとえばラジオのチャンネルを捻ると、カナダのローカル曲とかまったく聴き馴れないものがあるなか、いわゆる名曲が流れたときに、なんだかこう体の細胞が、全身が喜んで反応しちゃう感覚を暮らしているなかで何度か味わって。そんなことを思いながら、日本の新しい人たち、気になる人たちを研究の一環のように聴きはじめていたら、YouTubeでどんどんリンクしていっちゃって。家事をしながら聴いていたら、なんかすごくいい感じの曲がはじまって、また自分にとっての名曲が流れてきたのかな?くらいに思っていたら……『いやいや違う、これはあれだあれ!』って、21年前のアルバム『深緑』だったんです(笑)。
それで自分のなかでAJICOリバイバルが起きて、アルバムをそのままじっくり最後まで聴いちゃって。もう何回も涙が出たし、自分が歌っている言葉に自分が諭されたり、洗われるような気持ちになったりして。AJICOも私にとっては“ポップ”だったんだということに気がついたとき、やるなら今かなと思ったんです」

彼女の言う“ポップ”とは、常緑、不朽を意味する“エバーグリーン”なもの。音楽的に言い換えるなら“時を経ても色褪せない名曲”といったニュアンスがしっくりくる。
UAさんをポップへと突き動かしたのは紛れもなく21年前のアルバム『深緑』との再会だったが、決して過去の焼き直しをするために再始動したわけではないと彼女は話す。
「最初のAJICOは、もう本当に“衝動”でやっていた。でも今回はAJICOをただ剥き出しに、衝動的な状態で見せていいとは思わなかったんです。そして、最初のものを超えるとかそういうところとも次元が違って、あれはあれで絶対に超えられないですし。だからって『じゃあ、懐かしい曲やります』ってリピートして、ノスタルジックな、いいね、懐かしいね、ってなるのは絶対に私のなかでは違っていて。今回は本当にコンセプチュアルにはじめたということが、21年前とは決定的に違うかな」

“今”にフォーカスできること、
それ自体がプログレッシブ
ファーム暮らしのカナダでは、車に子どもたちや犬2匹を乗せて、毎日の生活に欠かせない存在としてクルマと向き合っている。
「東京にいたときはものすごくこだわっていたんですよ、クルマに」とも語るUAさんの目に、セダンに美しいクーペデザインを採用したクルマの先駆けである、この「CLS」のニューモデルはどのように映ったのだろうか。
「セクシーですよね。メルセデスは常に、なんていうのかな……安定したイメージというよりは、常に革新的だというイメージがありますね。プログレッシブな印象というか」
自動車というものを初めて世に誕生させてから時代に応じた革新を繰り返し、この新型「CLS」に象徴される、今まさに求められるクルマを生み出しつづけているメルセデス・ベンツ。変わらずに残りつづけるために、変化しつづける。そんなアティテュードは、決して過去にほだされることなく、自分たちの“今”を表現し、進化しようとするAJICO、そしてUAさんの姿とも重なる。

