She’s Mercedes meets Japan / Vol.26

日光街道 前編 ディレクター /竹工芸品収集家 /林業家  斎藤正光

竹工芸品が持つアートとしての魅力を世界へと発信

日本各地に伝わる手仕事や、受け継がれてきた技を次世代へ伝えようと、活動をしている「uraku」。彼女たちが旅のみちみちで出会う日本の美しい風景や物、事、そしてそこに集う人々のつながりを、メルセデスと共にみつめる旅紀行。女性2人ならではのロードストーリー。今回のメルセデスの旅は、立春を間近に控え暖かい日、寒い日と毎日の気温や気候が目まぐるしく移り変わる頃、春の兆しが見え隠れし始めた栃木県へ向かいます。今回は伝統工芸や手仕事を新たな視点や側面で制作、発信する方々を訪ねます。

photo / 鬼澤礼門
text&edit / 石崎由子(uraku)
tnavigator / 田沢美亜(uraku)

10年に1度の寒波で珍しく積雪した塩谷

「三寒四温」と言われるように、暖かい日、寒い日が繰り返し訪れるようになってきた立春の頃、私たちは東京の北東部にある栃木県の塩谷という場所へ向かいました。立春間近という時期にもかかわらず、その日は10年に1度の大寒波と言われた日で、全国的に冷え込み、普段積雪のない場所でも雪が降ったり積もったりという、ある意味特別な日となりました。
訪れる予定の栃木県塩谷も普段積雪はほとんどないとのことでしたが、その日は珍しく雪が降り、最寄りの矢板インターチェンジを降りると、すっかり白銀の世界。
春待ち気分だった私たちは、季節はずれの大雪で少し驚いてしまいましたが、とりあえず雪のためにタイヤ装備をし直して目的地へ向かいます。

栃木県は古くから鬼怒川流域に人々が集落を作り繁栄してきました。大和王朝創立の頃にはこの地には、毛野国と言われる国があり他の国と並び大きな力を持っていたようです。そのため県内には縄文遺跡から古墳に至るまで様々な遺跡が点在しています。江戸時代には日光街道や奥州街道など交通の要所があったこともあり、多くの人が行き交う場所でもありました。
今回訪れる栃木県の塩谷は、宇都宮市から車で50分ほど、日光東照宮へは30分ほどのところにあり、近くに鬼怒川が流れるのどかな里山が広がる地域です。

思いがけない雪景色の塩谷への旅を共にするのは、メルセデスEQの次世代プレミアムEVセダン「EQE 350+」。カラーはハイテックシルバーです。
なめらかな流線形が美しいモダンな車体に、これまでのEQシリーズを上回る走行の滑らかさが心地よい車です。走行距離もさらに延びて、少し遠出の旅でも安心してドライブが楽しめ、車内空間もかなりゆったりとしていて、快適に過ごせます。
さて、いつもの旅ではあまり目にすることのない雪景色を眺めながらドライブを楽しんでいたら、目的地へと到着です。

世界でも名の知れた竹工芸品収集家、研究家を訪ね

塩谷にあるゲストハウスに到着すると、柔らかな笑顔におしゃれで大柄な男性が出迎えてくださいました。
今回の旅でお話を伺わせていただく斎藤正光さんです。思いがけず遭遇した積雪のため雪道の走行を心配して何度も連絡してくださって、すっかり心配をかけてしまっていました。
斎藤正光さんは世界的にも知られる竹工芸品収集家、研究家でもありますが、その他にも竹工芸を中心に、日本の工芸を紹介する企画展や、プロモーションなどもディレクションされています。また現在はこの地で林業もされているそうです。
お住まいは東京都内、栃木県塩谷にはゲストハウスを持ち、2拠点で活動されていて、行ったり来たりの生活をされているそうです。
斎藤正光さんも驚いたという雪はすでに止んでいて、少し晴れ間も見え始めたなか、まずは車を立派な石造りの蔵の横に停車し邸宅の裏手にあるゲストハウスへと向かいます。
石造りの蔵は白い綺麗な石でできていて、この場所へ向かう途中で、幾つも見かけていました。この場所からそんなに遠くない地域に大谷町があるので、もしかして大谷石ですか、と尋ねてみると、大谷石ですがここの地域で採掘されるのはこの地域の名前から(住所は塩谷町船生)船生石と言うのですよ、と教えてくださいました。そんな話を伺いながら、古民家を改装した趣あるゲストハウスへと入ります。

