「今日はクレイジーなレースだった」
冷静なボッタスをしても、このような感想が出たくらい先週末のアゼルバイジャンGPは荒れたレース展開となった。また、それはボッタスにとってもF1では稀であり、劇的なゴールを迎えたことも含まれている。前戦カナダGPでは、ハミルトンのアイルトン・セナに並ぶ通算65度のポールポジション達成、メルセデスAMG ペトロナスF1チームにとって今シーズン初の1・2フィニッシュと、メルセデス・ベンツ・モータースポーツのマネージング・ディレクター、トト・ウォルフも手放しでチームを絶賛するくらい最高の週末であった。これ以上ない出来だっただけに、アゼルバイジャンGPでは、ファンであれば誰もがメルセデスAMG ペトロナスF1チームの走りに自信と期待を持っていただろう。
舞台のアゼルバイジャンは、東ヨーロッパ、カスピ海の西岸に位置する。会場となる首都・バクーは、かつてはアジアとヨーロッパを結ぶシルクロードの中継都市でもあったという。ユネスコの世界遺産に認定されている旧市街の街並みも魅力ではあるが、近年では、第2のドバイといわれるほど。近代化の開発が進み、2018年には世界一高いとされる「アゼルバイジャンタワー(1,050m)」が開業される。
そのバクーでF1グランプリが開催されるのは、昨年に続いて2度目。前回はヨーロッパGPとして開催されたが、今年は大会名がアゼルバイジャンGPに変更された。
バクー・シティ・サーキットの特徴は、まずカスピ海に面するバクーの市街地を舞台にするストリート・サーキットであること。ユネスコ世界遺産にもなっている旧市街地をF1マシンが疾駆する様子は、どこかノスタルジックでもある。
そしてもうひとつは全長が6.006kmと、ベルギーのスパ・フランコルシャンの約7.004kmに次いで長いコースであることだ。
20のコーナーが待ち受けるこのコースは、設計者のヘルマン・ティルケは「世界最速の市街地コースとなると言ったほど。平均速度は211km/h、最高速度は340km/hと予想されたが、昨年は最高速度が378km/hに達し、予選におけるF1最高速度記録を更新した。その記録は他でもない、バルテリ・ボッタスが成しえたものである。
ただし、ストリート・サーキットゆえに路面は滑りやすく、これも公道コースらしく90度の直角カーブも多い。数あるF1のサーキットの中でも最も高い技術レベルが要求される難コースであり、かつ個性的。「走りがいがある」「一番チャレンジングだ」と闘志を燃やすドライバーも多い。
金曜日に行われたフリー走行では、各ドライバーは滑りやすい路面に手を焼いた。メルセデスAMG ペトロナスF1チームのバルテリ・ボッタスもスピンやバリアとの接触を経験した。ボッタスは語る。
「タイヤの温度管理で苦労している。ルイス(・ハミルトン)のようにうまくタイヤを使うことができず、グリップを得ることができなかった」
しかし金曜日の晩、メルセデスAMG ペトロナスF1チームのチームスタッフは一丸となり夜を徹して素晴らしい仕事を成し遂げた。予選が行われた土曜日には、ルイス・ハミルトンのマシンもバルテリ・ボッタスのマシンも見違えるようなグリップを披露したのだ。
土曜日の午後5時、予選がスタート。日中の路面温度は約60度にまで達したが、夕方になると気温は26度、路面温度は47度にまで下がった。
予選Q3でボッタスが素晴らしいアタックを敢行。ターン8でわずかに右リアをバリアに接触させながらもトップタイムを記録。
ボッタスの快走に燃えたのがハミルトン。予選終了後、「Q3の最初のアタックでタイヤをロックしてタイムを失ってしまった。だから最後のラップでは大きなプレッシャーを感じたけれど、攻めるべきタイミングだったからすべてをかけて走ったよ」と語っている。