「やっぱり“今”しかないじゃないですか。もちろん人間は過去を覚えていて、未来を想像することもできる。でも私たちは“今”しか生きられないとなったときに、こんなキャリアがあるだとか、こんなゴールが待っているとか、そんな過去や未来じゃない“今”っていうところにちゃんとフォーカスできていること自体がプログレッシブであるっていうことかな。
安定するのが悪いということではないですけれど、自分で表現者という道を選んだからには、安定することにはあまり興味がないんです。それこそ“ローリング・ストーン”。ずっと転がりつづけて、もちろん石はそのうち丸くなっていくんですけど。
だから、AJICOの音も21年前より丸くなったとも思ってはいるんですよ。ただ、プログレッシブであるからといって、アンダーグラウンドになったり、アヴァンギャルドになったりするだけではつまらないというか。もちろん、そうあってもいいんですよ。若いときはそうやってどんどん実験していったり。でも、プログレッシブであって、かつセンターにいるっていうことのカッコよさには、やっぱり脱帽するっていうか。
要するに、もうキャリアとか年齢とかは関係ないってことですね。“今”においては完全に横並びというか。そのマインドがあれば、ずっと楽しくクリエイションしていけますよね」
“今”を感じることの大切さ。「そんなことばっかり普段から考えてるんで(笑)。息子とも昨日ずっとそんな話をしていて」と、うそぶく。
「丸くなることは決して悪いことではないんです。無駄が削ぎ落とされているわけですから。メルセデスはずっとそんなデザインを追求されているわけですよね? だからこの『CLS』もなんか丸くなってきたのかな」
真反対のもののどちらにも、
大股開きで立っていたい
スタジオ内のすぐ近くでは、浅井健一さんが「CLS」とフォトセッションに臨んでいる。ここで、約20年ぶりに活動をともにした浅井さんへの感想を訊いてみた。
「これは本当に、さっき言った“安定”とは違う意味で、めちゃめちゃ安定しているんですよ。で、健康的。コーラを飲んでいるとかは置いておいて(笑)、“選択”ではなく、その“存在”自体がすごく健全というか。この情報の渦のなか、いま情報のトルネードみたいな状態でしょ? それでもブレないんだなぁ、っていう。
最初はお互い、やっぱりちょっと遠慮しているような感じはあったんですけど、私もはっきりとやりたいことがあったし、どんどんアプローチしていったらすぐに理解してくれて。本当に自由にやらせてくれたので、そういう意味ではすごく懐が深いって思いました。
まぁ、最初のときも大体させてはくれたんですけどね。でも、今回いろいろしゃべっているなかで、『本当はUAのことをすべてコントロールしたかった』って、何回も何回も言われて。『いや、無理でしょ……』って、みんな心のなかで思ってるんだけど、言いつづけるっていう(笑)」

最後に、表現者としてはもちろん、現在3人の子どもを育てる母親として、自分があるべき姿を、こんなふうに話してくれた。
「一番下の子がまだ5歳なので、長いなぁっていう、ずっとおかんやってるなって感じなんですけど(笑)。虹郎を育てていたときは本当に音楽活動に夢中で、だからこそ25年つづいているわけなんだけれども、やっぱり今だから思う、母親としての視点ってまた変わってきていて、後悔がないはずがないんですよ。だから、虹郎といっしょに生きてきた年月のなかからものすごく学びがあって、こうあるべきだよなって指針があってやっているんですが、それでもやっぱり私も“表現者”であることの欲望なのか、エゴなのか……自分でもちょっと怖いですけど。
でも、やっぱりステージで知ってしまった世界っていうのをやめられないんですよね。両立というのを言葉にするのは簡単。実際はものすごく難しいけれど、そんな環境にあっても大股開きで立っていたいっていうか。それは音楽におけるアンダーグラウンドな部分とメジャーな部分であったりとか、いわゆる二元論で言うと真反対みたいなもののどちらにもドンと足をぶち込んでいたい。
UAであって、ママであるだったり、カナダで暮らしながら日本に行くということだったり。とりあえず今はそれらをいかにバランスをもってやっていけるか。でも、ゴールはないんですよね、特に」
PROFILE
UA
1972年生まれ、大阪府出身。1995年にデビューし、存在感のある歌声で注目を集める。『情熱』『悲しみジョニー』『ミルクティー』などのヒット曲をもち、2003年にNHK Eテレで放送された『ドレミノテレビ』では、うたのお姉さんとしてレギュラー出演し、翌年に童謡・愛唱歌集『うたううあ』をリリース。これまでにライブ、フェスなどに多数出演し、ボーカリストとしてさまざまなアーティストの楽曲にも参加している。また映画出演をはじめ、現在はα-STATION(FM京都)の番組「FLAG RADIO」でDJを務め、朝日新聞デジタル「&w」で野村友里さんとの往復書簡「暮らしの音」を連載するなど、その活動は多岐にわたる。2005年より都会を離れ、田舎で農的暮らしを実践中。現在はカナダに居住。
ABOUT CAR
The new CLS
立体形状のスリーポインテッドスターを無数にあしらったスターパターングリルを新たにまとい、躍動的なプロポーションをクリアな面で包んだ、4ドアでありながらきれいなシルエットのクーペフォルム。上質なマテリアルと精緻なディテール、運転に集中できる優しい操作性がひとつになったインテリアが、華やかな高揚と絶大な心地よさで乗る人を包む。新型CLSは、すべての人の心を奪う美しさとともに、あなたらしさを解き放つ。