She’s Mercedes meets Japan / Vol.20

東海道 後編  ひのめ  上谷朋大

若きシェフに引き継がれた「考えて食べる料理」

日本各地に伝わる手仕事や、受け継がれてきた技を次世代へ伝えようと、活動をしている「uraku」。彼女たちが旅のみちみちで出会う日本の美しい風景や物、事、そしてそこに集う人々のつながりを、メルセデスと共にみつめる旅紀行。女性2人ならではのロードストーリー。Vol.20の最終話となる後編は前、中編に引き続き三重県亀山市にある、趣ある街並みが残る関宿を訪ねた時のお話です。

photo/鬼澤礼門  text&edit/石崎由子(uraku)  navigator/田沢美亜(uraku)

三重県の素材が楽しめる古民家レストラン

ちょうなはつり職人の向井さんの工房で時間が経つのも忘れお話を伺っていたら、もうすっかり日が傾き始める時間になっていました。今夜は「而今禾(Jikonka)」の米田さんのご案内で、同じく亀山市にある野菜を中心に美味しいお料理をいただけるレストランへ伺います。
米田さんとはお店で待ち合わせです。
今回も前回に引き続き快適な移動を支えてくれるのは、メルセデス・ベンツ B 200 d、カラーはデニムブルー。
古くからのこる決して広くない旧街道や、その間をつなぐ細かな道もストレスなく進みます。日が傾き少し肌寒くなってきたので「ハイ、メルセデス!」と語りかけてシートヒーターをつけて出発です。包み込むように暖かくなるシートヒーターは、冷えが心配の女性にはとてもありがたい機能です。
これから訪れるレストランは、古民家の蔵を改装し、若きシェフが三重県の食材を巧みに使用した、おいしいお料理をいただけると評判の「ひのめ」というお店です。向井さんの工房から15分ほど短いドライブを楽しんでいたらお店に到着です。

思いを引き継ぎつなげていく店

お店の看板を見つけ車を降りるとそこは、緑豊かなお庭が広がり、お店のエントランスへと続いていました。お庭にはさりげなく野菜やハーブが栽培されていて、蜂蜜をとる巣箱も置かれています。
ここで採れるお野菜も使っているのかなと、期待は広がります。
お庭の奥の古民家に暖簾が見えていて、風にゆったりと揺れています。暖簾を潜ると土間になっていてお店へと続いていました。築100年ほどの古い蔵を改装したというお店は、薄明かりが心地よくゆっくりした時間が過ごせそうです。
お店に入ると、而今禾(Jikonka)の米田さんが先に到着されたようで、席に座って待っていらっしゃいました。

実はこのお店、もともとは米田さんの妹の岡田桂織さんが営まれていた、有機野菜を中心としたこの辺りでは評判のレストラン「月の庭」だった場所で、思いがけない縁が重なり、上谷朋大さんがその思いを受け継ぎ、「ひのめ」をオープンさせることになったのだそうです。
米田さん姉妹にとっては息子とも言えるような年齢、平成生まれ、三重県鈴鹿市出身の上谷朋大さんの作り出すお料理は、驚くほど美味しくまた独創的でありながらも、この地域の食材の魅力を存分に活かして楽しめる魅力に溢れているのだとか。
米田さんがぜひ体験して欲しいと私たちを紹介してくださっての訪問となりました。

美味しく、楽しく、心を和ませる空間

初めましてのご挨拶をした後、席に着いて早速お料理が始まりました。
こちらのメニューはお昼のコースと、夜のコースがあり、どちらも毎月変わります。
ベジタリアンコースもあり、事前に伝えるとお客様の嗜好やアレルギーなどにも対応していただけます。どのコースもこの土地のものを中心に、季節に合わせた旬のものを上谷朋大さんの、お客様に喜び、楽しんでもらいたいという思いから生まれるアイデアで繰り出されるお料理です。

私たちが「ひのめ」を訪れたのは秋の中頃で、秋の食材を中心に、上谷朋大さん特有のスパイス使いと、食材の組み合わせで、想像を超えるようなバランスのお料理を提供してくださいました。
フルーツトマトには藍の種を合わせてあったり、スープもお豆やサツマイモなど丁寧な作業でまとめられていたり、きゅうりのサラダは食感が複雑で美味しいだけでなく、楽しい一皿、その他にもメインのパスタに、デザートまで6種の料理をいただきました。
どれも言葉にしようとすると単純な表現になってしまうのが惜しいのですが、驚きと楽しみが体験できてほんとに美味しく、滋味深いお料理でした。

この記事が掲載される3月のメニューは「ひのめ」のホームページでもご覧いただけますが、少しだけご紹介すると「新玉ねぎのオニオングラタンスープ」「初春のタブレと辛味野菜」「茹で鶏の落花生ソース」などです。メニューを聞いただけでワクワクしてきます。
また、ぜひ訪れてお食事したいと思う、心に残る時間となりました。