結果、最後の最後でハミルトンがボッタスに0.434秒差をつけて逆転。ハミルトンがアイルトン・セナを抜き、単独2位の通算66度目のポールポジションを達成、ボッタスも2位とメルセデスAMG ペトロナスF1チームがフロントローを独占した。
予選を終えて、ハミルトンは次のようなコメントを残している。
「ボッタスがいいタイムを出したから、自分のタイムを知って最高の気分だった。レッドフラッグ後の最後のラップはかなりのプレッシャーがあった。しかし、あのラップは完璧で、もし自分が2番手だとしても誇りに思えたはずだ。昨日は苦戦を強いられたけど、僕たちは一晩かけて多くの変更を施した。昨晩遅くまで残って今日このクルマを与えてくれたチームに心から感謝している。彼らは素晴らしい仕事をしてくれた」
一方、最後の最後で逆転されたボッタスはこう語っている。
「ポールポジションが目前だったので、落胆している。けれども金曜日の状態を思えば、優れた仕事をしてくれたチームには心から感謝したい。レースにむけて僕たちは素晴らしいスターティングポジションにいるし、決勝ではルイスといい戦いをしたいね」
6月25日(日)現地時間午後5時、51周で競う決勝レースがスタート。この時間でも陽射しは強く、気温27.6度、路面温度53度と高いままだ。
オープニングラップで早くも波乱が起こる。2位でスタートしたボッタスが、3位スタートのキミ・ライコネン(フェラーリ)と接触、右前輪にダメージを受け大きく後退したのだ。
ポールポジションからスタートしたハミルトンは、トップをキープ。トラブルでコース上に止まった車両を処理するために10周目にセーフティカーが導入されるなど、序盤からレース展開は落ち着かない。
セーフティカーが導入されていた19周目に首位ハミルトンに2位につけていたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が追突。ハミルトンは首位を守ったが、ベッテルはこの行為で、10秒のストップ&ゴーのペナルティが科された。
首位を行くハミルトンだったが、ヘッドレストが緩むというまさかのトラブルに見舞われ、無念のピットイン。9位まで順位を下げる。
反対に、大きく巻き返したのがボッタス。ファステストラップを連発して徐々に順位を上げ、最後息を飲むようなドラマが待っていた。なんと最終ラップのストレートで2位を走行していたランス・ストロール(ウィリアムズ)をゴール直前でかわし、0.105秒の差で2位となったのだ。
ドラマチックなレース展開をボッタスはこう振り返った。
「クレイジーなレースだったよ。特に僕にとってはね。1周目でパンクをして、とにかく追い越す必要があった。2回目のセーフティカー導入が助かった。そこからはとにかく全力で走ったよ。最下位からの2位は素晴らしい気分だった。大事なことはフェラーリより多くのポイントを取ることだから、その点に関してはよかったと思う」
一方のハミルトンは、「最終的に5位というこの結果は受け入れがたい」と納得できない様子だ。けれども、「でも、速さを見せることはできた。我々、チーム全員でこの痛みを受け入れ、前進していかなければいけない。自分のパフォーマンスを誇りに思うし、今週末のスピードが続くことを期待している」とすでに次のレースを見据えていた。
メルセデスAMGの監督トト・ヴォルフも、「時間を巻き戻すことはできない」と次戦オーストリアGPに気持ちを切り替えた。
「コンストラクターズ・チャンピオンを争う上でのリードを広げることができたし、パフォーマンスも確認できた。今回のレースから教訓を学び、次に活かす必要がある」と。
第8戦を終えて、ドライバーズ・ポイントではハミルトンがトップのベッテルに14ポイント差の2位、ボッタスが42ポイント差の3位。コンストラクターズ・ポイントでは2位フェラーリに24ポイントの差をつけてトップに立つ。
第9戦のオーストリアGPは、7月7日(金)から9日(日)にかけて、レッドブル・リンクで開催される。