She’s Mercedes meets Japan / Vol.26

日光街道 後編  木漆工芸家 松﨑融、松﨑修

伝統に縛られず、漆の持つ魅力と可能性を広げる

日本各地に伝わる手仕事や、受け継がれてきた技を次世代へ伝えようと、活動をしている「uraku」。彼女たちが旅のみちみちで出会う日本の美しい風景や物、事、そしてそこに集う人々のつながりを、メルセデスと共にみつめる旅紀行。女性2人ならではのロードストーリー。栃木の旅最後となる後編は、宇都宮から車で1時間ほど東に移動し、陶芸の街として有名な益子町の隣、茂木町へ向かいます。この地で伝統の漆工芸の技術にとらわれず、漆そのものの魅力について親子二代に渡り追求し続けている、木漆工芸家の工房を訪ねます。

photo / 鬼澤礼門
text&edit / 石崎由子(uraku)
navigator / 田沢美亜(uraku)

益子町の隣、茂木町へ

前回に引き続き栃木県の旅後編は、中編で訪れた宇都宮の街から車で東へ1時間ほど走らせ、茂木町へと向かいます。ここ茂木町は、陶芸で有名な益子町の隣に位置し、サーキットや、その周辺のアウトドア施設があることでも有名です。のどかな田畑が広がり、所々にゴルフ場のサインもあり、緑豊かな場所です。
ここまでくると雪の影響はあまり感じられず積雪も見られず、安心して車を走らせます。

今回も前回に引き続き旅を共にするのは、メルセデスEQの次世代プレミアムEVセダン「EQE 350+」。カラーはハイテックシルバーです。
メルセデスEQ初のミドルセダンタイプのEQE 350+はスポーティでモダンな車体が特徴で、フロントからバックにかけて流れるような滑らかなシルエットが美しい車です。
安定した静かな走行はもちろん、車内インテリアもデザイン性と使いやすさを追求し、心地よい空間を実現し、快適なドライブをサポートしています。
特に大型のフロントディスプレーにさまざまな操作を集約し、すっきりとシンプルな空間ながらも痒い所に手が届くような気配りは秀逸です。「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」もさらに進化していて、なんだかもう一人の旅のお供といった感覚に陥るほどです。
今日は晴れ間も見えてきて、ルーフを開けてドライブしたくなったので、「ハイ、メルセデス!」と話しかけてお願いしてみます。
さて明るい日差しを感じながらドライブを楽しんでいたら、趣のある大きな木造りの門が見えてきました。いよいよ目的地へと到着です。

木地切り出しから塗りまで一貫して行う木漆工芸家

門をくぐり車を降りると、今回お話を伺う、松﨑融さん、修さんのお二人が出迎えてくださいました。
松﨑融さんは木材の選別から、木をくり抜き成形し漆をかけるところまで全て一貫して行うという作品づくりを50年ほど続けている木漆工芸家で、力強さと荒々しさの中に、温もりと繊細さも併せ持つ作品が魅力的です。息子である松﨑修さんは、お父さんの背中を見ながら育ち、大学卒業後一度就職したのち2005年からこの道に進み日々学びながら独自の作品を制作されています。

作品が完成するまでの全ての工程を行っているため、広い敷地内にそれぞれの作業を行う工房が点在しています。その全てを今回拝見させていただけるとのことで、私たちはワクワクしながらご挨拶を交わします。
お二人とも柔らかく穏やかな印象で、作品の持つ力強さはどのように生まれてくるのか興味津々です。
まずは、素材である木材を保存してある場所とその横にある大まかに切り出す工房から説明します、とのことで母家の裏手にある工房へ移動します。

裏手には古材も合わせてさまざまな樹種、形の木材がたくさん置かれている倉庫のような建物がありました。
主には、けやき、とち、くり、なら、が多いそうで、ここに入れてからしばらく寝かし、ゆっくりと乾かし水分を抜き、木が歪んだり曲がったりする現象、「動く」ということがほぼなくなるようになるまで待つのだそうです。
十分おいた木材は、作りたいイメージから大まかな余白を残し、機械で切り出します。
ここでいくつか切り出した木地は、また少し寝かせて落ち着かせるのだそうです。

自らの感覚で調整する力強さと繊細さのバランス

先ほど切り出した木地を数年寝かせ、その後はくり抜いていくのですが、今度はその作業をする工房へ移動します。なんとなく完成品がイメージできるような形になった切り出された木地を、力強くのみで掘り出し、くり抜いていきます。木屑が周りに飛び散るほどの力強さなのですが、細かなカーブの部分や、くり抜く角度など繊細な部分も見事で、その技術の深さに驚いてしまいました。ここでまたある程度くり抜き、全体の形も整えたら、また少し寝かせ、最終成形の工程に入りますが、それはまた隣の工房での作業となるので、また場所を移動します。

