今季2度目のワン・ツー・フィニッシュで終えた第10戦イギリスGPから2週間。真夏のハンガリーGPがやって来た。
例年、バカンスシーズンに行われるこのグランプリは、不思議と好天に恵まれるというジンクスがある。過去31回のF1で雨が降ったのは、たったの2回。しかも盆地に位置することから日中は気温が上がり、ドライバーとマシンは暑さと戦う必要がある。
今年も、暑くて熱いバトルが繰り広げられるのだろうか。
では、ハンガリーGPが開催されるハンガロリンクサーキットを簡単に紹介しよう。
ハンガリーの首都ブタペストの北東約20kmの山間部に位置するこのサーキットは別名「大きな浅い皿」とも呼ばれる。ちょうど小鉢の縁に観客が座り、小鉢の底を見下ろすような特異なレイアウトになっているのだ。したがって、観客席からコースのほとんどを見渡せるという、観客にとっては嬉しいレースだ。
コースの特徴は、山間部にあるためにアップダウンが他に例を見ないほど激しいこと。最終コーナーから急こう配の上りを立ち上がると、ホームストレート半ばからの急な下り坂の先にタイトな第一コーナーが控える。そこを抜けるとダウンヒルの複合コーナーから、アップヒルのブラインドコーナーへと目まぐるしい展開が続く。

全体を見れば、1周4.381kmの中に14のコーナーが組み込まれたテクニカルな低速コース。600m以上のストレートは1本のみで、スロットル全開率は55%、運動エネルギー回生を行えるブレーキングポイントが少なく、ERSの影響も中程度と、パワーユニットの性能差が出にくい。高速コースを好むF1ドライバーが多いなかでもハンガロリンクの人気はまずまずで、テクニックの差が出ることからここが好きだというドライバーも多い。
ただし、追い越しが難しいコースであることは間違いなく、予選の順位が何より重要となる。
7月29日(土)に行われた予選では、メルセデスAMGのマシンとふたりのドライバーは、この低速コースを攻めあぐんだ。
まず、予選を3位で終えたバルテリ・ボッタスは、タイヤがオーバーヒートしてしまうという悩みを抱えていた。
「セクター1、セクター2は速かったけれど、セクター3でタイヤのオーバーヒートでタイムが落ちてしまった。予選では、フェラーリのほうが明らかに速かった。ただし3位という順位は悪くないから、明日は良いスタートを切りたいね」
もうひとり、フェラーリのセバスチャン・ベッテルと熾烈なチャンピオン争いを繰り広げるルイス・ハミルトンは、予選4位という結果に納得がいかない様子だ。
「フリー走行から予選の間にかなりマシンは改善したんだけれど、ターン4でミスをしてしまった。このサーキットはオーバーテイクが難しいから厳しいレースになるだろうけれど、2列目を我々が独占できたことは悪くない。戦略とタイヤが大きな意味を持つかもしれないね」

70周で競う決勝は7月30日(日)14時にスタート。今年も気温は29度、路面温度は54度という暑いレースになった。
スタートしてすぐに他チームの接触があり、セーフティカーが導入されるも、レース序盤は予選で速さを見せたフェラーリ勢が1-2体制で後続を徐々に引き離していく。AMGの2台は先行を許すも粘り強い走りでボッタス3位、ハミルトン4位のままレース中盤を迎える。
レース中盤、上位勢がタイヤ交換のためのピットインを済ますと、ペースのあがらないボッタスをハミルトンが攻め立てる。チームメイト同士の激しいバトルの間にライバルはギャップを築いていく。誰もがそんな展開を予想した時メルセデスAMGがチーム戦略を採った。
ハミルトンのペースならば前を行くフェラーリ2台をかわせる可能性に賭けたのだ。ボッタスは46週目の第1コーナー、4位のハミルトンに3位のポジションを譲り、ハミルトンのフェラーリ追撃が始まる。ここで、もしハミルトンがフェラーリをオーバーテイクできなかったら、ボッタスに3位のポジションを“返す”約束が交わされていたという。
結局、この日のライバルはとても速く、ハミルトンもフェラーリをオーバーテイクすることは果たせなかった。そして最終ラップで7秒ペースを落とし、最終コーナーで約束通りボッタスに3位のポジションを譲った。

一連のこの展開についてハミルトンはこう振り返る。
「僕は約束を守る男だ。同時に、タイトルを正しい形で勝ち取りたいと思っている。いい行動をとっていれば、自分にもいいことが起こると信じているんだよ。サマーブレーク後にもっと強くなれれば、チームは大きく飛躍するはずだ」
一方、最終的に3位に入る表彰台に上がったボッタスは次のように語った。
「難しいレースで、僕がフェラーリを抜くことができなかったので、ハミルトンとポジションを入れ換えてチャレンジしてみた。それでも抜けなかったけれど、試してよかったと思っているよ。約束を守ってくれたルイス(・ハミルトン)とチームには心から感謝している。チャンピオン争いをしている時に、だれもが同じ行動をとるとは思わないからね。真のチームプレーヤーだ」

結果的に優勝を獲得することはできなかったものの、ドライバーとチームが信頼し合いながら連携できたことは前向きの要素だろう。
ここでひとつ、面白いジンクスがある。2005年以降、ハンガロリンクで勝利したドライバーは、チャンピオンになっていないのだ。このジンクスは今年も継続されるとしたら、このレースを落としたハミルトンに……。
第11戦を終えた時点でのドライバーズランキングは、トップが202ポイントのセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)。2位が14ポイント差でハミルトン、3位がさらに19ポイント差でボッタス。
コンストラクターズランキングは、メルセデスAMGが357ポイントでトップ。2位のフェラーリには39ポイントの差をつけている。
次戦は8月25日から27日にかけて、スパ・フランコルシャンで開催されるベルギーGPとなる。2015年、2016年と2年連続でメルセデスが優勝したスパ・フランコルシャンでどのようなレースが繰り広げられるのか。サマーブレーク後の8月27日に予定されている決勝が楽しみだ。