「ここでの優勝のなかでも最高に嬉しい。この優勝を狙っていたんだ」
レース終了後、圧倒的な強さで母国イギリスでの4連覇を飾ったルイス・ハミルトンが感慨深く語る。レース前、メディアからはハミルトンに対して否定的な意見も多かったが、終わってみればポールポジション、ファステストラップ、優勝、全周回トップのグランドスラムを達成という完璧な勝利だった。また、チームメイトのバルテリ・ボッタスも、9番手からのスタートで2位を決めるというメルセデスAMGペトロナスF1チームにとっても最高の週末となった。その模様を予選から振り返る。

F1第10戦イギリスGPは、7月14日(金)から16日(日)にかけてイングランド南東部に位置するシルバーストン・サーキットで開催された。
このコースは、、F1で最も歴史のあるサーキットとして知られ、1950年5月13日に初めてのF1世界選手権の第1戦が開催された場所である。以降、イギリスGPは、ブランズハッチやエイントリーで開催されたこともあるが、1987年以降はシルバーストン・サーキットが舞台となっている。ちなみに、1950年のF1初年度に使われたコースでいまもグランプリが開催されているのは、シルバーストンのほかにスパ・フランコルシャン(ベルギー)、モンツァ(イタリア)、モナコ(モナコ公国)だけである。
この由緒あるコースの最大の特徴は、起伏のない平坦な土地に設置されること。なぜなら、第2次世界大戦まではイギリス空軍の飛行場として使われた場所なのだ。
1980年代までは6本のストレートと緩やかなコーナーを組み合わせた、世界でも指折りの超高速コースだった。1991年に改修を受け、高速コースであることに変わりはないものの、途中でカーブの曲率が変わる複合コーナーが各所に配されたテクニカルなレイアウトに生まれ変わった。
1周約5.9kmのコースで戦うイギリスGPは、「イングリッシュ・ウェザー」と呼ばれる気まぐれな気候と風の影響によって、これまで波乱の展開となることが多かった。
コースの見せ場は超高速コーナーとなる第1コーナーと、バックストレートにあたるハンガー・ストレート。道幅の広いハンガー・ストレートのストレートエンドからストゥ・コーナーの入口にかけてのブレーキング競争が、最大のオーバーテイクのポイントとなる。

予選の土曜日。まさに「イングリッシュ・ウェザー」ともいうべき天候で開催された。午前中のフリー走行では雨がぱらついたものの、午後にはあがる。このまま予選開始かと思われたが、スタート10分前に再び小雨が降り始める。弱ウェットの路面が次第にドライへと変わっていく難しい状況のもと、13時より予選がスタートした。
予選開始後しばらくして、メルセデスAMGのルイス・ハミルトンがトップに立つ。チームメイトのバルテリ・ボッタスは、前戦オーストリアGPでダメージを受けたギアボックスを交換したことのペナルティで、5グリッド降格となる。そこでボッタスとチームは、予選でタイムの出るスーパーソフトタイヤだけでなく、決勝を見据えてソフトタイヤでもタイムアタックを行った。
ハミルトンのポールポジションを脅かしたのは、フェラーリの2台。一時はセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)に先行されたが、最後のアタックでハミルトンが底力を見せる。なんと、コースレコードを2.6秒も上回るスーパーラップを叩きだし、ポールポジションを獲得。以下、2台のフェラーリをはさんでボッタスが4位に入る。ただしボッタスは、前述のペナルティによって決勝レースを9番手スタートで挑むこととなる。
ハミルトンのポールポジションはこれで67回目。歴代1位のミハエル・シューマッハの68回まで、ついにあと一つと迫った。
予選終了後、ハミルトンは次のようなコメントを残した。
「完璧な走りをすることができた。しかもシルバーストンでの5回目のポールポジションは、ジム・クラークの記録に並ぶもの。伝説のドライバーの記録に追いつくなんて、夢みたいだ」
一方、4位に入ったもののギアボックス交換に伴うペナルティで9位スタートとなるボッタスは、こう語った。
「9番手からのスタートは理想的とはいえないけれど、順位を上げるチャンスはあると思う。僕らのマシンには間違いなくポテンシャルがあるからね。明日は全力で攻めたい」
日曜日の決勝は、午後1時にスタート。気温は21度、路面コンディションはドライだ。
スタートすると、トップをそのままハミルトンがキープ。徐々に後続とのタイム差を広げていく。10周の時点で、2位を走るキミ・ライコネン(フェラーリ)に対して、約3秒のリードを築いた。
注目すべきは、ほとんどのライバルがスーパーソフトタイヤを選択したなかで、ソフトタイヤを選択したボッタス。タイヤ交換をぎりぎりまで引き延ばす戦略を採ったのだ。この戦略が見事当たり、32周でスーパーソフトタイヤに交換した時点での順位は4位。ここからボッタスの猛追が始まった。
まずは3位のベッテル(フェラーリ)を攻略、続いて2位のライコネン(フェラーリ)をロックオン。49周目、ボッタスに差を詰められていたライコネンのマシンのタイヤを、突然トラブルが襲う。これでボッタスは2位浮上。
トップのハミルトンは、圧巻の走りで誰にも邪魔されずにチェッカーフラッグを受け、2位ボッタスとともに、メルセデスAMGペトロナスF1チームは今季2度目のワン・ツー・フィニッシュを飾った。

レース後、ハミルトンは喜びを爆発させた。
「地元での勝利は、本当に嬉しかった。毎週、ターン7のところでファンが大声援を送ってくれたからね。それにチームスタッフは、完璧な仕事をしてくれた。バルテリ(・ボッタス)の走りも印象的だった。彼のことを誇りに思うし、チームメイトであることが実に素晴らしい」
そのボッタスは、やや興奮気味にレースを振り返る。
「すごいレースだった! もちろん優勝したかったけど、これまでのレースで最高のレースのひとつ。今日は戦略といい、チーム全体でいい仕事をすることができた。非の打ち所のないレースだったと言っていいと思う」
第10戦を終了して、ドライバーズランキングでは首位ベッテル(フェラーリ)が177ポイント、それを176ポイントのハミルトンと154ポイントのボッタスが追う。ついに、ハミルトンが1ポイント差まで詰めてきたのだ。
コンストラクターズランキングでは、メルセデスAMGが330ポイントで2位フェラーリに55ポイントの差を付けている。
いよいよ次戦ハンガリーGPからシーズンも後半戦に入る。自身が得意だと語るハンガリーで、ハミルトンがドライバーズランキングでトップに立つことができるか。いまから次戦が待ち遠しい。