移動した最終成形の工房にも、先ほどの工房で整えた制作途中の木地がたくさん寝かされていて、最終成形されるのをそれぞれが待ち侘びているようでした。
松﨑融さん、修さんはそれぞれ、頃合いの良い物たちを選び、最終の成形へと進んでいきます。
ここでは、もう少し小さなのみと小さな鉋を巧みに使って綺麗に整えていきます。指で表面を触り繊細な曲線、窪みなどを感触で確かめながら作業を行なっているのだそうで、先ほど同様、ここでもその技術力の高さには見入ってしまいました。
くり抜きから、仕上げに至るまでの手作業の工程で、2人が使用しているのみや鉋は、全て使いやすいように刃の角度や、形、柄の部分までも、自分たちで作り使用しているとのこと、手作業ならではの道具へのこだわりは、たくさんの作品を作り出してきたからこそ積み重ね、研ぎ澄まされた自らの感覚がいかに大切なのかを感じずにはいられませんでした。

絵を描くように塗る漆

さて綺麗に成形まで終えた木地は、最後に塗りの工程へと移ります。
私たちも塗りの工房へ移動し、直近でその様子を見せていただくことになりました。
松﨑融さんの塗りの様子は、一般的な漆塗りの様子とは少し異なります。
それは彼の作品の表現の仕方によるものでもありますが、均一にむらなく、塗料としての漆が木地をつるんと包み込むようにきちんと塗るのとは違い、刷毛目や濃淡が作品の表情として出るような塗り方をします。
「刷毛を払う音がしますよ」と、松崎修さんから聞いていたのですが、本当に刷毛の音が工房に響き、塗っている様子はとてもリズミカルでまるで絵を書いているように見えます。
そしてそれはとても力強く、作品から感じられるエネルギーは、くり抜きや掘りだけでなくここでも込められているのだなと感じます。
漆を塗って、磨き(研ぎ)、また漆を塗るという工程をここでは何回も繰り返し、こうしてやっと一つの作品が仕上がります。
この重ね塗りの回数は作品の見せる表情によっても違いますが、25〜6回は重ねるのだそうです。

思いや祈りが込められた釉薬がかかった陶器のような木漆器

一通り工程を見せていただいた後は作品の並ぶショールームへ移動し、作品をじっくり見せていただきながら、もう少し詳しくお話を伺うことにしました。
蔵のような建物の中は作品のショールーム兼、作品保管場所となっていて、2人の作品がたくさん並んでいます。力強く、それぞれが語りかけるような表情の奥に、繊細な曲線が美しい作品たちが、語りかけてくるようです。
木材を切り出すところから漆塗りまでの工程を見せていただいたので、作品が放つ独特の印象がなぜ生まるのかという謎が、解けたような気持ちになりながら、一つ一つ手にとり触れてみて、質感もゆっくり確かめてみました。手の中に入れるとお椀などは馴染みがよく温もりを感じます。
均一に綺麗に煌びやかに仕上げられた漆とは違う、温もりと生命力のようなものが松﨑融さん、修さんの作品からは強く感じられます。

漆の歴史はとても古く、およそ9000年前の縄文遺跡から漆の製品は出土しています。海外では「ジャパン」と呼ばれ日本が起源ではないかとの説が今では有力とされています。
松﨑融さんは、現在多くみられる安土桃山の頃に確立された漆器の姿ではなく、縄文の時代まで遡り、その頃のように、思いや願い、祈りが込められているような漆器の表現を目指したいのだと語ります。
この長く日本人が親しんできた優秀な漆という塗料を使った表現方法の一つとして、松﨑融さんは釉薬のかかった陶器のような作品をイメージし、またそのような陶器と同じ食卓に並ぶようにと木漆器を制作されているのだそうです。

自由な発想で伝統的素材に新たな可能性を

作品から受ける、生命がそこにあると思える感覚は、松﨑融さんの作品作りへの姿勢にあるのだなと納得していたら、奥様が「お昼ですよ」と声をかけてくださいました。
せっかくなので、作品を使っていただきたいと奥様が手料理を用意してくださっていました。
食卓には綺麗に盛り付けされた料理が並びます。実際にお料理が盛り付けられるとさらに魅力が増す作品だなと改めて感じます。もちろん味も抜群の美味しさで、奥様の温かい気持ちが心に沁み入ります。
食事をしながら和気藹々とお話をしながら、この道に進んだ経緯なども松﨑融さんに伺ってみることにしました。