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竹工芸品を愛でるための心地よい空間作り

斎藤正光さんに案内されゲストハウスへ足を踏み入れると、そこは別世界と言えるほどの趣と粋な空間が広がっていました。
壁、扉、引き戸、飾られている工芸品、絵、照明器具などなど、全てがうっとりするように、一つの空間をまとめ上げちょうど良い塩梅でバランス良くそれぞれの場所に配置されています。
これまで国内外で数多くの企画展、展示会、キュレーションを行なってきた斎藤正光さんだからこそ生み出せる空間作りだなと、ため息が出てしまうほどでした。
入り口を通って囲炉裏のある座敷に入ると、そこに幾つかの竹工芸品がサラリと置かれていました。
江戸時代から現在に至るまでの竹工芸品を1000点以上所蔵しているという斎藤正光さんの貴重な品々の一部ではありますが、それぞれから放たれる存在感に、それだけで圧倒されてしまいました。
気になるものを手に取ってみて良いですよと言われ、私たちもおそるおそる手に取って、その美しさを間近で見せていただきました。美しい曲線を生み出す技法や、そのものの持つ歴史、または素材など斎藤正光さんは丁寧にお話ししてくださいました。

古くから日本人の文化と共にあった竹工芸品

竹を使った道具や工芸品と言われるものは、縄文時代の遺跡からも発見されているほど、私たち日本人の生活にはかなり古くから用いられてきました。しなやかに曲がる素材である竹を偏組(へんそ)することにより、籠、笊などの入れ物にしたり、そのまま削るなどして匙、竿などにしたりと、様々な形へと変化させ生活に取り入れてきました。その汎用性から平安時代に入ると、茶事の道具として限られた人が使用する高価なものへ、また千利休の登場の頃から花籠というジャンルで美術品としても用いられるようにもなりました。
現在私たちが知る竹工芸品は大きく分けると、日常に使用する道具としての竹工芸品と、元々愛でるための美術品としての竹工芸品、その中間の道具でありながら芸術的なものがあります。どれも卓越した偏組技術から作られていることには変わりありませんが、特に愛でるための竹工芸品は技術だけでなく芸術性や、長く所蔵できるよう素材を見極め、その素材に合った美しい形を引き出す目利きの技も感じられる、日本人が誇る芸術品と言えます。
道具の竹工芸品は、竹を採取したままの青竹で作られたものがほとんどですが、愛でるための竹工芸品は長く手元に置くために、竹を乾燥、煮沸、炙るなどして油を抜き、虫が湧かないように加工したり、民家の囲炉裏端で長らく使用され燻された煤竹を使用して制作されたり、また作品自体に漆がけや人工的に作った埃を掛けて、エイジング加工をしたりと、独特の風合いと趣をかもしだすよう、さまざまな技巧を凝らした加工で仕上げられています。今回見せてくださった竹工芸品はそんな芸術品といえる貴重な品々ばかりです。

海外で高く評価される竹工芸品の魅力

実はこの芸術的な竹工芸品、昔からコレクターが国内外にたくさんいるのですが、特に近年海外で人気が高まっているのだそうです。
斎藤正光さんは国内外からの要望に応えていろいろな企画を行なっていて、斎藤正光さんと同じようなディレクター兼収集家の方達と協力して行った、ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催した竹籠展は15万人を動員し、パリのケ・ブランリ美術館でも7万人動員とどちらも記録を作ったほどです。
ブルネロクチネリ、ボッテガ・ヴェネタ、ロエベを始め様々なブランドのデザイナーやディレクターにも竹工芸品のコレクターがいて、彼らのクリエイションに少なからず影響を及ぼしているのだそうです。
竹工芸品に魅せられた海外のコレクターをはじめ愛好家たちは、純粋に造形の美しさ、美術品としての存在感、そこに潜む技術の素晴らしさへ高い評価を示していて、本来の使用方法で使用したりはしていません。素材から生み出されたアートとして価値を見出しているのです。
今回見せていただいた竹工芸品は、評価が高く、また私たちが好みそうなものを選んでくださったのだとか、小菅小竹堂と今は亡きティナ・ラッツで製作したブレスレット、早川尚古斎(はやかわしょうこさい)の帽子や、飯塚琅玕斎(いいづかろうかんさい)の籠、小原流の門下生のために作られた横田峰斎(よこたほうさい)の籠などなど、繊細ながらもダイナミックでモダンなデザインがとても魅力的です。
中には一切ジョイントがなく、どうなっているのかと尋ねてみたら、一本の竹を割いて編み込みながら成形しているのだとか、この技術の高さと素材を見極める能力には本当に驚きました。

まるで現代美術作品のような竹工芸品との出会い

竹工芸品の魅力や海外での評価の話を伺いながら、なぜここまで竹工芸品の魅力にこだわっているのか、ここに至るまでの経緯が気になり、今度はその話を伺ってみることにしました。
すっかり晴れて雪も溶け始め暖かくなってきたので、縁側でお茶を飲みながらの時間です。

