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圧倒的な強さの向こう側へ。メルセデスAMGペトロナスの「チーム力」

words: Kunihiko Akai

F1を中心に取材するジャーナリストの赤井邦彦氏が、メルセデスF1チームの強さを支える力を分析。そこには、チームを支える多くの人々の結束と献身があった。

F1グランプリがつまらない? なぜ? メルセデスAMGペトロナスが強すぎるから? 実はそういう声は頻繁に聞く。しかし、F1グランプリに参戦するチームもドライバーも、誰もが勝利のために戦う。その厳しい世界でメルセデスが勝ち続ける理由は? もしそこに秘密があるとすれば、それはチームを内側からあるいは外側から支える多くの人の力だ。

去る12月2日に行われた2019年F1世界選手権最終戦アブダビGP。予選でポールポジションを獲得し、決勝レースで一度も首位の座を明け渡さず勝利したメルセデスAMGペトロナスのルイス・ハミルトンは、フィニッシュ直後にコース上で行われたインタビュアーに、疲れも見せず淡々と次のように語った。

圧倒的な強さの向こう側へ。メルセデスAMGペトロナスの「チーム力」

「最高のシーズンを締めくくることができた。チーム全員の弛まないハードワークと献身に感謝したい。我々は全員で高みを目指してきた。信じられないような大きな支援にはただただ感謝している。今年は我々が最も大きな成長を遂げた年で、来年に向けて新しい挑戦を開始するには最高の準備が出来たといえる。2020年は今年以上に激戦の年になると思うが、ライバルに負けてはいられない。絶対に負けないと信じている。2019年が最高の状態で終わったいま、新鮮な気持ちで来年のレースに挑戦出来ることを多いに期待している」

インタビュアーの差し出すマイクによどみなく応えるハミルトンの言葉を聞いていると、彼が答える内容に反して、F1レースというものはいとも容易く勝利が手に入るものかとさえ思える。彼の言葉には激戦だ、努力だ、挑戦だという単語が並ぶが、それらの言葉が実感を伴って伝わって来ない。ルイス・ハミルトンは超人なのだろうか?

しかし、彼がじっくり語る言葉を聞けば、F1グランプリの厳しさがヒシヒシと伝わって来るはずだ。そして、その厳しい世界で彼がいかなるアプローチでレースに臨んでいるか、その結果が彼に何をもたらしているかが分かってくる。生きていくのに簡単な世界はない。どんな世界でも困難がつきまとうが、その困難にいかに対峙するかで人生は変わる。もう少しハミルトンの言葉に耳を傾けてみよう。

圧倒的な強さの向こう側へ。メルセデスAMGペトロナスの「チーム力」

「1年を通して戦い続けることは、チームのスタッフ全員に取って精神的、肉体的に非常に厳しい。ドライバーにとれば精神的な強さが鍵になる。ドライバーは自分でミスを犯すと立ち直れないほど傷つく。チームが犯したミスでも痛みはあるが、自分で犯したミスは最悪だ。心が折れてしまう。そこから立ち直って次のレースに向かわなければいけない。そのためにドライバーは精神的に強靱でなくてはならない」

「しかし、立ち直ってからより高いポジションを狙えるというのはドライバーひとりの力では無理だ。僕は大勢の人々に支えられてレースを戦っているが、彼らが最高の力を発揮して僕を支えてくれることを望んでいる。つまり、僕の仕事は彼ら全員から最高の力を引き出すことだ。そのためには話し合い、お互いを理解し合い、繋がり、不調の週末にはみんなの気持ちを鼓舞する。 そのことを常に胸に秘め、強いチームを作りあげる。今年の成功の鍵はそれが出来たことだと思う」

「もしも適材適所のスタッフがいなければ、僕は持っている力を発揮することはできない。もし彼らがへまをしたり正しいことが出来なければ、僕がどんな力を持っていようがクルマの性能を100%引き出すことは不可能だ。だから僕には彼らが正しく働いてくれることが必要なんだ」

「僕には大勢の優秀な仲間がいて、彼らが正しい働きをしてくれるからタイトルを獲得出来ている。一度タイトルを獲ると次の年は簡単なように見えるかもしれないけれど、そんなことは決してない。とにかく、毎年シーズンが終わると次の年に向けて越えるべき目標を少しでも高く上げるには何が必要か話をする。僕は僕の仲間達に変えるべきことを伝え、向上するために分析する。僕の言うことをノートに書き記してもらう」

圧倒的な強さの向こう側へ。メルセデスAMGペトロナスの「チーム力」

少し長くなったが、このハミルトンの言葉の中に、メルセデスAMGペトロナスの強さが隠されていることに気づくだろう。いかに天才ドライバーであってもひとりではレースに勝つことは出来ない。ハミルトンは自分の力を100%引き出すために、メルセデスAMGペトロナスのスタッフが何をしてくれるか、また逆に彼がスタッフのために何が出来るか、常に問いかけながら戦っている。ハミルトンのスタッフへの注文は厳しい。ただ、厳しい注文を出す裏にあるのは彼自身がストイックにレースに取り組み、向上の歩みを止めない姿勢である。勝ち続けることでそれを実証するのだが、ハミルトン本人はそれを猛烈な努力の賜だと自覚している。自ら努力する者は、他人にも努力を要求する。