「料理を作ること」への思い

こんな素晴らしいお料理を作る上谷朋大さんが、料理に興味をもったきっかけは、祖母にお味噌汁を作ってあげた時に喜んでもらえたこと、なのだとか。その後中学生の頃にはお菓子作りにはまり、作っては友人に食べてもらったりしていたのだそうです。
割と早い段階で料理の道に進もうと決心し、大阪の有名な料理学校へ進みます。卒業後は大阪のミシュランの星獲得のフレンチレストランへ就職しますが、24歳の時に、ふと、もう少し広い世界を見てみたいと思うようになり、オーストラリアへ単身渡ります。
コーヒーが好きだったので、まずはコーヒーの聖地とも言えるメルボルンへ。その郊外のファームで半年間働き、その後シドニーのアジアンフュージョンのレストランで半年間働きます。
この時に経験した、食に関係する新たな発見や喜び、またそれとともに浮かび上がった疑問や、問題点などが、今の「ひのめ」の哲学のもとになっているのだそうです。

ファームでの体験は、動植物を育て、それらをいただくということを改めて実感し、自分が知らなかったことがたくさんあったことを思い知らされます。素材となるそれぞれの命の大切さや、それらを育む人たちの覚悟のようなものを体で感じ様々な思いが湧き起こっていったのだそうです。
その後シドニーへ移り、現地でも有名なレストランで働いた時に、ファームで感じた思いがさらに確固たるものへと発展して行きます。それは料理を作る際に素材の一部しか使用せず捨ててしまうなど、贅沢なものを求める人の欲望を実現化したような現在の高級レストランの姿に違和感を感じ、自分が進みたい「料理を作る」こととは大きく違うことがしっかりと見えてきてしまったからなのだそうです。

考えて食べる料理

さて、オーストラリアでの経験を終えて帰国した上谷朋大さんは、地元でアルバイトとして入ったレストランでの出会いと縁がつながり、まるで導かれるように「ひのめ」を始めることになります。
しかもこの場所で以前営まれていた「月の庭」のコンセプトは、自分のやりたいことにとても近く、そのオーナー(米田さんの妹、岡田桂織さん)が今もお庭で育てている、無農薬のハーブや野菜を自由に使用することができるという好条件まで整っている環境は、まるで上谷朋大さんの背中を押してくれているかのように感じました。
実際、米田さん岡田さん姉妹には、いろいろ教えていただいたり、お世話をしていただいたりと、刺激と学びをたくさん受けているのだそうです。

そんな上谷朋大さんの目指す料理の姿とは、一言でいうと「考えて食べる料理」なのだとか。
美味しいや感動だけでなく、食べることによって、食材や育てた人たちのストーリを思い起こしたり、またそのことによって会話や、対話が生まれたりして、ただ、欲望のために食べるのではなく様々なことを考えて未来へとつないでいくことができる料理を提供して行きたいと語ってくださいました。
その考え方を実現するために、無農薬野菜など栽培方法を考えて育てられた地域の野菜や、餌や環境などに配慮して飼育された動物や鳥のお肉を使用したり、またそれぞれの環境や、レストランを通して循環型のスタイルを保てるように努力したりと、日々様々な取り組みを行っています。

美しい街並みともに引き継がれる「心」

思いがけない縁で、自身の思い描くコンセプトで料理を提供することが実現し、挑戦できている上谷朋大さんが、この先さらに取り組んでいきたいことは「食育」だそうです。
大量生産、大量消費が広がり、核家族化が進んだ現代社会が抱える問題である、食べる物がどのように作られていたり、どのような思いが込められているかを、知ることができないことや、そもそも加工された食品ばかり見ていて、実物すら知らなかったりすること。またその結果環境が破壊されていることや、格差社会を生み出している事実に目を背けていることなど、未来につながる活動を子供たちに伝えて行きたいと語ります。
そうすれば食べ物に感謝し、食べ物を生み出す大地や環境にも感謝することを忘れないはずです。
昔から伝わる、梅干しや漬物、お茶の焙煎のように、手間だけど、丁寧に大切に家庭で施されてきた作業などを伝えることも、そんな考え方を伝えるためには必要なのではと思います。
「考えて食べる料理」の延長線上にある「食育」、それはこの場にあった「月の庭」でも同じように考えられ、米田さん岡田さん姉妹のお二人とも、以前から取り組んできたことでもあります。
丁寧に美しく暮らす、それは大地に感謝し食べ物だけでなく物を大切にする心、現代の日本人が忘れてしまった生き方が、今この場所で、平成生まれの若いシェフにぶれることなく引き継がれ、彼らの世代に噛み砕いて伝えられ、またその先へつながっていくのだと思います。
古くからのこる美しい街並みの中で、建物だけではなく「心」までもがしっかりと受け継がれている様子をこの地で触れることができて、お腹も心もいっぱいになり温かな気持ちで帰路につきました。

店舗データ

ひのめ

ひのめ

〒519-0153三重県亀山市西町438
tel: 0595-83-4769
https://hinome.info
定休日:昼餉 不定休
夕餉 火、水、木
営業時間 : 昼餉11:00 – 15:00(L.O.14:00)
夕餉18:00 – 22:00(L.O.20:00)
専用駐車場はございます

<urakuプロフィール>  http://urakutokyo.com/
ファッション誌や広告などで活躍中のモデル田沢美亜(たざわみあ)とプレスやディレクションを務める石崎由子(いしざきゆうこ)2人で立ち上げたユニット。
日本各地に残るぬくもりある手仕事や確かな技、それら日本人が大切にしてきた美意識や心を現代の生活や次世代に残し伝えて行く事を目的にしています。またそこから海外への発信、架け橋になるようにと活動を続けています。

<Special Thanks>
jikonka:Tops,Pants

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