松﨑融さんは祖父や父親の縁から玉川学園で学生時代を過ごします。祖父は中国文学の教授、父親は戦前には日本画家、戦後は玉川学園で絵を教えるなどし、のちに編集の仕事などをされていたそうです。
そんな2人の血を受け継いでか、幼い頃からデッサンをしたり、焼き物をしたり、木工彫刻をしたり過ごしていて「どうしてって言われると難しいけど、人との出会いや運かな」と言われるように、強く漆の作家を目指していたわけではなく、興味のある方向へ進んで行ったら漆と出会ったのだそうです。
アート活動の他に、実は野球にも打ち込んでいて、玉川学園では野球の監督までされていたほどでしたが、30歳の頃から木工の世界に入り始め、独学で漆の勉強を始めます。特別な師匠はいなく、その都度漆の職人などに学び、また素晴らしい縁に巡り合いながら一つ一つ目標をクリアして今のスタイルを築き上げます。
漆の師匠に弟子入りしていたら今のような作風ではなかったと、技術がなかったからこそ伝統的な漆工芸品制作ではない方向へ目が向き、漆という塗料の可能性を広げた表現へ向かったのではないかと語ります。

とはいえ、すぐには売れるようにはならず、いろいろ苦労をされたそうですが、父親の援助があったり、叔父からは原材料の仕入れ先を紹介してもらったり、陶芸家の島岡達三さんから展示などのノウハウを教わったり、と縁のつながりで救われたのだとか。その後、季刊銀花で誌面にて取り上げてもらえたことや、芹沢銈介さんの目に留まり紹介してもらったことなどにもつながり作家として自立し、子供4人を育てることができたのだそうです。

今では長男の松﨑修さんが同じ道に進み、背中を見ながらまた独自の漆の世界を表現されています。
何もないところから始めた自分とは違う彼の眼差しから見る世界が、今後また新たな展開を広げていくのだろうなと、父親の目線で楽しみながら見つめているのだそうです。
また松﨑修さん本人も、父親とは違う何かが見えてくるのかもしれないな、と思いながら日々制作に励んでいるのだと語られていました。

伝統的な漆工芸から逸脱し、縄文の頃のプリミティブなものづくりを目指すことで、格式ばってしまった漆の世界の可能性を広げることになり、漆という塗料の魅力を大きく引き出す作品を生み出すこととなった松﨑融さん、そしてその思いを引き継ぎながらさらに新しい世界を模索する松﨑修さん。
親子二代に渡る、木漆工芸家の姿は、伝統を残すということに縛られて、進化をとどめたり狭めたりしてしまい、結果的に市場から求められなくなってしまっている伝統工芸や芸能の世界のこれからにとって、大きなヒントになるのかもしれないなと思いながら、木漆器のある食卓に流れる温かく穏やかな空気に、時間が経つのも忘れ身を委ねていました。

施設データ

木漆工芸家 松﨑融、松﨑修

木漆工芸家 松﨑融、松﨑修

〒321-3626 栃木県芳賀郡茂木町飯955
TEL 0285-65-0409
o-matsuzaki@meto-teno-koubou.com
*店舗ではありませんので詳しくはお問い合わせください

<urakuプロフィール>
https://urakutokyo.square.site
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とアパレルブランドのプレスやディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)の2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。また梅仕事など日本の食文化を伝えるため栽培から生産まで行い、その際に出る剪定枝を使用した草木染め事業もスタートするなど、手仕事と循環をテーマにしたライフスタイル提案も行っています。

<Special Thanks>
YLEV (https://www.yleve.jp):Coat、Pants、
quitan (https://www.quitan.jp) : Tops、shirt

ABOUT CAR

EQE 350+

メルセデス初となる電気自動車専用プラットフォームを採用したミドルサイズセダン。90.6kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、その航続距離は624㎞*。ダッシュボード全面に広がるディスプレイ「MBUXハイパースクリーン」をオプション設定。車載バッテリーを家庭用の電源として使用できるV2Hにも対応する。

*WLTCモードでの一充電走行距離の数値。定められた試験条件のもとでの数値のため、お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法(急発進、エアコン使用等)、整備状況(タイヤの空気圧等)に応じて値は異なります。電気自動車は、走り方や使い方、使用環境等によって航続可能距離が大きく異なります。

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