そして、ハミルトンが勝利し続ける理由として挙げるもうひとつの理由は、素晴らしいメルセデスAMGペトロナスのチーム運営だ。2010年にF1グランプリへのワークスチームとしての参戦を再開したメルセデス。2013年にトト・ウォルフがチームに加入、翌2014年からチームは6年にわたってコンストラクターズ・タイトルを獲得し続けてきた。ウォルフの卓抜したマネージメント能力は、彼がF1の世界に来る前から投資家として存分に発揮されていた。ハミルトンはウォルフのことを、「僕がこれまでに会ったビジネス・マネージャーの中でベスト」と言い切る。そのウォルフは、メルセデスの成功の秘訣は恒常的懐疑心にあると言う。何事に対しても常に疑う気持ちを持ち、絶え間なく最高を追求するドライバーを支える。その結果が今年のハミルトンの6回目のドライバーズ・タイトル獲得(うち5回はメルセデスAMGペトロナスで)を可能にし、チームに6年連続コンストラクターズ・タイトル獲得の栄誉をもたらした。ウォルフはハミルトンをこう評価する。

圧倒的な強さの向こう側へ。メルセデスAMGペトロナスの「チーム力」

「メルセデスの6年連続タイトル獲得は、ルイスの力がなければ不可能だった。彼は何事に関しても追求の手を止めず、自らに非常に厳しい。私はチームのミーティングで『僕のデータを信用しないで。僕の運転はまだ完璧じゃない』と言ったドライバーに初めて出会った。今日より明日という気持ち、信じられないほど正直、失敗を繰り返さないための透明性、それらすべてがルイスという人物で、その気持ちがチーム全体に浸透している」

卓越した技術力、速いクルマ、優れたスタッフ、潤沢な資金、これらはいずれもF1グランプリで成功を収めるために必要な要素だが、ウォルフが最も大切にしているのがスタッフである。彼はスタッフにメディテーションを経験させるなど、精神的な強靱さをつけるためのプログラムさえ行っている。今では全スタッフ1000人以上が体験するが、最初に参加した20人あまりのエンジニアにとれば、奇妙な体験だったはずだ。しかし、誰ひとり落後せず7コースにも及ぶメディテーション・プログラムを終えた。

「目標を設定して挑むことで組織の中で高いモチベーションを維持できる。その目標は正しいものでなければならないが、ひとたびそれが設定できると、モチベーションは上がり、力が湧いてくる。目標は毎年同じ、つまりワールド・チャンピオンを獲得するということ。しかし、アプローチは毎年異なり、それがチームに新しいやる気を起こさせる。2014年に初めてタイトルを取った時には世界最高峰の山に登頂した嬉しさがあったが、翌年からはその力を信じて挑戦を繰り返してきた。我々にはそれだけの力があるのだと、チーム・スタッフ全員が信じている」

圧倒的な強さの向こう側へ。メルセデスAMGペトロナスの「チーム力」

メルセデスAMGペトロナスの強さの秘密が分かっただろうか? チームを牽引するトト・ウォルフとドライバーのルイス・ハミルトンの2人にフォーカスを当ててきたが、それはメルセデスのF1グランプリにおける成功の中枢にあるふたつの欠かせない要素だからだ。メルセデスAMGペトロナスの成功がそこで働くスタッフやドライバーであるというなら、もちろん2人以外にも語るべき人は多くいる。ハミルトンのチームメイト、バルテリ・ボッタスを忘れているわけではない。彼は2017年にチームのメンバーになってから、3年間で7勝を挙げ、メルセデスのコンストラクターズ・タイトル獲得に大きく貢献している。彼の貢献は高く評価されており、決して記録に埋もれるものではない。そしてエンジニア、メカニック、デザイナー、スポンサー、アドバイザー、オフィスのスタッフ、ケータリングのスタッフ、トラックドライバー、広報、ドクター・・・その他数えられないほどのスタッフが一丸となり、他の追随を許さない強さを生み出しているのだ。

圧倒的な強さの向こう側へ。メルセデスAMGペトロナスの「チーム力」

1930年代からグランプリに参戦し、苦節の時期も含めてモータースポーツ活動を続けるメルセデス。2010年に現在のFIA F1世界選手権に復帰して10年。その間、F1で史上初となる6年連続でのダブル・タイトルを獲得し、今後さらなる領域へ歩みを進め、より素晴らしいF1の未来を築いていくだろう。

F1史上初、6年連続ダブルタイトル獲得!
2019年F1を統括

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