「世界の自動車の指標」と評されてきたメルセデスのフラッグシップモデル、Sクラスが8年ぶりにフルモデルチェンジ、1月28日、待望の日本市場での発売が発表された。
メルセデスが提案する新たなラグジュアリーとは? 新型Sクラスが実現したパーソナルな空間とは? 国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏が国内発売に先駆けて一足早く新型Sクラスに試乗、その先進性についてリポートする。
1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、テレビ番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとしても活躍。2013年、内閣府戦略的イノベーションプログラムSIP構成委員など自動運転や安全技術の政府委員を歴任。日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本科学技術ジャーナリスト会議会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
生体認証によってドライバーを認識し、瞬時にロックを解除するとともに、
パーソナルプロファイルを呼び出し、ステアリングやシートを適切な位置に合わせてくれる
8年ぶりにフルモデルチェンジを果たした新型Sクラス。ハイライトの1つがデジタル面の進化だ。運転席に座ると、眼前には12.3インチの3Dコックピットディスプレイが、インパネ中央には大型のタブレットを思わせる12.8インチ有機ELメディアディスプレイが配されている。
ナビゲーションはAR(拡張現実)技術を搭載し、フロントカメラで捉えた現実の映像の上に、自車が進むべき方向を矢印で表示するなど直感的な判断を可能にする。「ハイ、メルセデス」でおなじみの対話型インフォテインメントシステム「MBUX(Mercedes Benz User Experience)」は最新世代となり、後席からの操作も可能になった。
7人まで登録可能なユーザープロファイルは指紋、顔、声のいずれかによる生体認証、もしくはPINコードによってロックを解除することができる。長距離ドライブに出かけると、車内の快適空間を実現する「エナジャイジングパッケージ」が、シートによるリラクゼーション機能、車内の香りを演出するパフュームアトマイザー、空調、照明、音楽などをトータルでコントロールして最適なプログラムを提案し、疲れた体を癒やしてくれる。
清水氏は事前に顔認証による登録を済ませて、一度、車外へ出てから再び運転席に腰かけた。車両はスマートフォンさながら瞬時にロックを解除し、プリセットしたシートの位置やナビの登録情報を呼び出す。

新型Sクラスに搭載されたMBUXは第2世代となる。生体認証(指紋/顔/声のいずれか)もしくはPINコードによってドライバーを認識してロックを解除。7人分のパーソナルプロファイルを登録できる

対話型インフォテインメントシステム「MBUX」に統合されたエナジャイジングパッケージは、車内の空調、音楽、エアバランスパッケージ、アンビエントライトやシートヒーターなどの機能を統合的にコントロールすることで快適な空間を生み出す
「Aクラスから導入が始まったMBUXですが、新型Sクラスに搭載された第2世代は、ハイパフォーマンスなハードウエアによって自然で快適な操作性を実現しています。さらに、手の動きなどのジェスチャーによって操作できる『タッチフリー』に対応するなど、大きな進化を遂げています」と清水氏は語る。
「メルセデスの自動運転開発を担当する社会学者、アレキサンダー・マンカウスキー氏にインタビューした際、『AIをどのように使うのかが肝要であり、人が共感できるものでなければならない』と何度も語っていたのが印象に残っています。メルセデスはDX(デジタルトランスフォーメーション)を使って、人間中心のモノづくりをしているわけです」
一方で、インターネットとつながることは危険性もはらんでいると清水氏は説明する。
「例えばスマートフォンとリンクしたクルマからは個人情報がハッキングされる可能性だってあります。利便性を高めるというだけでなく、サイバーセキュリティーの重要性も理解したうえで、いち早く新型Sクラスに生体認証を取り入れたというわけです」
「進化したADAS(先進運転支援システム)も含めて、メルセデスはいまデジタルを使ってやろうとしていることを『Cares for what matters.』と表現しています。これは、乗員だけでなく周りの大切なものを、快適性を向上するとともに革新的な安全技術によって守るという意味です。日本人のメンタリティーにも、しっかりと寄り添ってくれるものだと感じています」


新型Sクラスに搭載される直列6気筒エンジンは、まるでモーターのようにスムーズに吹き上がる。ボディーのおよそ6割にアルミニウム素材を使用し、ボディーシェルは先代比で約30kgもの軽量化を達成。ボディーパネルは空力性能を追求し、シームレスドアハンドルを採用したことなどにより、Cd値(空気抵抗係数)0.22*と歴代最高レベルのボディー剛性と空力性能を実現している。
*欧州参考値
ノイズ軽減ガラスの採用により、静粛性にも一段と磨きがかかっている。エアスプリングと電子制御ダンパーを組み合わせたAIRMATICサスペンションがもたらす、路面をトレースするような滑らかな乗り味は新型Sクラスならではの格別なものだ。
「やっぱりSクラスだよな」
わずか数メートル走っただけで、そのすべてを感じとったかのように清水氏はつぶやいた。
試乗車は3リッター直列6気筒ガソリンエンジン+ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を搭載し、4輪を駆動する「S 500 4MATIC」だった。
コンパクトな直列6気筒ターボエンジンとISG、48V電気システムおよび電動スーパーチャージャーなどを組み合わせることで効率性、快適性、高性能化を同時に実現している。