斎藤正光さんはこの場所で生まれ、高校を卒業すると同時に東京の大学に入学します。大学在学中にレコード会社で働き始めその後ミュージシャンのマネージャーとして活動されていたのだそうです。
27歳の時に一度栃木に戻った時に、たまたま出会った竹工芸作家さんの工房を訪れ、竹工芸品への考え方が変わったのだそうです。実はその竹工芸作家さんは現在、人間国宝となった栃木県出身の藤沼昇さんで、彼の工房で竹工芸作品を見た時「これはまるで現代美術だ」と感じそのことを伝えた時、藤沼昇さんは「現代美術ってなに?」と素朴に答えたのだそうです。その受け答えにも、「この人は現代美術を知らないのにこんなアーティスティックなものを生み出すんだ」とさらに衝撃を受けたのだそうです。
それから斎藤正光さんは、竹工芸品の世界にのめり込み、少しずつ展覧会などの企画を本業の傍ら行い始めます。40代に出会った、アメリカの有名な竹工芸品収集家ロイド・コッツェン氏からの依頼で、日本における彼の展覧会を行うという仕事をきっかけに、収集も始めることとなり、どんどん収集作品は増えていき前述もしましたが、今では1000点を超える作品を所蔵し、その所蔵作品を使用しながら竹工芸の魅力を国内外に発信する活動を行なっているのだそうです。

日本の伝統工芸品はたくさんあり、それぞれ素晴らしい技術と芸術性を持っていますが、竹工芸品に魅せられた理由はどんなところですか、と斎藤正光さんに尋ねたところ、「征服できない美術の面白さです」と語ってくださいました。
竹はしなやかでいろいろな形になることはなりますが、その素材によって曲がり方やくせ、方向は違います。
その素材を見極め、対話し、折り合いをつけながらちょうど良い塩梅のところで形を作りあげ作品へと成形されていくのです。その素材自体を征服しすぎず、折り合いをつけながら決めていく様は、極めて日本的でとても魅力的だと感じるのだとか。
繊細で、高度な技術の奥には自然と対話し調和する私たち日本人の心意気が潜んでいるのかもしれません。
作家の個性を直接的に強く表現するのではなく、対話し折り合いをつけてさりげなく表現していく。
その姿勢は、表に出ることなく裏方から、しかし強い思いを持って、国内外のマーケットの動向を読み取り竹工芸品の価値を高めている斎藤正光さんの姿と重なります。
そしてそれは、竹工芸品の作品としての芸術性を高めた立役者、飯塚琅玕斎の姿にも少しリンクしているかのようにも見えます。

斎藤正光さんも作品を数多く所蔵している飯塚琅玕斎は、大正から昭和にかけて活躍した竹工芸作家で、それまで茶道の世界で花籠など美術品といえども道具であった竹工芸品を、愛でるためだけの芸術品にまで押し上げた作家なのだそうです。元々画家志望だった彼は海外のアート作品などにも触れていて、美意識だけでなく芸術品を取り巻くマーケットにも詳しかったようです。
飯塚琅玕斎は竹工芸の持つ可能性を新しい領域まで広げ、結果的に現在もその領域を追従する作家の作品が注目されています。また彼は道具としての竹工芸品の技術や技法も取り入れた作品を制作するなど、今ある技術に新しいものを取り入れ時代にのせていくマーケティングの能力にも長けていたのかもしれません。

作家とディレクターと立場は違えど、竹に魅せられた彼らは二人とも、竹のようにしなやかにでも芯は強く決して折れることなく、折り合いをつけながら新しく世界を広げていっているようです。そんな姿勢はもしかしたら、私たち日本人がゆっくり生真面目に培ってきた精巧な技術と、美意識を確実に未来につなげ残していくために必要なのかもしれません。ふとそんなことを思い、気がつけばもう陽が傾いていました。

施設データ

斎藤 正光

斎藤正光

saito@takekogei.com
*ゲストハウスの一般公開はしておりません

<urakuプロフィール>
https://urakutokyo.square.site
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とアパレルブランドのプレスやディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)の2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えていく事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。また梅仕事など日本の食文化を伝えるため栽培から生産まで行い、その際に出る剪定枝を使用した草木染め事業もスタートするなど、手仕事と循環をテーマにしたライフスタイル提案も行っています。

<Special Thanks>
YLÈVE (https://www.yleve.jp):Coat、Pants、
quitan (https://www.quitan.jp) : Tops、shirt

ABOUT CAR

EQE 350+

メルセデス初となる電気自動車専用プラットフォームを採用したミドルサイズセダン。90.6kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、その航続距離は624㎞*。ダッシュボード全面に広がるディスプレイ「MBUXハイパースクリーン」をオプション設定。車載バッテリーを家庭用の電源として使用できるV2Hにも対応する。

*WLTCモードでの一充電走行距離の数値。定められた試験条件のもとでの数値のため、お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法(急発進、エアコン使用等)、整備状況(タイヤの空気圧等)に応じて値は異なります。電気自動車は、走り方や使い方、使用環境等によって航続可能距離が大きく異なります。

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