
元・米国スピアフィッシングチャンピオンであるキミ・ヴェルナー(Kimi Werner)は、プロとしてキャリアを追求するのではなく、競技会やメダル、表彰台から離れ、シンプルな生活を送ることに決めたという。その理由を知るため、ハワイの地を訪れた。
キミ・ヴェルナー(Kimi Werner)は、スピアフィッシャー兼フリーダイバー。料理家であり、ハンターであり、アーティストでもある。
スピアフィッシングとは、素潜りで水中銃などを用い、魚類を捕える水中スポーツの1つである。
彼女は簡単な銛を使ってひと突きで魚を仕留め、数十メートルの深さまで装備なしで潜り、約5分間息を止めることができる。そしてメスのホオジロザメですら恐れない。それを証明するムービーを見て欲しい。「サメは私を獲物だと思わず、仲間の捕食者だと思っているのでしょう」
しかし最も印象的なのは、彼女が自分の好きなことをやっている点。見つけるまで時間はかかったかも知れないが、自身が選んだ道を歩んでいるのだ。
彼女は世界最高のスピアフィッシャーだったにも関わらず引退した。米国大会や国際大会で優勝し、賞賛とスポンサーシップを授与され、世界中の海で競い合った現役時代。そこに辞める理由は、何ひとつなかったはずだ。

「勝利とは少しずつ体を蝕む毒のようなもの。当時の私は、勝ち続けることしか考えていませんでした」そう言うと彼女は肩をすくめた。「そして重力から解き放たれ自由になれる場所だった海は、内なる悪魔が待ち構える場所になってしまったのです。当然、引退という決断に周囲の人間は大反対。だからしばらく、海を離れようと思いました」

彼女の海に対する愛情を知るためには、幼少期まで遡らなくてはいけない。マウイ島の田舎町で生まれ育ったキミの家庭は決して裕福ではなかったため、父は食糧を確保するために海に潜り、まだ小さかった彼女はそれを側で見ていた。高校を卒業後、オアフで料理を学び、レストランで働き始めたキミだったが、何か思い残したことがあると感じていたという。同時に「すべての食材はスーパーマーケットからやってきて、多くのものが輸入品であることに違和感を感じた」そうだ。

そして彼女は初めてのスピアフィッシング旅行に出た。本能のままに、海に潜る。「父親を思い出し、水中での動作を真似しようとしたんです」。小さくても最初の獲物を手にしたとき、人生で欠けていたものを思い出したという。「私たちは他人の夢を追い、他人が設定した目標を達成することに時間を費やしてしまう。でも自分の人生の目標は、自分で決めないと」。
友人や家族とのバーベキューでは、誰もがサラダや自家製パンなどを持ち寄る。もちろん魚は彼女の担当だ。そこに加工品や輸入品は見当たらない。「食べ物をシェアすることが大好き。それは両親が教えてくれたものであり、私が伝えて行きたいことなんです」。父とのダイビングトリップは過去の一部かもしれないが、今、キミ・ヴェルナーは幸せな場所を見つけた。第二の故郷とも言える海の近くの小さな家で、友人に囲まれながら笑っている。