決して“消化試合”ではない——。
2戦を残して、ドライバーズタイトルとコンストラクターズタイトルが決まった2017年F1世界選手権にあって、内なる闘志を燃やすドライバーがいる。メルセデスAMGペトロナスのバルテリ・ボッタスである。ボッタスは言う。
「ドライバーズランキングで2位に入ることが今の僕の大きなモチベーションなんだ」
残り2戦の時点でボッタスが262ポイントで 3位。2位セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が277ポイントなので、逆転は充分に可能なのだ。
それでは、11月10日(金)よりF1第19戦ブラジルGPが行われたインテルラゴス・サーキットを紹介しよう。
サンパウロの郊外に位置するこのサーキットでは、1973年に初めてのグランプリレースが開催された。以来、リオデジャネイロでブラジルGPが開催された時期もあるものの、1990年以降はインテルラゴス・サーキットがブラジルGPの舞台となっている。
インテルラゴスとは「湖と湖の間」という意味で、2つの人造湖の間に位置する。かつては高速区間が長く、路面コンディションも悪かったことから危険なコースのひとつと見なされていたものの、1990年のリニューアルを受け、現代的なサーキットに姿を変えた。
レイアウトの特徴は、まず珍しい反時計回りのコースであること。また、アップ&ダウンが激しく、道幅の狭い低速コーナー、高速コーナーが組み合わされている。また、標高800mの高地にあるため、空気の薄さが空力性能とエンジンやブレーキの冷却性能に影響する。そのため、マシンのセッティングが難しく、ドライバーには繊細なコントロールが要求される。

金曜日のフリー走行から、メルセデスAMGペトロナス勢は好調さをアピールした。ルイス・ハミルトンはインテルラゴス・サーキットのコースレコードを更新して最速ラップを記録。2位にはバルテリ・ボッタスが続いた。同日の2回目のフリー走行でもメルセデスAMGペトロナス勢がワン・ツーを維持。
そして土曜日に行われた3回目のフリー走行ではボッタスがトップタイムを記録。年間ランキングの逆転2位獲得に向けて速さを見せつけた。ただし、ドライバーズランキング2位のベッテル(フェラーリ)とのタイム差はわずかで、予選、決勝の行方が注目された。
土曜日の午後に行われた予選では、好調だったメルセデスAMGに信じられないアクシデントが起こった。予選Q1でハミルトンのマシンが姿勢を崩してコースアウト、その場で予選を終えたのだ。
ハミルトンの予選結果は「ノータイム」となり、規定でピットレーンか20番手からのスタートとなる。ハミルトンはこのアクシデントについて、こう述べた。
「あっという間の出来事だったので、何が起きたのか自分でもまだ把握できていない。人間だから失敗もある。でも、すべてが自分の責任だし、試練は乗り越えなければならない。以前にも後方からスタートしていいレースをしたことがある。明日は、この状況を楽しむつもりだ」

一方、予選で素晴らしい走りを披露したのがボッタス。予選Q3の最後のアタックで、トップに立っていたベッテル(フェラーリ)のタイムを逆転。0.038秒差でポールポジションを獲得した。
ボッタスは、予選を冷静に振り返る。
「Q3でタイムを更新しなければポールポジションが獲れないことはわかっていた。だから攻めの走りをしたけれど、最終的にラップがまとまってよかったと思う。ルイス(・ハミルトン)は不運としか言いようがないけれど、チームに好結果をもたらせるかどうかは僕にかかっていたので、その責任を果たすことができてほっとしている」
こうしてポールポジションと最後尾からメルセデスAMGペトロナスがスタートすることになった決勝は、11月12日(日)の午後2時、好天の下で始まった。気温が27度、路面温度は60度にまで上昇した中、71周先のゴールを目指す。
スタートを制したのはベッテル(フェラーリ)。ポールポジションのボッタスのスタートも悪くなかったものの、ターン1でインを突かれた。そして、さらにそのオープニングラップからセーフティーカーが出動する波乱の展開で始まった。2コーナーを抜けた所でストフェル・バンドーン(マクラーレン)がケビン・マグヌッセン(ハース)とダニエル・リカルド(レッドブル)に挟まれ、3台が絡む接触事故が発生。続けて7コーナー、エステバン・オコン(フォース・インディア)がロマン・グロージャン(ハース)のスピンに巻き込まれリタイアとなり、コース上のデブリ回収のためにセーフティーカーが出動した。しかし、このセーフティーカーは、ピットレーンスタートのハミルトンに大きなアドバンテージを与えることとなったのだ。
その後しばらくは、1位ベッテル、 2位ボッタスでレースが推移する。ふたりの間隔は1.5秒〜2.0秒。
驚異の走りを見せたのが最後尾スタートのハミルトン。なんと、14周目には早くも7位にまで順位を上げた。さらにハミルトンはファステストラップを連発しながら21周目には5位に浮上、4位のマシンとの差も10秒に迫った。

タイヤ交換のピットインをはさみながら、上位陣の順位は変わらなかったが、59周目についにハミルトンが4位に浮上。メルセデスAMG ペトロナスの2台とフェラーリの2台が1位から4位を占めた。
年間ランキング2位獲得のために、どうしてもトップのベッテル(フェラーリ)に追いつきたいボッタスだったが、両者のペースは互角でなかなかオーバーテイクのチャンスは巡ってこなかった。
ハミルトンは最終ラップまで3位のキミ・ライコネン(フェラーリ)と表彰台をかけたバトルを展開するものの、レースはこのままの順位でチェッカー。2位のボッタスはレース後に「スタートがすべてだった」とこの日のレースを総括した。
「スタートの第1コーナーでレースは決まってしまった。スタートで少しホイールスピンをさせてしまい、結果的にベッテルに先行されてしまった。我々とフェラーリの戦略は非常に似通っていて、しかもペースもほぼ同等だったからオーバーテイクには至らなかった。最後も攻めたけれど、タイヤが残っていなくてペースが上がらなかったんだ。昨日の予選でポールを獲れたのですごく期待して挑んだけれど、まぁ、ポジティブに見ればそれほど悪い結果ではなかったと思うよ」

一方のルイス・ハミルトンは、レースを大いに楽しんだようだ。
「レースをすごく楽しんだよ。昨日の予選にはがっかりしたけれど、昨日のことは昨日のこと。今日はポジティブな気持ちで走って、まるでデビューして1年か2年目のような楽しさが戻ってきた。タイヤが残っていなくて3位にはあがれなかったけれど、バトルを心から楽しんだし、レースを戦う情熱の炎が燃え盛っていることや、これからもまだまだたくさんのレースを戦えることを証明できたと思う」
ブラジルGPの結果を受けて、バルテリ・ボッタスのドライバーズポイントは280に対して、2位のベッテル(フェラーリ)が302ポイントと離された。けれども、優勝ドライバーには25ポイントが与えられるので、逆転は可能。
ただレースは何が起こるかわからない。奇跡を信じて、11月24日(金)に始まる最終戦、アブダビGPを待ちたい。