高強度・軽量のハイブリッドボディーシェルがノイズや振動を抑え、静かな走りを実現。
路面状況、運転状況、乗車人数などに応じて最適な乗り心地を確保するAIRMATICサスペンションを標準装備する
「メルセデスがすごいのはISGによって、それまで難しかった、直6エンジンのコンパクト化を実現して、発進時はモーターでアシスト、低回転域は電動スーパーチャージャーで、のちに排圧でターボチャージャーのタービンをまわしているため、加速に全くラグタイムがないこと。しかも完全バランスともいわれる直6エンジンだから、回転のなめらかさはモーターと比べても遜色ないものです」
清水氏は最近BEV(バッテリーEV)だけを重視する報道などもあるが、内燃エンジンにはまだまだ可能性があると指摘する。
「各社から相次いでBEVの新型車が登場していることもあって、脱炭素というとすぐにBEVに、なんていう話を耳にしますが、それだけが脱炭素社会に向けての解決策だと決まったわけではありません」
清水氏はさらに続ける。
「すでにF1では再生可能エネルギーを使った合成燃料でレースを行うという話が出てきています。エンジン技術が終わるというわけではありません。ガソリンや軽油などCO2を排出する石油由来の燃料はなくなるとしても、それが他のものに置き換わっていくということです。内燃エンジンはなくならないし、いまのガソリンやディーゼルエンジンの技術はこれからも生かされていく。でなければ、いまの時代に、メルセデスが大きな投資をして、これほどのエンジンをつくるわけがないと思います」
新たに開発した高強度・軽量のハイブリッドボディーシェル、直列6気筒+ISGを採用したことによる、静粛性に優れた質感の高い走り。新型Sクラスは、これまでにないドライビングを体験させてくれるに違いない。

前輪だけで進行方向を決める操舵を行うのではなく、状況に応じて後輪も操舵することで走行安定性と取り回しを向上させる「リア・アクスルステアリング」を備える
ドアパネルに格納されるシームレスドアハンドルを初採用。サイドビューの美しさを際立たせるとともに、Cd値0.22*という歴代最高レベルの空力性能を実現
*欧州参考値
- 全長×全幅×全高:5180×1920×1505mm
- ホイールベース:3105mm
- 乗車定員:5名
- エンジン種類:DOHC 直列6気筒+ISG
- 総排気量:2996cc
- 最高出力:320kW(435PS)/6,100rpm
- 最大トルク:520Nm(53.0kgm)/1,800〜5,800rpm
- 使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
- 燃料消費率(国土交通省審査値):11.2km/リットル(WLTCモード)
- メーカー希望小売車両本体価格:1375万円


導入時に用意される新型Sクラスのエンジンは、前述の3リッター直列6気筒ガソリンターボエンジン+ISGの「S 500」と、3リッター直列6気筒ディーゼル「S 400 d」の2種類。いずれも9速オートマチックを組み合わせ、全モデルが4MATIC(4WD)となる。
ボディータイプは全長5180mm、ホイールベース3105mmのノーマルと、全長5290mm、ホイールベース3215mmのロングの2種類の設定。すべてのモデルに左右ステアリングが用意されている。
ボディーサイズは拡大しながらも、取り回し性能は悪化していない。これは最大4.5度まで逆位相(=前輪と後輪がそれぞれ反対の方向を向く)で操舵するリア・アクスルステアリングの採用によるもの。低速域では小回りが利き、高速域ではレーンチェンジなど走行安定性が向上している。


フロントまわりでは、DIGITALライトを標準装備。プロジェクションマッピングが可能(※一部の国のみ)なほどの高精細なライティングテクノロジーだ。
エクステリアデザインは標準ラインとAMGラインの2種類を用意。サイドパネルのフロントからリアにかけて描かれた1本の「キャットウォークライン」と曲線を描く彫刻的な面で構成されたデザイン、シームレスドアハンドルなどが、Sクラスならではの存在感や高級感を演出する。
フロントカメラが捉えた実際の映像に、ナビゲーション情報を重ねて表示するARナビゲーションを採用。これによりドライバーは迷うことなく目的地に向かうことができる。
オプションでARナビゲーションをフロントガラスに投影するARヘッドアップディスプレイも設定。ディスプレイ表示は、目の前ではなく、約10m先のあたりに見えるようになる。ARナビや(車間距離を適切にキープする)ディストロニックを使用する際の前方車両の把握など、現実世界に即した直感的な判断が可能になる。
安全装備は最新世代のレーダーセーフティパッケージを全車に標準装備。アクティブブレーキアシスト(歩行者/飛び出し検知機能付)には右直事故(交差点での右折車と直進車の衝突事故)を抑止する機能が追加されたほか、(安全な車線変更をサポートする)アクティブブラインドスポットアシストには、車両からの降車時に、後方から接近するクルマに気づかずにドアを開けようとすると、音とアンビエントライトの点滅で危険を知らせる降車時警告機能が追加されるなどのアップデートが施されている。
新型Sクラスはさまざまなデジタル技術を使ってメルセデスの新機軸を打ち出し、これからの時代のラグジュアリーを再定義するモデルに仕上がっている。

片側約130万画素のプロジェクションモジュールを瞬時に制御することで視界を確保する高解像度DIGITALライトを採用

フルLEDタイプのリアコンビネーションランプは、クリスタルクリアピンデザインが3D効果を生み出し、優れた被視認性を確保する

全モデルにシートヒーターやメモリー機能を備える電動パワーシートを装備。本革もしくはナッパレザーが上質な座り心地を実現する

先代のSクラスと比較して膝回りにゆとりが生まれ、居住性が一段と向上した後席。立体的なシートデザインが快適な空間を生み出す
-
1293万円
-
1375万円
-
1678万円
-
1724万円
-
1938万円
-
2040万円
※日経電子版広告特集『メルセデスのフラッグシップ 新型Sクラスを清水和夫氏が試乗』(2021年1月29日~2月28日)に掲載されたものです。